- 2021年11月17日 14:29 (配信日時 11月17日 12:15)
「残業代を減らされるかも」テレワークでの収入減を防ぐために会社員が知っておくべきこと
1/2感染状況が落ち着きをみせ、出社を増やす会社が増えているが、引き続きテレワークを希望する人も多い。神戸大学の大内伸哉教授は「テレワークは労働法が想定していない働き方。労働時間を把握しづらいため、適正な残業代が支払われない恐れもある。テレワークを成功させるためには、業務を明確にし、成果で管理する働き方への転換が必要だ」という――。
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フルリモートワークによって生じるさまざまな軋轢
新型コロナ感染症(COVID-19)後に急速に広がりをみせたテレワーク。これをきっかけに初めてテレワークを導入した会社もあるだろう。社員にとって気になるのは、こうしたテレワークブームが、アフターコロナにどうなるかだ。
テレワークは、コロナ禍の緊急避難的なものなので、アフターコロナでは、元の働き方に戻そうと考えている会社も少なくない。その一方で、テレワークを導入してみて、意外にうまくやれると感じている会社もあるようだ。
テレワークは、最初は社員も経営陣もぎごちなさがあったが、慣れてくるとメリットをいろいろ実感できるからだろう。とりわけ社員にとっては、通勤がなくなることは有り難い。時間もエネルギーも節約できるので、家庭がある人は家族サービスの時間が増える。余った時間を趣味や自己研鑽に充てることもできる。
会社のほうも、社員に余裕がうまれれば、生産性の向上を期待できる。もちろん、リモート環境ではコミュニケーションがとりにくいといった仕事のやりにくさはある。ただそれも、性能の向上したビデオ会議ツールの普及などで、解消されつつある。社員も上司もこうした働き方に徐々に慣れてきている。
とりわけICT(情報通信技術)やデジタル技術を活用する会社では、すでにそうした新技術に慣れ親し んでいるので、テレワークを全面的に導入することに抵抗が少ないはずだ。大手フリマサイトを運営するメルカリの発表した「メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル」が、まさにそのような例だ。メルカリのHPをみると、その内容は次のように紹介されている。
オフィス出社も、出社を前提としないフルリモートワーク勤務も社員それぞれが選択することができます。
日本国内であれば住む場所や働く場所についても社員が各々、選択することができます。
マネージャーはオフィス出社/リモートワークなどワークスタイルを推奨をすることが可能ですが、最終的には各個人が自らだけでなくチームのパフォーマンスやバリューが最大限に発揮できるワークスタイルを考えて、決めることができます。
なお、出社の有無によって社員が不公平な扱いを受けることはありません。
メルカリの新しい働き方そのものへの評価は、今後の運用次第だが、少なくとも社員の選択によるフルリモートワーク(完全テレワーク)が、これからのデジタルトランスフォーメーション(DX)の時代の働き方のモデルとなることは、間違いない。
ただ、フルリモートワークは、大多数の会社で長年行われてきた働き方とはまったく異なる。今後、この働き方が他の会社にも広がっていくと、さまざまな軋轢が生じるおそれがある。なかでも懸念材料は労働法との関係だ。
労働法が新しい働き方に対してうまく機能しなければ、社員にとっては、一見良さそうなこの働き方が、思わぬ「落とし穴」となりかねない。そうならないようにするためには、まずは労働法のことを知っておく必要があろう。
テレワークは労働法の想定していない働き方
労働法は、18世紀以降の産業革命(工業化)にともない、工場での劣悪な労働環境下で働く労働者を保護するために誕生した。当初は工場法と呼ばれていた労働法がまず行ったのは、工員(とくに女性や児童)の労働時間の制限だった。
工場での労働時間の測定は、比較的容易だ。工員は、機械の稼働に合わせていっせいに肉体作業に従事するので、機械の稼働を止めれば労働も停止する。その働きぶりは上長の目で確認でき、労働時間は集団的に管理できた。工場以外でも肉体労働者(ブルーカラー)であれば、多かれ少なかれ状況は似ている。
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一方、オフィスで働く事務系・管理系の労働者(ホワイトカラー)の働きぶりは個人に任されている部分が多い。そのため外部からは確認しづらく、労働時間の測定は容易ではない。それでも、上司や同僚が同じ職場にいれば、労働をしている時間かどうかは、ある程度は客観的に測定可能だ。
ところがテレワークとなると、個人が場所的にバラバラに働くので、労働時間管理が難しくなる。これは労働法が想定していなかった働き方だ。
テレワークで時間外労働時間が適切に把握されないおそれ
そもそも労働法は、労働時間をどのように規制しているのか。
最も重要なのは、労働時間の上限の設定だ。労働基準法は、1日および1週の労働時間の上限を、休憩時間を除き、それぞれ8時間、40時間としている。この時間を「法定労働時間」という。これを超える労働(「時間外労働」という)をさせるためには、労働者の過半数代表(過半数の労働者を組織する労働組合があれば、その労働組合)との間で、所定の様式での協定(労働基準法36条が根拠規定なので「三六(さぶろく)協定」と呼ばれる)を締結して、労働基準監督署に届け出なければならない。
この手続きを踏んでいない時間外労働は違法で、罰則も適用される。2018年の働き方改革で、時間外労働の合計(休日労働も含む)にも、1カ月で100時間未満、2~6カ月の複数月の月平均で80時間以下という上限が罰則付きで導入された。
時間外労働をした社員には、通常の賃金に一定の比率(原則25%)を乗じた「割増賃金」が支払われる。法律は、会社に割増賃金の支払いというペナルティを科すことによって、長時間労働を抑制しようとしているのだ。
ただ、社員からすると、割増賃金は、時間外労働(残業)をしたことによる報酬アップという意味がある。だから時間外労働は、社員にとって、必ずしもいやなものではない。むしろ、時間外労働を命じられなければ、それを差別だと労働者側が訴えた裁判があるほどだ。
ただ割増賃金は、通常の月給のような固定給ではなく、時間外労働の実績に応じて支払われるので、どの程度の時間外労働をしたかが確認できなければ、額の算定のしようがない。固定残業代を支払う会社もあるが、この場合も実際の時間外労働数に応じた法定の割増賃金との差額は支払わなければならないので、労働時間の確認が必要となることに変わりない。
もちろん、割増賃金は、本来は会社の方が社員の労働時間をしっかり測定して支払うべきものだ。だが、テレワークでは、それが容易ではなく、そうなると、割増賃金が適正に支払われないおそれが生じる。これでは社員は安心してテレワークができないだろう。
テレワークが健康確保と労災補償に不利に働くおそれ
労働時間には、別の役割もある。
労働安全衛生法は、労働時間を基準として、健康確保の措置を講じることを会社に義務づけている。具体的には、1週40時間を超える労働時間の合計が月に80時間を超えていて、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出れば、会社は産業医の面接指導を受けさせなければならない。会社は、その結果を聴いて、必要と判断すれば、勤務の軽減措置などを講じることとされている。
また過労による典型的な疾病である脳・心臓疾患(脳梗塞、くも膜下出血、心筋梗塞など)を発症したとき、これが労災に該当するかの認定でも、労働時間は重要な役割を担う。
一般に、脳・心臓疾患は本人の基礎疾患がベースにあり、必ずしも業務による疾病とはいえないので、労災かどうかの認定は簡単ではない。ただ発症前1カ月において1週40時間を超える労働時間が100時間(または2~6カ月の平均が80時間)を超えていれば、その発症と業務との関連性が強いとされ、労災と認定されやすくなる。
この時間数は「過労死ライン」とも呼ばれる。労災と認定されると、政府から労災保険の給付を受けられるし、労災保険でカバーされない損害分は会社に賠償請求することも可能だ。
ところが、労働時間の測定が難しいテレワークでは、上記のような産業医の面接指導を受けられなかったり、発症後に労災と認定されなかったりするおそれが高まる。つまり予防の面でも補償の面でも、社員に不利となる可能性があるのだ。
労働時間の管理が難しい働き方の人をどうするか
実は労働基準法は、労働時間の管理に適さない働き方があることも想定している。例えば、一定の専門性の高い業務(その範囲については、「専門業務型裁量労働制」を参照)や「企画・立案・調査・分析」業務は、その業務の遂行において労働者本人に大幅に裁量が与えられていることが多い。
これは工場での拘束的な労働とはまったく異なる働き方だ。そのため、労働時間を測定して管理するのに適さないので、労使間で労働時間はあらかじめ決めてしまうという簡便な方法がとられる。これを裁量労働制という。
1日8時間と決められれば、実際に何時間働こうが、時間外労働はないことになり、割増賃金は発生しない。ただ、こうした業務では、給料は成果型となることが想定されている。長時間労働に対する報い(割増賃金)はなくても、成果に応じて本来の給料(基本給)で報われるならば、それでよいということだ。これは、専門性の高い業務などで働く労働者のニーズにも合う。
裁量労働制はテレワークで勤務する人にも適用可能だし、むしろ裁量労働制の適用対象になるような人こそ、テレワークに向いていると言える。
ただ、裁量労働制は、会社が割増賃金の支払義務を免れるために濫用するおそれがあるので、法律で適用対象者や対象業務が限定されているし、導入のための手続も厳格だ。裁量労働制の適用対象にされた社員は、その取り扱いが法律の要件を充足したものであるか確認したほうがいい。
なお、働き方改革で新たに導入された高度プロフェッショナル制度の適用対象者は、割増賃金を請求する権利が否定されているが、年収1075万円以上の人だけが対象で、金融商品開発などの業種に限定され、導入手続が厳格なので、多くの労働者には無縁の制度だろう。
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