記事

シングルマザーの貧困を労働から考える - 中囿桐代 / 社会保障論、ジェンダー論

1/2
シングルマザーの貧困はなぜ解消されないのか 「働いても貧困」の現実と支援の課題

中囿桐代

Amazon紀伊国屋書店Yahooショッピング

はじめに

コロナ禍において女性、シングルマザーの貧困が深刻化している。内閣府男女共同参画局コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会は「報告書」の中で、「ひとり親世帯にはコロナの影響が厳しい形で表れていることから、特に、迅速にかつ手厚い支援を行なっていく必要」を指摘した。

しかし、コロナ以前から、多くのシングルマザーは「働いても貧困」の状態におかれている。厚労省「平成28年度 全国ひとり親家庭等調査結果報告」(以下、「調査結果」と表記)によれば81.8%が就労しており、これはOECDの平均65.7%よりも高い。しかし、厚労省「2019年 国民生活基礎調査の概況」によれば、大人が一人の子どものいる現役世帯(ひとり親家庭のことであるが、その約9割はシングルマザー)の貧困率は48.3%であるのに対し、大人が二人の世帯(二人親家庭)は11.2%である。圧倒的にシングルマザーの経済状況は厳しい。

筆者は先日、『シングルマザーの貧困はなぜ解消されないのか』(勁草書房)を上梓したが、そこでは、ほとんど注目されてこなかったシングルマザーの労働という観点から、彼女らの「働いても貧困」の実態とその要因について明らかにしようとした。本稿ではそのエッセンスを紹介したい。

シングルマザーの経済状況、労働の実態

ここで簡単に、母子世帯の状況を確認しておく。母子世帯とは、父のいない児童(満20歳未満の子どもであって未婚のもの)がその母に養育されている世帯である。「調査結果」によれば、母子世帯は全国で123.2万世帯、離婚で母子世帯となった者が約8割、8割以上は就業しており、平均年間就労収入は200万円、児童手当や児童扶養手当を含めた平均世帯収入243万円である。単純に12ヶ月で割れば月20万円ほどの収入になり、大雑把に言えば、シングルマザーは大卒の新人と同じ程度の収入で子どもを育てている。

児童扶養手当とは、ひとり親家庭の児童の福祉を増進するための社会手当てである。子どもが満18歳の年度末まで受給できる。シングルマザーの収入が増加すれば、手当て額は下げられる。子ども一人の場合、年収160万円以下で、満額の43,160円/月の手当てが支給される。母親の収入がそれ以上になれば十円単位で減額が行われ、年収360万円を超えれば支給は0である。最近、共同親権とセットで話題となっている元夫からの養育費も、控除はあるがシングルマザーの収入と認定されるので、児童扶養手当の受給額は下がる。2人目の子どもは満額で10,190円/月、3人目は6,100円/月である。2人目以降の手当額は非常に低い。

私が調査を行ったシングルマザーの当事者団体である公益社団法人札幌市母子寡婦福祉連合会(以下、札母連と表記)の母子の会員(末子が20歳未満)では、84.6%が就業しており、未就業は15.4%である。就業している者の就業形態は、正社員40.0%、非正規55.7%、自営等4.3%である。一月あたりの就労収入(手取り額)は正社員が18.3万円、非正規が12.4万円である。児童扶養手当等を含めた収入は正社員が22.4万円、非正規が19.4万円である。2021年の札幌市における母子3人(小学生、未就学児)の夏季の生活保護の最低生活費は23.4万円である。多くのシングルマザーは最低生活費以下で生活しており、経済状況は本当に厳しい。

シングルマザーは育児を優先するために、非正規に就くため収入が少ないと言われる。札母連の調査でも、週40時間未満で働く者の割合は、非正規が65.4%に対し正社員は45.7%である。しかし、週50時間以上就労する者の割合は、非正規11.8%と正社員10.8%であり、大きな差はない。副業をしている者は非正規に多い。単純に「子育て負担→非正規→シングルマザーの収入の低さ」と考えることはできない。

シングルマザーの貧困=日本のメンバーシップ型雇用における女性の厳しさ

シングルマザーの「働いても貧困」という問題を考えるには、日本のメンバーシップ型雇用における女性、特に子どものいる女性の位置を考えなければならない。濱口桂一郎著『働く女子の運命』(2015 文春新書)によれば、日本的雇用システムは、ある職務(ジョブ)ができる技能(スキル)を持つ人を採用する「ジョブ型社会」ではなく、新卒採用から定年までの長期間、企業が求める職務を無理をしてでもこなす「能力」と、どんな長時間労働も遠方の転勤でも受け入れられる「態度」を有する労働者が認められる「メンバーシップ型社会」である。育児に時間を取られるからシングルマザーが非正規になるのではなく、日本の労働社会の側にシングルマザーを含む女性、あるいは家事や育児を担当する労働者を、正社員から排除しようとする論理が働いているのである。

常時「能力」と「態度」を顕在化させることのできない多くの女性は、男女雇用機会均等法でマタニティハラスメントの防止義務が企業に課せられたとしても、育児休業制度があったとしても、自発的に第1子出産、あるいは妊娠や結婚とともに正社員の職を去ることとなる。

近年、女性の就業継続率は高まっているはずだという反論が有るだろう。厚労省の「令和元年度雇用均等基本調査」(2020)によれば、女性の育児休業取得率は83.0%、男性は7.48%であり、これを見れば働いている女性の大部分は育児休業を利用し、出産を経ても仕事を続けているように思える。しかしながら、内閣府男女共同参画局「第1子出産前後の女性の継続就業率および出産・育児と女性の就業状況について」(2018)を見れば、2010〜2014年に第一子出産後就業継続した女性は38.3%(育休なし10%、育休あり28.3%)しかいない。第一子出産後企業に残れた女性の8割は育休を取得していても、その前に出産した女性の全体の約6割は働くことを諦めているのである。確かにこれは以前に比べれば「まし」になった状態である。それでも、女性の労働力率は相変わらずのM字型カーブを描いている。近年、子育てしながら働く女性がマミートラックに陥っているという論説を見るが、多くの女性はマミートラックにも残れないのである。  

では、なぜ女性が子育てと仕事の両立を諦めるかといえば、その理由でもっとも多いのは、「子育てしながら仕事を続けるのが大変だったから」(前出、内閣府男女共同参画局「第 1子出産前後の・・・」)である。これは女性に「やる気がない」という問題ではない。長時間の残業、サービス残業、転勤や担当する職務の変更がデフォルト設定となっている現在の日本の正社員の現状からすれば、労働時間を限定したい(=保育所のお迎えまでに帰りたい)、働く場所を限定したい(=子どもの保育所や学校を変わりたくない)、担当する職務を限定したい(=今の職務で専門性を高めたい)という女性やワーキングマザーの願いは、メンバーシップ型雇用の正社員の椅子に座り続けることと矛盾してしまうのである。かくして子どもを持つ女性は正社員の椅子から降りる決断をせざるをえない。

日本の育児休業制度は充実しており、諸外国を見てももっとも進んだ制度と言われる。労働基準法で定められた産前産後休業、雇用機会均等法で保障されている母性健康管理措置、育児介護休業法に定められた休業や小学校入学までの時短勤務、残業の制限の規定など、事細かに定められている。ところが、育児(あるいは介護)中でない男女正社員労働者は、無限定正社員として仕事をしているのであるから、一部の育児や介護を担う正社員が無限定に仕事をしない(できない)状況は職場でのコンフリクトを生じさせてしまう。いくら厚労省が企業に男性労働者への育休の説明や意向調査を義務付けても、実効性があるか疑問である。繰り返しになるが、日本に強固に残るメンバーシップ型雇用が、女性の正社員継続に大きな悪影響を与えていることを忘れてはならない。

そして、一度正社員の椅子から降りた者が(あるいは新卒時に正社員になれなかった者が)、正社員に戻りづらい(なりにくい)のが日本のメンバーシップ雇用である。企業は新規学卒者を正社員として一括採用し、そこから様々な職務を担当させつつ人材育成を行っていくからである。一度退職した女性の多くは、パートを典型とする非正規に就かざるをえない。

先に述べた札母連の調査でも、シングルマザーの多くは新卒時正社員で就職したが、第1子出産時に仕事を辞めている。そして離婚前に非正規で再就職する者が多いが、シングルマザーになってからの正社員への転換は簡単ではない。

あわせて読みたい

「シングルマザー」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「コスパ最悪のメシ食って上司とクソつまらん会話して何が楽しいんだよ」飲み会復活にウンザリする声

    キャリコネニュース

    11月28日 15:00

  2. 2

    鬼束ちひろ容疑者をいじるな 「メンヘラ」と安易に言ってはいけない

    常見陽平

    11月29日 09:24

  3. 3

    ようやく辞めた木下元議員 警視庁は選挙期間中の無免許運転をなぜ公表しなかったのか

    毒蝮三太夫

    11月29日 09:02

  4. 4

    不思議なコロナ感染状況下で出現したオミクロン

    ヒロ

    11月28日 13:27

  5. 5

    サイゼリヤで感じた「日本はこれで良いのか感」

    内藤忍

    11月29日 10:46

  6. 6

    没後7年 “婦唱夫随”の夫人が明かした「菅原文太の真実」 - 松田美智子

    新潮社フォーサイト

    11月28日 11:24

  7. 7

    立憲民主党が若者の支持を得るには? ひろゆき氏、代表候補4人に「メディア対策」力説

    ABEMA TIMES

    11月28日 14:51

  8. 8

    フェミニズムがなぜ誤解されがちなのか、僭越ながら愚考してみた

    NEWSポストセブン

    11月28日 16:38

  9. 9

    みずほ銀行における過去のシステム障害 当時の経営責任者は現NHK会長

    鈴木宗男

    11月28日 09:19

  10. 10

    納税者感覚の徹底こそが維新 - 11月27日のツイート

    橋下徹

    11月28日 14:21

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。