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魚を美味しく、廃棄を少なく。津本光弘が究極の血抜き「津本式」を生んだ理由

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魚にホースを突っ込んで勢いよく水を注入すると、白い糸のような神経が頭からにゅるっと出てくる衝撃映像。筆者がYouTubeで釣り動画を漁っていた時にたまたま見つけたのが「津本式・究極の血抜き」だった。

劇的に魚が旨くなるというオリジナルの血抜き方法を紹介する、この動画。初めて目にしたとき、手際良い鮮やかな包丁さばき、大阪弁の小気味よい解説、そして、魚の体内に水を大量に流し込むという斬新な血抜き方法に驚いたのを覚えている。

津本式の公式チャンネルには、血抜きや神経締めのノウハウ動画が大量にアップされている

魚の鮮度革命とも言われる「究極の血抜き」を開発したのは津本光弘氏。宮崎市内の魚仲卸業・長谷川水産に勤務しながら、自らが開発した「究極の血抜き津本式」を発信し続けている。

公式YouTubeチャンネルは、チャンネル登録者数21.1万人、計8240万回以上視聴(2021年11月5日現在)。津本式の処理法に合わせてオリジナルで企画・製作した、包丁やナイフ、ウロコ取り、ノズルなどの血抜きギアも販売している。

関西出身の元サーファーで、宮崎に移住した後、魚に魅せられ、今では「魚の仕立て屋」を自称する津本氏。筆者も同じ宮崎に暮らす移住者であり、魚を愛する同じ40代のおっさんだ。サーフィンは苦手ではあるが、ネットサーフィンは得意である(そのおかげで津本氏を知った)。

というわけで、共通項の多いQualitiesライターの恒吉が、津本氏にお話を聞いた。


PROFILE
津本光弘
つもと・みつひろ。1973年大阪府大阪市生まれ。趣味のサーフィンがきっかけで、20代前半に宮崎へ移住。後に宮崎市中央卸売市場で働き始め、業務で魚の血抜き処理を行ううちに、独自の血抜きメソッドを確立。その手順を「津本式・究極の血抜き」としてYoutubeで公開すると、釣り人を中心に話題となり、現在では津本式に最適化されたグッズを販売する「水流」も展開する。

どんな魚でも美味しくしてしまう魔法の処理方法

「魚の臭みの原因はすべて腐った血のせいだ」――津本氏がそのことに気づいたのは、務めていた市場仲卸で魚の血抜き業務をしていたときだった。

「魚を美味しく食べるには、どれだけ早く臭みのある血を抜けるかどうかがもっとも重要だとわかったんです。だったら魚の体内に水を注入して、臭みの集まる皮の下の血合肉の血を洗い流すことで、魚特有の臭みを消せばいい。それまで、水で魚を洗うなんて業界ではタブーとされていました。『そんなことしたら、魚の旨味がなくなるやろ』って。でも、僕には確信があったんです。究極に血抜きをした魚は絶対、旨くなるというね」

この「究極の血抜き」を施せば、魚を数週から数ヶ月間、長期保存を可能にさせるという。そして、寝かせることでさらに旨味を増した状態にまでもっていくことができる。もうなんだかすごい技なのである。

「血合いウロコ取り」で血合いをきれいに取り除く

血抜きの手順はこうだ。魚を脳死状態にする脳締めから、旨味を減らさないための神経抜き。エラと尾の部分を切って血の通りを作り、内臓や血合いを掻き出してから、ホースで真水を一気に流し込み、徹底的に血を流し出す。その後、魚を立てて水を抜いたら、水気を吸収する包装紙で包み込み、ビニールで真空パックにする。この一連の流れを淀みなく行う。

この動作にはすべて魚を美味しくするためのしっかりとした理由があり、従来の処理では取り切れないような魚の毛細血管からも血を抜くことができる。

血に毒があるため、通常は刺し身では食べられないとされるうなぎも、津本式を施すと生で食べられるようになるという。

「実はうなぎは、10日くらい寝かせたら、また味が変わって美味いんよ。うなぎの本当のポテンシャルの高さを、まだみんな体験できてない」と話す津本氏。

「津本式は、魚本来の味を引き出し、美味しさを最大化することを目的としてる。特に違いを出せるのは価値が低いとされる下魚(げざかな)や、ガリガリにやせ細った魚、また新鮮さで劣るスーパーで買ってきた魚をちゃんと処理してあげたとき。信じられないくらい美味しい魚に仕立てられる」

養殖魚やどんな下魚でも、最初の処理をすればちゃんと美味しく食べられる。そのことを知らずに、美味しく食べられていない現状を変えたいと語る津本氏。この思いの熱源には、魚への深い愛情がある。

移住先の宮崎で天職に出会った


「あいつら殺される前にね、ちゃんと顔見てきよるんですよ」

生簀(いけす)に入っている魚を締める際、目が合うことがあると話す津本氏。そんなときは、魚を殺めるのがほんとに嫌になる。いつしか、お客さんのために、そして何より魚のために、美味しく食べられる技術をとことん極めようと思ったという。

子どもの頃から魚がとにかく好きで、将来は魚屋か漁師になりたかった。しかし、彼が「魚の仕立て屋」となるまでの道のりは平坦なものではなかった。

ローマ字も書けない学力だった津本少年。当時、地元・大阪で「アホの3K」とも言われていた高校の商業科にしか入学できなかった。その後、簿記の専門学校に入学するも、結局ものにならず、サーフィンをするために宮崎に流れ着く。そして最高の波を求めて宮崎を訪れるうちに、宮崎のまちが気に入り、成人式を終えた後、宮崎への移住を決意。

文字通り、転がる石のような人生であった。しかし転がった先で、彼はその後の「天職」となる仕事を見つける。

「宮崎に移り住んだ後、魚に関わる仕事がしたくて仲卸市場で働くようになったんです」

朝早くから動き出す宮崎市中央卸売市場


「でも、はじめのうちは直接魚を扱う仕事はやらせてもらえんかった。それに、みんな口が悪すぎて、市場で働き始めたのは間違いやったとすぐに後悔しました(苦笑)。でもまぁ、魚を締める人たちは、素直に『めちゃくちゃかっこええな』と思ったんですよね。そこから将来は魚を一発で締められる人になりたいと思いはじめました」

競りが行われているが、意外と静かな場内

「そんなとき、たまたま先輩が人身事故で免許取り消しになって、代わりに担当して欲しいと言われたのが、活魚の部署だったんです。魚を処理する職人になりたかったこともあり、これは運命やなと」

しかし、そこでも6年間包丁を握らせてもらえず、悶々とする日々を送る……が、そのときある人物との出会いが津本氏のその後の人生を大きく変えることになる。

競合の水産会社に勤務する坂本さんである。

坂本さんはとにかく魚に関する知識が豊富だった。自身が仕立てた魚をスーパーには卸さず、料理人だけを相手にする頑固な職人肌で、「かっこよかった」と津本氏。


そんな坂本さんを慕い、彼が勤める同業他社に転職。

坂本さんには商売のイロハを叩き込まれた。そして、通常業務が終えた後、包丁を握れなかったため、スーパーの鮮魚売り場に出向き、無給で魚を捌く“修行”を1年間していたという。

十数年に及ぶ、自分磨きの日々。鍛錬を続け、誰もが認める技術を身に着けたことで、ついに宮崎県内最大の仲卸であるカネ政商店にヘッドハンティングされることになる。そしてその後、兄弟会社の長谷川水産に転籍すると、めきめきと頭角を表す。

「長谷川水産では、自分の好きなように魚をいじれる加工場を割り当ててもらい、ここでやっと満足のいく『実験』を重ねることができるようになったんです。初めは、エラを切って水の中で振りながら血を抜く『フリフリ血抜き』から始めて、徐々に『究極の血抜き』に進化させていきました。この頃に津本式が完成した? いやいや、違います。津本式は、今でも、進化しとるんですよ」

長谷川水産時代に、津本氏が市場で配っていた魚をテーマにした自主制作の新聞。これをきっかけとして市場の人から一目置かれるようになり、また営業成績もアップ。YoutTubeやFacebookで積極的に発信し続けているのも、その経験が根底に

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