記事

関税撤廃率

もう、何度も同じことばかり書いていますが、これからの経済連携協定における関税撤廃に考え方について、私が相場観だと思っていることを再度書いておきます。

 日本農業新聞にこういう記事が出ていました。これまで締結した経済連携協定で一度も関税撤廃したことがない品目です。これを見ていただければ分かりますが、例えば「コメ」と言っても品目としては1つではないのです。関税表では非常に細分化されており、その細分化された品目を足していくと関税の世界ではこういうことになります。

リンク先を見る

 実は現職時代、この手の資料すらお役所からは出てきませんでした。資料請求したら「1品目であっても関税割当で一次税率、二次税率で関税番号を分けたりしており、一概に撤廃したことがない品目数を確定することはできない」というようなお返事でして、持って来ていただいたのは関税表をそのままコピーしたものでした。そういうふうに考えると、これ自体、本来は「あまり出したくない資料」なんだと思います。

 まあ、それはともかくとして、この834品目に加えて、経済産業省所管の皮革・靴は一度も撤廃したことがないものが数十品目あり、これを全部足し合わせるとおよそ900品目くらいが今後の関税撤廃の中で焦点になってきます。そして、関税表にある品目は総計で9000くらいですから、全品目の内、10%程度が一度も関税撤廃したことがないということになります。なお、表の一番最後の全農林水産品の中で35%というのは、あまり意味のない指標ではあります。そもそも、通商の世界では林産品や水産品は、農産品とは別の扱いでして、どちらかと言えば鉱工業品に近い方に寄せられています。農林水産省が農林水産関係の議員に対する資料ですので、こういう整理になるのでしょうが、本来オール・ジャパンで考えるなら皮革・靴も入れた上で全体9000品目の中で検討されるべきものです。

 さて、これをベースにどういう検討をすべきかということです。色々な議論があっていいと思います。ただ、これまで日本が経済連携協定を締結してきたのは、途上国か、先進国でもあまりハイスタンダードを目指さない国ばかりでした。そういう国とやってきたから、10%程度をいわゆる「聖域(関税撤廃から除外するという意味で)」にしてこれたわけです。しかし、これからはTPPであろうが、日EUであろうが、日中であろうが、日韓であろうが、日中韓であろうが、そういう発想では一切の経済連携協定は進まないでしょう。何故なら、先進国の中ではそもそもハイスタンダードな経済連携協定が通常であり、それに慣れた韓国、既にハイスタンダードな経済連携を締結している中国も含め、関税撤廃率でも相当にハイスタンダードなものでないと交渉にならないでしょう。

 そういう中、私が「最低限のライン」と思っているのが「95%」です。「根拠を出せ」と言われると、特段のものはありません。長らく通商問題に携わったものとしての「相場観」としか言いようがないのです。上記にあるように、900品目で全体の10%ですから、5%を関税撤廃から除外するとすると、除外できるのは450品目程度、関税撤廃に踏み出すものが450品目程度にそれぞれなります。私の中にも複雑な感情がありまして、国内的には「95%まで行けば結構スゴい」と思うわけですが、国際的には「これがスタートラインだろうな」という思いです。諸外国の経済連携の世界はそういうものです。

 したがって、これからの国内の作業としては「仮に95%までやろうとするなら、どれが撤廃の対象となるのか」ということを、国内対策を含めて検討しておくべきです。勿論、交渉ですから、いきなりこちらから最初にドンっと出すのではなく、あくまでも交渉の流れの中でメリットを確保しながらやっていくべきものであることは言うまでもありません。関税、投資、政府調達、知的所有権、色々なところで取りたいものがあります。全体としての便益をマックスにするための戦略が必要です。

 そして、頭の体操的に「97%(270品目除外で630品目は撤廃)だったらどれか」、「99%(90品目は除外で810品目は撤廃)だったらどうか」といった検討だけは内部的にしておくべきですね。何度も言いますが、そこまでやるかどうかは交渉次第です。ただ、これも一つの危機管理でして「悲観的に予測し、楽観的に行動する」というその要諦にかんがみれば、内部作業的にはやっておく意味のある作業です。日本の文化の中では「見たくないものは見ない」というところがあり、こういう作業をすること自体に「撤廃を前提としたけしからん作業」と非難する向きがありますが、別にそうではありません。瀬戸際に来てから、何の準備もないままドドドッと押し切られたかたちを演出するやり方を好む人がいますが、それですと(本来よりも更に)失われる国益があるということです。

 ただし、これはとてもではありませんが、オープン・プロセスではやれませんし、やっているという事実自体を公表することもできません。本当に政権の奥の院で秘密裏にやらざるを得ない作業です。しかも、場の設定の仕方が難しくて、物資を所掌する農林水産省、経済産業省が主体となるかたちでやるのもダメです。内閣官房に明確な権限を与えた上で、総理・官房長官の指揮下でやらせるのが一番いいと思います。

 「守るべきものは守る」、本当にそう思います。だからこそ、何でもかんでも一緒くたにするのではなく、きちんと順位づけをしておくことは必要です。

あわせて読みたい

「貿易」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ホロコースト揶揄を報告した防衛副大臣に呆れ 政府のガバナンスは完全崩壊か

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月23日 10:46

  2. 2

    天皇陛下の開会宣言に着席したまま…菅首相に「不敬にも程がある」と非難の声

    SmartFLASH

    07月24日 08:58

  3. 3

    橋本会長、「選手のプレイブック違反」証拠をお見せします 出場資格を取り消せますか

    田中龍作

    07月23日 08:33

  4. 4

    バッハ会長“長過ぎスピーチ”で…テレビが映さなかった「たまらずゴロ寝」選手続々

    SmartFLASH

    07月24日 09:20

  5. 5

    天皇陛下と同列?五輪開会式でのバッハ会長の振る舞いに違和感続出

    女性自身

    07月24日 11:55

  6. 6

    感染爆発は起こらないことが閣議決定されました

    LM-7

    07月23日 22:45

  7. 7

    自民党で相次ぐ世襲の新人候補者 3つの弊害を指摘

    山内康一

    07月24日 09:24

  8. 8

    前例を覆した開会宣言 政府の緊急事態宣言よりも感じる「重み」

    階猛

    07月24日 10:39

  9. 9

    退職金や老後資金を吸い上げる「ラップ口座」の実態

    内藤忍

    07月24日 11:33

  10. 10

    五輪めぐる批判と応援 「矛盾」と切り捨てる必要はない

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月24日 09:00

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。