記事

日本マスメディアは醜い「打落水狗」のルサンチマン

 鉢呂経産相の10日夜の辞任会見で晒されたマスメディア記者による狼藉。

 「理由くらい説明しなさいよ!」

 「何を言って不信を抱かせたか説明しろって言ってんだよ!」


 辞任する哀れな大臣に対し、記者会見とは思えない乱暴な言葉が一方的に集中砲火のように浴びせられたわけです。

 デジャブ感、記者会見におけるこのようなマスメディアの醜態を私たちは何度見せられてきたでしょうか。

 すでに本件はネットでさまざまな論争を呼んでいますが、私はメディア論的視点で、日本のマスメディアが構造的に抱える問題点のひとつの醜い表出として本件を取り上げたいのです。

 日本のマスメディアが権力に対して構造的にチキン(臆病)であるのは、欧米では禁止されたり制限されているクロスオーナーシップの弊害により、この国のマスメディアがメディア相互の監視チェック体制を持っていないことに由来します。

 この国では新聞はTVを批判できないし、TVは新聞を批判できません、マスメディアは系列化していますから、フジテレビ批判をたとえば朝日新聞がしたならば、ではお前のところのTV朝日はどうなんだと、他局批判、他紙批判はあらゆる面でほぼ100%自分のグループにブーメランしてしまうからです。

 そこは「同じ穴のムジナ」なのです、電波利権を独占し免許制度にあぐらをかくTV局、独禁法例外扱いの再販制度で事実上新規参入を締め出している法律で守られている新聞業界、ともに閉鎖的な法律に守られている特権企業です、彼らがそもそも彼らの利権に関わることで相互批判などできないわけです。

 このクロスオーナーシップの悪弊により日本のマスメディアはどこも似たもの同士の同業者からの強烈な批判・圧力を受けることはありませんから、基本的には、批判になれていません、従ってある種の自分たちに対する批判・圧力には非常にナーバスに身構えます。

 具体的に言えば許認可権を有する政府・官僚、広告収入の大顧客であるスポンサー企業、巨大広告代理店、全国的不買運動や政治的圧力を発する政治力を有する宗教団体や政治団体等、これらに対して日本のマスメディアはすこぶる弱腰になります。

 本来、マスメディアは欧米では「第四の権力」といわれ、巨大な権力を有する政府や大企業などの巨大組織に、正々堂々と批判的に対峙することが使命とされています。

 しかし日本のマスメディアは自分たちの独占利権を守るために、基本的に政治権力やスポンサー企業と親和的にならざるを得ないという、致命的な弱点を有しています。

 東京電力が地域独占企業にも関わらずなぜあれほどまでにTV・新聞の膨大な広告費をつぎ込んできたか、その答えがここにあります。

 ・・・

 強大な権力には臆病なチキンなのに、今回のようなある種の会見では被会見者に対して、ヤクザのように高圧的に阿婆擦(あばず)れるマスメディア記者の二面性は、どこからくるのか。

 「遺族の前で泣いたようなふりをして、心の中でべろ出しとるんやろ」

 「あんたらみんなクビや」

 「どんでもない会社や」

 「あんたたちは、ちゃんと仕事してるんか!」

 「覚えてないことはないだろう!」

 「あー、もう泣くのはいいから」

 「あんたらは107人、殺したんやぞ」

 「どの面下げて、遺族に会ったんや!」

 「命より仲間内の親睦なのか」


 これらの発言は6年前JR福知山線の事故を受けて、JR西日本の記者会見においてあるマスメディア記者がはいた暴言です。

 今回同様、品位のかけらも無いヤクザまがいの恫喝とも取れるフレーズが毎回の会見で飛び出しました。

 このときも世論は余りのマスメディアの横暴ぶりに大きな批判の声が出ます。

 実は今回の大臣に対する「説明しろって言ってんだよ!」発言と6年前の「あんたらみんなクビや」発言には、共通する2つの特徴があります、そしてそれこそがこの国のマスメディアのチキン体質を象徴しているのです。

 一つ目は会見対象者が社会的に「弱い者」であること。

 今回はすでに引退を表明した大臣であり、失礼ながら大物政治家とはとても言えないお方であり、6年前はいかの大企業とはいえ100人を超える犠牲者を出した大事故の当事者JR西日本です。

 両者に共通するのはすでに社会的に十分に弱い立場である点です。

 言葉を変えればこれはマスメディアによる醜い「弱者いじめ」の側面があるといっていいでしょう。

 論より証拠、私たちはときの総理大臣や大物政治家に、その者がどんなに批判すべき対象であろうと、マスメディア記者が今回のように「説明しろって言ってんだよ!」と強烈に対峙したことは見たことがありません。

 真の国家権力に対峙することなく、彼らは小物に対してだけ強圧的に振舞うのです。

 二つ目の共通点は、暴言を吐いている記者が会見場において、社名・氏名をいっさい名乗らずに匿名性をキープしつつ発言していることです。

 今回の大臣辞任会見においても問題の発言記者は大臣会見では社名・氏名を名乗ってから質問するというルールを無視しています。

 6年前の暴言記者もいっさい最後まで社名・氏名を名乗りませんでしたが、結局、週刊誌の記事により読売新聞大阪本社社会部遊軍T氏であることがわかります。

 週刊誌により自社記者の狼藉であることがばれた読売新聞社は、世間の批判に耐え切れず、紙面にて大阪本社社会部長名で全面謝罪に追い込まれています。

 リンクは切れていますが当時の読売全面謝罪記事から。
脱線事故会見巡る不適切発言でおわび…読売・大阪本社

 読売新聞大阪本社は12日、尼崎脱線事故記者会見での同社記者の不適切な発言について、社会部長名で談話を出した。

          ◇

 脱線事故をめぐるJR西日本幹部の記者会見で、読売新聞大阪本社の社会部記者に不穏当・不適切な発言があり、読者の読売新聞およびジャーナリズムに対する信頼を傷つけたことはまことに残念です。読者や関係者に不快感を与えたことに対し、深くおわびします。大阪本社は事実を確認した段階で、ただちに当該記者を厳重注意のうえ、既に会見取材から外すなどの措置を取っています。

 本社は日ごろから、日本新聞協会の新聞倫理綱領、読売新聞記者行動規範にのっとり、品格を重んじ、取材方法などが常に公正・妥当で、社会通念上是認される限度を超えないよう指導してきました。今回の事態を重く受け止め、記者倫理の一層の徹底を図ります。

 JR西日本の記者会見は記者クラブ員のほか、新聞、テレビ各社から常時100人から50人の記者が出席して事故発生の4月25日から連日開かれています。

 当該記者は、5月4日から5日未明の幹部の会見で、事故直後の対応や天王寺車掌区の社員がボウリング大会や懇親会を開いていた問題の説明を求め、「あんたら、もうええわ、社長を呼んで」などと声を荒らげたり、感情的発言をしたりしていました。

 JR側の説明が二転三転したため、会見は全体として詰問調になったようですが、当該記者の発言の一部は明らかに記者モラルを逸脱していました。

 この模様がテレビや週刊誌で報道されると、読者から叱責(しっせき)や苦情が寄せられました。使命感や熱心さのあまりとはいえ、常に心がけるべき冷静さを欠いたと言わざるを得ません。日ごろの指導が生かされなかったことに恥じ入るばかりです。

 脱線事故報道では今も、社会部などの記者70人前後が取材を分担、遺族らの声に耳を傾け、事故原因やその背景など、惨事の真相に迫る努力を続けています。引き続き全力で取材に取り組みます。

 大阪本社社会部長 谷 高志

2005/5/13/03:09 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050513ic01.htm
 この謝罪記事においてすら、当該記者の氏名は伏せられています。

 普段ネットの匿名性を批判しているマスメディアですが、このような問題を起こしたとき自分たちの記者は徹底的に匿名を守るという見事なチキンなダブルスタンダードがこの記事でよくわかります。

 ・・・

 本当の権力には対峙できず、「社会の木鐸」を自負しているこの国のマスメディア記者はルサンチマン意識の塊となっています。

 いきおい、彼らは自分たちの批判をしやすい「弱者」にときに極めて高圧的に振舞います。

 自分たちのルサンチマン意識を慰めるために、そして自分たちのチキン体質を自意識の中で自己否定するために。

 「打落水狗」(『溺れる犬は石もて打て』)

 結果、この国のマスメディアは溺れている犬に追い討ちを掛けるような醜態を晒すことになります。

 日本のマスメディアは醜い「打落水狗」のルサンチマンなのであります。

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