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米抗議デモ参加者射殺事件、18歳被告に無罪評決 銃規制議論で分断も

Reuters
殺人罪に問われていたカイル・リッテンハウス被告(19日、米ウィスコンシン州ケノーシャの裁判所)

米ウィスコンシン州で昨年、警官暴力に抗議するデモ参加者に発砲し3人を死傷させたとして、殺人罪などに問われた少年の裁判で、陪審団は19日、全ての罪状について無罪評決を言い渡した。少年は正当防衛だったと主張していた。

カイル・リッテンハウス被告(18)は、昨年8月25日にウィスコンシン州ケノーシャの路上で3人に発砲し、2人が死亡、1人がけがを負った。

リッテンハウス被告の弁護人は、被告は当時、命の危険を感じていたと主張した。一方で検察側は、被告が銃を持って隣の州まで移動してわざと問題を起こそうとしていたと主張した。

この裁判は世間の注目を集め、政治的分断ももたらした。

騒乱が懸念される中、ケノーシャには州兵が派遣されている。

ジョー・バイデン米大統領は、市民に「平和的に自分の意見を表明する」よう呼びかけ、事件の結果が「私も含めて多くのアメリカ人に怒りと不安を感じさせるだろうが、陪審員の判断を認めなければならない」と述べた。

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ケノーシャでは昨年、警官が黒人男性のジェイコブ・ブレイク氏を銃撃したことを受け、路上で暴動が発生した。その2日後、当時17歳だったリッテンハウス被告はイリノイ州の自宅から、半自動ライフルを持ってウィスコンシン州にあるケノーシャへ向かった。市民の財産を暴動から守るのを支援しようとしたと主張していた。

リッテンハウス被告は、ジョーセフ・ローゼンバウム氏(当時36)とアンソニー・フーバー氏(同26)を射殺し、ゲイジ・グロスクロイツ氏(28)を負傷させた。被告と死傷者3人は全員白人。

被告は、殺人2件と殺人未遂1件を含む5つの罪に問われていた。殺人罪で有罪となれば、終身刑が科せられる可能性があった。

法廷で何が

法廷での審理の後、女性7人、男性5人の計12人の陪審員が3日以上かけて評議した結果、無罪評決に至った。

「無罪」という言葉が5回読み上げられると、被告は震えながらむせび泣いた。

法廷では陪審員に、3人に対する銃撃の前後をとらえた映像が公開された。1コマずつ再生される場面もあった。

リッテンハウス被告の弁護人は最終弁論で、被告は「この地域社会を助けようとしていた」、「自分を攻撃する人々に対応した」と主張した。一方で検察側は、なぜ被告が自分の居住地ではない街まで移動し、夜間外出禁止令に違反し、知り合いではない現地の人たちや財産を「守るふり」をしたのか疑問視した。

銃規制めぐる分断

この事件はアメリカにおける銃の権利をめぐる議論をはっきり二極化させる火種となった。

抗議行動が時に暴動化する中で、治安を守ろうとした英雄だとして、リッテンハウス被告を支持する人がいる一方で、不安定な状況下で重武装した10代が自警団的行動に出た様子に、大勢が愕然(がくぜん)とした。

19日にケノーシャの裁判所を取材したBBCのノミア・イクバル記者によると、数台の車がクラクションを鳴らしながら「カイルを解放しろ」、武器保有の権利を定めた「合衆国憲法修正第2条を愛している」と叫んで通り過ぎて行ったという。

ジェイコブ・ブレイク氏のおじは裁判所の入り口前で、無罪評決にショックを受けたと涙ながらに語った。

リッテンハウス被告に射殺されたフーバー氏の両親は、息子を殺した犯人には「何の説明責任もなかった」と述べた。

「武装した民間人がどこの町にも現れ、暴力を扇動し、自分たちが作り出した危険を利用して路上で人を撃ってもそれを正当化できるという、受け入れがたいメッセージを発信している」と、フーバー氏の両親は声明で訴えた。

しかし、リッテンハウス被告の弁護人マーク・リチャーズ氏は、被告は「このような事態は望んでいなかった」とし、被告はただ自分の人生を生きていきたいだけだと語った。

リッテンハウス被告の家族のスポークスマン、デイヴィッド・ハンコック氏は米CBSに対し、被告の家族は無罪評決が下されると予想していたと説明。家族は現在は、「非公表の場所にいる」と付け加えた。

政界の反応

無罪評決に対する政治家の反応は、この事件をめぐる対立を浮き彫りにしている。

ウィスコンシン州のマンデラ・バーンズ副知事(民主党)は無罪評決を非難した。

副知事は「この数週間、この結果を大勢が恐れていた」と述べたと、AP通信は伝えた。

「誰もが有罪を立証されるまでは無罪だという推定無罪の原則は、この国の司法制度になくてはならないものだ。しかし、この原則は必ずしも平等に適用されていない。あまりに多くの黒人や褐色の肌の若者が、まず殺されてしまい、後からようやく裁判が始まる。一方でカイル・リッテンハウスについては、裁判長がその無実を陪審に要求したに等しい」

ニューヨークのビル・デブラシオ市長(民主党)はツイッターで、今回の評決に「嫌悪感を覚える」とまで述べた。

一方でロン・ジョンソン上院議員(ウィスコンシン州選出)をはじめとする共和党員は、無罪評決を歓迎した。

AFP通信によると、ジョンソン議員は「正義が実現した」と述べた。「誰もが評決を受け入れ、平和を保ち、ケノーシャのコミュニティが癒され、再構築されることを願っている」と議員は呼びかけたという。

ウィスコンシン州前知事のスコット・ウォーカー氏(共和党)も、「ケノーシャで昨年何が実際に起きたのか、それを知る私たち全員が、このような評決が下ると思っていた。ありがたいことに陪審員も我々と同じ考えだった」とツイートした。

この裁判を担当したケノーシャ郡地方検事局は短い声明を発表。今回の評決を尊重するとし、人々に冷静さを求めると述べた。

ウィスコンシン州のトニー・エヴァース知事(民主党)は「誰もが一緒に、前へ進む時が来た」と述べた。

(英語記事 Teenager cleared of all charges in US shootings

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