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【COP26】「300年前の南極の氷」を記者に見せた博士の意図

薄くスライスした300年前の南極の氷を見せるリズ・トーマス博士(木村正人撮影)

「この氷には300年前の二酸化炭素が入っている」

[英北部スコットランド・グラスゴー発]国際的な地球温暖化対策の枠組みを協議する国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が英グラスゴーで始まる前、英南極観測所で氷床コア研究グループの責任者をしているリズ・トーマス博士は筆者に薄くスライスした300年前の南極の氷床を見せながら、こう語った。

「COP26は非常に重要です。世界の首脳たちが交渉して、実際に気候変動への対策を始める機会だからです。人の考え方を変えるのは難しい。重要なのは科学界が一致団結して、私たちが大気や気候に与えている変化は非常に大きく、すべての人の経済に影響を与えるということを実証し、強く主張することです」

テムズ川に停泊中の極地調査船の船上で、トーマス博士が触らせてくれた南極の氷床のスライスはものすごく冷たく、そして中には小さな気泡がたくさん閉じ込められていた。「300年前には産業革命がまだ始まっていなかったので、この氷の中に含まれている二酸化炭素の量は人間が経済活動によって増やす前の自然レベルのままなのです」

トーマス博士は続けた。「南極は巨大な淡水の貯蔵庫であり、非常に重要な場所です。南極の氷床が少しでも溶けるかどうかという小さな変化が世界の海面レベルに非常に大きな影響を与えます。影響は地球上のすべての人に及びます。海はあなたがどこの国の人であろうと、国境がどこであろうと関係ありません。海面の変化はすべての人に影響を与えるのです」

「気候変動は食べ物、暮らし、家に至るまで私たちの生活全般に大きな影響を与えるでしょう。そして私たちの収入や仕事にも影響を与えることになります。なぜなら私たちの行動すべてに影響を与えるからです。地球のために今すぐ行動を開始する必要があります。私たち自身の経済や幸せのためにも今すぐ行動を開始する必要があるのです」

北極圏の温暖化は他地域に比べ3倍のスピードで進んでいる

新たに石油・ガス生産の免許を与えないことを約束する国・地方政府の有志連合「脱石油・ガス国際連盟(BOGA)」に加わったグリーンランドの関係者は筆者にこう語る。「グリーンランドには220億バレルもの石油が埋蔵されています。石油やガスの採掘が始まると、非常に脆弱な環境に影響を与えるのではないかという懸念が長年、論争を呼んできました」

「そして今、気候変動の危機が迫っています。北極圏の気温は世界平均に比べ、はるかに速く上昇しています。グリーンランドや北極圏の温暖化は他の地域に比べ3倍のスピードで進んでいます。グリーンランドでは気候変動を文字通り、目の当たりにできます。今年の夏、氷床の上に雪ではなく雨が降ってきました」

「昨年の夏にはグリーンランドの北部で海氷(海水が凍った氷)が完全に消滅しました。今までにはなかったことです。海氷を頼りに狩りをする先住民族は海氷がなくなると狩りができなくなるので、生活の糧を失います。みんなが地球を守るために脱石油・天然ガスに取り組まなければならないという世界に向けて伝えたいグリーンランドの強い政治的なシグナルなのです」

サモアからやって来たエマイ・モウヴァイさん(同)

サモアからCOP26にやってきたエマイ・モウヴァイさん(24)はこう語る。「1歳年下の妹のブリアンナ・フルーアンがとても素晴らしい言葉を残してくれました。『2度は終わりを意味するが、1.5度は闘うチャンスを意味する』と」

COP26文書「気温上昇を1.5度に抑える努力を追求することを決意する」

10月31日から11月13日まで開かれたCOP26の合意文書には、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて摂氏1.5度に制限することや脱石炭・化石燃料が盛り込まれた。国連報告書は世界の平均気温はすでに1.2度前後上昇しており、各国が削減目標を引き上げないと2.7度まで上昇すると警告していた。

排出大国の中国が「2060年カーボンニュートラル」、インドが「70年ネットゼロ」を宣言するなど各国がそれぞれ野心を引き上げたため、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は「これまでの各国政府による誓約を積み上げると世界の平均気温上昇を1.8度に抑えられる」と報告した。

しかし世界で最も信頼されている気候分析団体クライメート・アクション・トラッカー(CAT)はIEAが根拠にした長期目標ではなく、今後10年の短期目標に基づく気温上昇の予測から「世界は2.4度以上の悲惨な温暖化に向かっている」と発表して、楽観ムードに釘を刺した。

パリ協定では努力目標だった1.5度についてCOP26は「気候変動の影響は気温上昇が2度より1.5度の方がはるかに小さいことを認識し、1.5度に抑える努力を追求することを決意する」と宣言。「世界の二酸化炭素(CO2)排出量を2010年比で30年までに45%削減し、今世紀半ばには正味ゼロにする」と先の20カ国・地域(G20)ローマ首脳宣言より踏み込んだ。

脱石炭・化石燃料についても「CO2排出削減措置(アベイトメント措置)が講じられていない石炭火力発電や非効率的な化石燃料補助金の段階的縮小(phase-down)に向けた取り組みを加速させる」と明記した。

「これから2、3年の間に真剣に野心を高めていかなければ1.5度に到達できない」

11月11日にロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの気候変動と環境に関するグランサム研究所のニコラス・スターン議長を直撃した。スターン議長が2006年に発表した「気候変動の経済学」と題する報告書(スターン報告)は世界に大きな影響を与えている。

ニコラス・スターン議長(同)

――COP26の位置付けは

「COP26では成長と発展の未来は低炭素であるという明確な宣言がなされたと思います。平均気温上昇を1.5度に制限することの重要性が合意され、これからは新しい成長の形を実現していかなければなりません。これは日本でもイギリスでも、どこの国でも同じだと思います。私たちに何ができるかという認識は私たちの問題ですが、チャレンジは実際に前進するための政治的決断を下すことです」

――温室効果ガスの排出大国である米中のグラスゴー共同宣言には大きなインパクトはありますか

「大きなインパクトがあるかどうかは分からないが、非常にポジティブなことだと思います。両国が宣言したということは協力していくということであり、それが皆を勇気づけることになります」

――1.5度を実現できる可能性はまだ残っていますか

「難しいが、可能性はあります。これから2、3年の間に真剣に野心を高めていかなければ、1.5度に到達することはできません」

ツバルの閣僚「国土がどんどん消え、私たちは文字通り沈んでいる」

海面上昇の危機に直面している南太平洋の島嶼国ツバルのセベ・パエニウ気候相は筆者にこう訴える。

ツバルのセベ・パエニウ気候相(同)

「COP26のあともやることがたくさん残っています。ここでは炭素経済を脱却してグリーン経済に移行されることが議論されました。石炭火力発電や化石燃料補助金の段階的廃止もテーマの一つです。ツバルは気候変動の最前線にいます」

「国土がどんどん消えています。私たちは文字通り、沈んでいるのです。だからツバルの状況を世界にお伝えするためにここに来たのです。決断と行動が私たちの水没を止めてくれるのです」

「化石燃料不拡散条約」の締結を求める米シカゴ州からやって来た先住民族のブレナ・トゥ・ベアズさんは「アジアを中心に化石火力をアンモニア・水素などの『ゼロエミッション火力』に転換するため1億ドル(約114億円)規模の先導的な事業を展開する」という岸田文雄首相の政策についてこう語る。

先住民族のブレナ・トゥ・ベアズさん(同)

「誤った解決策だと思います。石炭火力発電の問題を他人事のようにとらえ、その国の人々を危険にさらしているように聞こえます。排出量を削減することは最終的な目標ですが、そこに至るまでに化石燃料の道を歩むことはできません。唯一の真の解決策は化石燃料すべてを廃止することだと考えます。日本のやり方では必要なポイントに到達できないと思います」

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