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  • ktdisk
  • 2021年11月15日 10:09

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』 選挙で多数決を用いるのは文化的奇習

先日、ボストンに衆議院選挙の投票のために行ったが、最近は下記のようなサイトで政党別、候補者別の政策がわかりやすくまとめられており、とても参考になった。例えば、選択的夫婦別姓制度の導入について、「賛成、やや賛成、どちらとも言えない、やや反対、反対」から自分の考えを選択し、自分の選挙区のどの候補者が自分に近いのか、またどの政党が自分の考えに最も近いのかを示してくれる。

www.ntv.co.jp

一方で、このようなツールを使って評価をしてみると、自分の選挙区の中から一人の候補者に投票をし、比例代表で一つの政党に投票をするという行為の限界というものが浮き彫りになる。安全保障政策ではある政党が良いと思うが、社会の多様性のあり方については別の政党が良い、という場合も当然あるし、自分の支持政党の候補者が自分の選挙区に立候補していないという場合もある。投票行為を通した民意の反映の仕方の難しさを実感し、少し腑に落ちない思いがあるところで、本日紹介する『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』を手にとってみた。


民主制のもとで選挙が果たす重要性を考えれば、多数決を安易に採用するのは、思考停止というより、もはや文化的奇習の一種である。

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』

本書は、導入部分で「選挙で多数決を用いるのは文化的奇習」という容赦ないパンチを読者に浴びせつつ、「自分たちのことを自分たちで決める民主主義を実現するためにとるべき仕組みはかくあるべきか」という壮大なテーマに対して、多数決以外の別のアプローチを紹介し、ルソーの『社会契約論』までさかのぼって民主主義のあり方を問い直す、という新書とは思えない重厚な構成となっている。こう書くと、やたらと難しそうな印象を受けてしまう方もいるかもしれないが、知識がない人にもわかるように丁寧に噛み砕いてかかれており、「選挙を通じた間接民主主義」のあり方を勉強するには格好の一冊であった。

前半部分はボルダルールやコンドルセ・ヤングの最尤法(さいゆうほう)といった多数決に変わる集計方法について、わかりやすい例を元に丁寧に紹介されている。先日の自民党総裁選で野田聖子議員が出馬することで票の割れが発生し、河野太郎議員が不利になるというケースが発生したが、泡沫候補が選挙結果を歪めてしまうという多数決の不完全性の好例だろう。そういう問題を解決する上で、紹介されていた2つの方法は非常に興味深かった。詳細は割愛するが、興味のある方は本書を手にとっていただくか、ググって頂きたい。

多数決自体のメリットは何と言っても「一番多い人が勝ち」という分かりやすさだ。ボルダルールにしても、コンドルセ・ヤングの最尤法にしてもそれ程複雑なわけではないが、多数決ほどの子どもでもわかる程の明快さはなく、導入に至るには認知度の向上も含めてかなり時間がかかるという印象を受けた。また、立法でそのルールを決める国会議員がその仕組みのど真ん中にいるため、自ら変革を進めることの構造的な難しさというのも大きい気がする。もう少し、導入に向けての実際の課題についても触れられていると説得力が増しただろう。

後半部分はルソーの『社会契約論』の骨子がわかりやすくまとめられている。ルソーを噛み砕いて説明することは本書の本筋ではないだろうが、投票方法のテクニカルな方法論よりも、私には知的に刺激的であり、学びは後半部分からのものが多かった。

有権者と代表の関係は「信託」と「代理」に分類できる。有権者が代表を選出する際に、候補者の諸問題への判断力を基準として選ぶのが信託、自分の利益を増進する代弁者として選ぶのが代理である。

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』

要するに、自分の利益につながるような政策を実施してくれる人に投票するのが「代理」で、自分の利益を脇においておき日本のためによりよい政治をしてくれる人に投票するのが「信託」ということだ。ルソーは、有権者全員が「信託」に基づいて投票をしなければ民主主義っていうのはうまくいきませんよ、と言っており、不純物ゼロ・混じり気一切なしの美しいきれいな世界を一筋の希望として提示している。その理屈自体はわかるのだが、そんなことが可能かと言われれば、正直できるわけないとは思う。が、「代理」という考え方があまりに前提になりすぎている俗世にまみれた私は、彼の主張に美しい民主主義の理念を見て、とても勉強になった。限られたスペースと私の力量で『社会契約論』の魅力を語るには到底無理があるが、本書の第3章はとても読み応えがあり、知的好奇心をかきたてられるので、興味のある方には是非手にとって頂きたい。

正直、アメリカに住んでいることが大きく、本当に久しぶりの投票になったのだが、投票を通して色々考え、勉強をする良い機会となった。総選挙くらいはアメリカ主要都市に脚をのばして、投票に行くかという気に今回なったが、車で往復10時間かけて領事館にドライブするのも、$1,000はらって飛行機で領事館に行くのも、$100ほどかけて日本から2ヶ月くらいかけて投票用紙を取り寄せるというのも、やはりハードルがかなり高い。せめて、投票用紙の請求を領事館に郵送で請求できるというくらいの手続きの改善がされると、ありがたいのだが、、、。

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