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緊張高まるベラルーシ・ポーランド国境


写真:ベラルーシからポーランドの森に渡った後、亡くなった37歳のイエメン人亡命者の葬儀( 2021年11月21日、ポーランド・ボホニキ) 出典:Photo by Maciej Moskwa/Getty Images

村上直久(時事総研客員研究員、長岡技術科学大学大学院非常勤講師)

【まとめ】

・ポーランドにベラルーシが中東からの移民を送り込んでいるとされる問題で、EUはベラルーシとロシアを非難。

・EUは外相理事会で、ベラルーシに対する制裁措置の拡大を決定。

・ベラルーシ経由EUルート」で来る移民が減れば、ベラルーシにとって移民は国内問題になる。

欧州連合(EU)加盟国であるポーランドに隣国ベラルーシが中東からの移民を意図的に送り込んでいるとされる問題でEUは、ベラルーシとその背後にいるとされるロシアがEUのベラルーシに対する制裁の報復として、中東から移民を航空機で首都ミンスクに呼び寄せ、ポーランド国境まで連れて行き、不法に同国に越境させようとして混乱を引き起こそうとしていると非難している。これをベラルーシは否定。EUはまた、ロシアがベラルーシに資金と人員を提供していると主張するが、ロシアは否定し、ベラルーシと直接接触するよう促している。

EU欧州委員会のフォンデアライエン委員長は11月11日、ワシントンのホワイトハウスでバイデン米大統領と会談後記者会見し、「民主的な隣国を不安定化させようとするルカシェンコ)独裁政権によるハイブリッド攻撃だ」との判断を共有した」と語った。


▲写真 ホワイトハウス内で会見するEU欧州委員会のフォンデアライエン委員長(2021年11月10日) 出典:Photo by Win McNamee/Getty Images

■ ハイブリッド戦争

「ハイブリッド攻撃(戦争)」とはロシアが編み出した軍事・外交戦略であり、戦場だけでなく、サイバー攻撃、SNSによるフェイクニュースの拡散、民間軍事会社の利用などを通じてターゲットを攻撃する方法。

2016年の米大統領選や2014年以来のウクライナ危機、2021年に入っての米東部の石油パイプライン攻撃などで用いられたとされる。移民の利用は北アフリカにあるスペイン領の飛び地セウタに接するモロッコが西サハラ問題での対立を背景に、アフリカの移民・難民を大量に送り込んで混乱を生じさせた例がある。

米紙ニューヨーク・タイムズは、ベラルーシ政府によるポーランド国境への移民送り込みは、ウクライナ国境近くで最近、大規模なロシア軍の集結が見られることや、ロシアからの天然ガス供給確保をめぐる懸念と相まって、ロシアが欧州の不安定化につながる危機的状況を作り出そうとしている表れだとしている。ロシア軍集結をめぐり、米欧は2014年のウクライナ南部クリミア半島侵攻のような事態再発への懸念を強めているという。

こうした中で、EUは11月15日開いた外相理事会で、ベラルーシに対する制裁措置の拡大を決定した。中東などからの移民送り込みに関与している個人や航空会社などの組織を資産凍結やEUへの渡航禁止といった制裁の対象に指定できるようにした。EUは現在、反体制派抑圧などをめぐってルカシェンコ大統領を含む政権幹部166人と15組織に制裁を科している。


▲写真 共同記者会見に臨むルカシェンコ・ベラルーシ大統領とプーチン露大統領(2021年9月9日) 出典:Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images

さらにEUはルカシェンコ政権による渡航あっせんに応じないように中東をはじめとする移民らの出身国に働きかけを始めた。

ベラルーシとポーランドの国境地帯では、中東などから空路でベラルーシに渡った移民らがEU側への越境を阻まれ、厳しい寒さの中で立往生を強いられている。

移民は2000人から4000人に上るとされ、多くはイラクやシリアの出身。中東以外ではアフガニスタン出身者も含まれるという。

ポーランド国防省によると11月8日には、国境フェンスのべラルーシ側に集結した移民の中には鉄条網を大型の鋏で切断し、越境を試みた者もおり、ポーランドの治安部隊に押し返された。11月16日にも移民にょる同様の動きがあり、ポーランド軍が移民に対して放水を行って押し返した映像が欧州各国のテレビで放映された。ポーランドはベラルーシ国境に沿って180キロの壁を3億5000万ユーロをかけて建設し、移民の越境を阻止する構えだ。

■ 移民収容センター

越境を拒まれた移民が森林の中でテントを張り、酷寒の中で震えながらたき火に当たっている映像が盛んに流され、人道問題だとの批判も上がった。

こうした中でベラルーシ政府は国境地帯での緊張を和らげ、自国のイメージ向上を図るためにブルズギ(Bruzgi)国境地帯の外れの巨大な倉庫を利用した「一時収容センター」を設置。まず1100人の移民が入ったとニューヨーク・タイムズは伝えた。同センターでの滞在者数は11月19日までに2000人を超えたとされる。11月18日までには移民が張った国境地帯のテント群は撤去され、巨大なごみ置き場に変身したという。ただ、EU移住の見込みが薄れ、焦燥感や怒りを表す移民も多いという。ルカシェンコ政権は移民たちの怒りを鎮めるのに苦労しそうだ。

EUはベラルーシ/ポーランド国境の状況を人権尊重というEUの理念に基づいて対処する必要がある。そのうえで対ベラルーシ問題でポーランドと連帯する姿勢を示すと同時にポーランドがEU法よりポーランド憲法を優先している「法の支配」の問題で同国に厳正に対処しなければならない。

EUのミシェル大統領は11月10日、ワルシャワを訪問し、モラビエツキ首相と会談し、EUのポーランドに対する連帯感を表明した。

EUはポーランドに対し、欧州対外国境管理協力機構(フロンテックス)を通じた国境管理における支援や難民申請受付支援業務での助力を申し出たが、ポーランド政府は断ったという。ポーランド政府はベラルーシとの国境を閉鎖し、移民を入れない方針を貫こうとしている。

ベラルーシ政府の意図としては、ポーランドの過剰反応を引き出し、移民・難民問題で意見が分かれているEU内に混乱を引き起こそうとしているとみられる。移民は「武器」として、手段として使われており、過酷な国際政治の舞台で政治利用されている。

ミンスク便を運航する航空会社に対する制裁が効き目を表し、ベラルーシへの移民流入が減り、ポーランド/ベラルーシ国境の閉鎖が続けば、「ベラルーシ経由EUルート」に危険を冒して挑戦する人は減るかもしれない。その場合、ベラルーシにとってあまりにも多くの移民が押し寄せているという問題は国内問題になるだろう。

(了)

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