記事
  • WEDGE Infinity
  • 2021年11月22日 12:11 (配信日時 11月22日 06:01)

分が悪すぎる日本の脱炭素 これから「苦難の10年」が始まる - 山本隆三(常葉大学経営学部教授)

1/2

英国グラスゴーで開催されていた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の最終日、アロック・シャルマ議長は悔し涙を流した。英国が目論んでいた「石炭火力と化石燃料への補助金の段階的廃止(Phase-out)」が、インド、中国、他の化石燃料への波及を恐れた産油国の反対に遭い、197カ国による最終合意文書、グラスゴー気候合意では「対策が取られていない石炭火力の段階的縮小(Phasedown)と非効率な化石燃料補助金の段階的廃止」となったからだった。

[画像をブログで見る]

グラスゴー気候合意とは

石炭火力については思い通りにはならなかったものの、パリ協定で合意された「気温上昇を2度、可能であれば1・5度に抑制する目標」は、英国の狙い通り実質的に1・5度目標に置き換えられた。グラスゴー合意では、2030年までに10年比二酸化炭素(CO2)を全世界で45%削減、今世紀半ばに脱炭素達成の必要があるとされた。そのため、今後の10年間が決定的な10年になるとし、各国は目標の強化に努めるとされた。

グラスゴー合意では、先進国が途上国の温暖化対策に拠出するとしていた20年1000億㌦(11兆円)が達成されなかったことが遺憾とされ、できるだけ早く年間1000億㌦を達成し、25年まで継続することが要求されている。先進国は今後さらに資金を拠出することになりそうだ。

環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんは、COPでは無駄話ばかりとして、グラスゴー合意を酷評した。だが、開催国英国の声明文で、ボリス・ジョンソン首相は、やるべきことは多くあるとしながらも、「石炭の段階的縮小をCOP史上初めて合意文章に記載したことと1・5度への道筋をつけたことは大きな前進であり、気候変動問題の終わりの始まり」と成果を誇っている。温暖化対策に熱心な英国にすれば、実際には〝してやったり〟ではないのだろうか。

石炭、天然ガス生産量が急減している英国は、原子力発電所の新設を進める一方、再生可能エネルギー(再エネ)に舵を切り、温暖化対策を進めながら経済成長を狙うことが可能な国だ。温暖化対策の負担は他国ほどではない。

しかし、英国に代表される欧州の主要国と日本の事情は大きく異なる。英国が簡単にできた、あるいは、できることも、日本には困難な取り組みになる。日本はこれから気候変動問題に取り組む「決定的な10年」ではなく、「苦難の10年」を歩むことになる。

脱石炭も楽勝な英国

英国は石炭火力発電所の閉鎖を進めている。石炭火力発電が経済性を失っているという簡単な事実を反映した動きだ。英国の産業革命を支えたのは石炭だ。石炭生産は18世紀後半の産業革命から伸び続け20世紀初めには3億㌧近い年産数量に達する。しかし、その後取り扱いが容易な石油、天然ガスにシェアを奪われ生産数量は減少した。

それでも今世紀初めまで国内の発電を支える燃料だったが、坑内掘り炭鉱の採炭条件の悪化による生産数量減(図-1)と石炭火力発電所の老朽化により急速に石炭火力発電量は減少する(図-2)。英国に見られるように、欧州主要国の石炭火力発電の減少をもたらしたのは、国内炭鉱の採炭コスト上昇により石炭火力発電が経済性を失ったという問題だった(「実は減らない世界の石炭火力発電、欧米の石炭火力を減らしたのは市場の力」)。


日本をはじめとしたアジアの国の事情は大きく異なる。1960年代から国内炭鉱の採炭条件が悪化し生産数量減少に直面していた日本は、80年代から豪州を中心とした石炭産出国から輸出される石炭を燃料とする石炭火力発電所を大型港湾と共に、日本の各地に建設した。韓国、台湾も同様のことを行い、最近東南アジアの国も石炭火力発電所を建設している。条件のよい海外の炭鉱から輸出され大型船で運ばれる石炭は価格競争力を持ち、多くのアジアの国において石炭火力は最もコスト競争力を持つ電源になった。

欧州主要国の国内炭鉱からの石炭を燃料とする発電所とは、発電所の建設時期も燃料供給の構造も異なり、当然コスト競争力にも大きな違いがある。欧州主要国が簡単に進めることが可能な脱石炭は、アジアの国には電力コスト上昇を引き起こし、さらには安定供給に影響を与えることになる。アジアにおいては脱石炭は簡単にはできない。

「抵抗勢力」インドが抱える苦悩

COPの席上で、インドは石炭使用と化石燃料への補助金の段階的廃止に強く反対した。多くの西側のマスメディアは「抵抗勢力はインド」と取れる報道を行った。

インドの環境大臣は「途上国が石炭利用を廃止する約束ができると、どうして思えるのか。インドは貧困層に対し支出している天然ガスに関する補助金を止めることはできない」と発言した。世界のCO2排出量の7%を占め、中国、米国に次ぐ世界第3位の排出国インドが、温暖化対策を進めない、けしからんと見ることもできるが、インドの現実はどうだろうか。

インドの都市の街中を歩いていると、やせ細った物乞いに2重、3重に囲まれることがある。皆両手を前に差し出した姿勢で迫ってくるのは、ちょっとした脅威だ。だが、この人たちはアウトカースト(不可触民)と呼ばれる人たちなので、外国人に触れることはない。歩き出せば、両手を前に差し出したまま道を開けてくれる。

インド第2位の都市ムンバイの海岸線は、「女王の首飾り」と呼ばれる綺麗な夜景でも有名だ。だが、そのすぐ近くの路上では日没後どこからともなく持ち出したマットレスが並べられ、多くの人が就寝の準備を始める。

課題は温暖化だけではない

路上で生まれ、路上で死ぬということは本当にあると実感させられる。以前インド滞在中にたまたま目にしたローカル紙に、満腹感を味わったことがあるかとのアンケート結果が掲載されていたが、8割の人が生まれてから一度も満腹感を味わったことがないと答えていた。

14億人近い人が暮らし、「世界飢餓レポート2021」によると、人口の15.3%、2億人以上が栄養失調状態にあり、5歳以下の発達阻害率が34.7%とされる国の温暖化対策への取り組みの遅れを、先進国は責めることができるのだろうか。世界の課題は温暖化だけではない。COP会場で、「気候正義」「脱石炭」を掲げた日本の高校生はインドの主張を理解できないのだろうか。脱石炭を求めCOP会場に集まった数万人の環境団体の人たちは、自分たちが利用する航空機のCO2排出量を考えたことがあるのだろうか。

あわせて読みたい

「脱炭素」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ひろゆき氏「絶対失敗しかない」石原伸晃氏の参与任命は“岸田政権の罠”と大胆推測

    ABEMA TIMES

    12月05日 16:59

  2. 2

    10万円のウイスキーは1万円のワインより実は割安

    内藤忍

    12月05日 11:16

  3. 3

    群馬・太田市の工場でクラスター発生 従業員計42人が感染

    ABEMA TIMES

    12月05日 16:50

  4. 4

    落選の石原伸晃氏、内閣官房参与就任の問題点。参与も国会チェックの範疇に入れるべき

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    12月05日 09:49

  5. 5

    愛子さま 学業の傍ら蚕飼育10年以上「日本の伝統」守る決意

    女性自身

    12月05日 13:50

  6. 6

    「女性天皇になるか主婦になるか」引き裂かれ続けた愛子さまの20年

    PRESIDENT Online

    12月05日 13:41

  7. 7

    ゼロリスク、ゼロコロナ追求で失う重大な勝因

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

    12月05日 12:07

  8. 8

    海外から中国に移送される台湾人――犯罪人引渡し条約の政治利用とは

    六辻彰二/MUTSUJI Shoji

    12月05日 17:55

  9. 9

    世界で最も幸せなはずのフィンランドで、暗くて重苦しいヘヴィメタが流行るワケ

    PRESIDENT Online

    12月05日 12:34

  10. 10

    ワクチン検査パッケージ オミクロン株には効果なし? 検査陰性の罠

    中村ゆきつぐ

    12月05日 09:55

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。