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  • ロイター
  • 2021年11月14日 08:05 (配信日時 11月14日 08:02)

焦点:NFTに競売大手が続々参入、「変化するアート」今後の課題は


[ロンドン 8日 ロイター] - 約240年前、レンブラントやルーベンスの傑作をエカテリーナ2世に売ったジェームズ・クリスティーは、自分のオークションハウスが将来、「バーチャルなサル」を暗号資産運用会社に100万ドル(約1億1000万円)以上で提供することになるとは夢にも思わなかっただろう。

1744年に入手困難な書籍を1000ドルほどでオークション販売していたサザビーズ創業者のサミュエル・ベーカーも、いつか自社がワールドワイドウェブ(WWW)のオリジナルソースコードを「非代替性トークン(NFT)」として500万ドル超で販売する日が訪れることは想像しなかったに違いない。

時代は変わる。

「誰もがNFTを売りたがっている」と語るのは、サザビーズで科学・ポップカルチャー部門のグローバル統括責任者を務めるカサンドラ・ハットン氏。「メールの受信箱が、その手のメールで溢れかえっている」

サザビーズが2021年に販売したNFTは、すでに6500万ドル相当に及ぶ。ライバルであるクリスティーズも、この新たなクリプト資産を1億ドル以上も販売した。NFTはブロックチェーンを利用し、画像や動画などのデジタルアイテムの「所有者」を記録する。だがその一方で、そうしたアイテムは他のオンラインファイルと同様に、自由に閲覧、複製、共有することが可能だ。

アートマーケット・リサーチが提供するデータによれば、クリスティーズ、サザビーズ両社の現代美術分野の売上のうち、NFTは約5.5%を占める。NFTの販売は昨年開始されたばかりだから、これは飛躍的な伸びだ。

大手オークションハウスでNFTの販売を担当する美術専門家がロイターに語ったところでは、NFT購入者の多くは、両社の得意先である富裕層の中でも新しいタイプ、すなわち暗号資産(仮想通貨)の分野で財をなした人々だという。サザビーズが6月にオンラインで販売したNFTは1710万ドルの売り上げをもたらしたが、購入者の70%近くがこうした新規顧客だった。

たとえば先月ロンドンのクリスティーズに出品され、98万2500ポンド(約1億5000万円)で落札となったサルのイラストのNFT3点を購入したのは、ネクソという暗号資産融資サイトを運営するコスタ・カンチェフ氏だった。

「退屈したサルのヨットクラブ(Bored Ape Yacht Club、BAYC)」と題された一連の原画は、クリスティーズが欧州で最初に販売したNFTであり、パンデミック以降では最大となった対面オークションの場で競売にかけられた。

時代の変化を象徴するように、カンチェフ氏が会場で肩を並べていたのは、デービッド・ホックニー、ジャンミシェル・バスキア、ブリジット・ライリーらの作品を狙う美術コレクターたちだった。

カンチェフ氏と共にネクソの経営に当たるアントニー・トレンチェフ氏は「会場の前の方にはスーツを着た人たち、脇の方には会場にいない参加者からの指示を仰ぐために電話に向かう人たちがいた」と語る。「そして後ろの方には、起業家や暗号資産業界の人たちが入札していた。スーツではなかったよ」

トレンチェフ氏によれば、「サル」を購入したのは、オンライン世界での「メタバース」の興隆を背景に、NFT市場が今後も成長を続けることに賭けたからだという。メタバースでは、アバターやファッションアイテムから、土地やビルに至るまで、事実上何でも売買できるのだ。

そう、デジタルアートはNFTの爆発的な売上増加から見れば氷山の一角にすぎない。NFTの販売額は、2021年第3・四半期だけで前期の8倍に相当する100億ドルを超えた。

トレンチェフ氏は「NFT用の金融ツールを新たに開発中だ。これがNFTというアセットクラスの普及を刺激するだろう」と語り、ネクソがNFTを原資産とする新たな金融商品を販売する可能性を示唆した。

メタバースに賭けているのは彼らだけではない。その名も「メタ」という新たな社名を掲げる時価総額1兆ドル近い企業、フェイスブックもその1つだ。ますます没入感を高める仮想環境・仮想体験こそが未来である、というのが同社の計算だ。

<ひっくり返された伝統>

ザッカーバーグ氏の予知能力の有無については将来的に分かるだろう。NFTブームは、シリコンバレーより数百年も長い歴史を持つオークション業界を新しい世界へと引きずり込みつつある。

オークションハウス大手各社は、新世代の購入者を集めるべく、ソーシャルメディアの活用に乗り出している。

クリスティーズでデジタルアート営業部門を率いるノア・デービス氏によれば、見込み客となるNFT購入者は、彼が美術コレクターを集めるときのお約束だった格式を捨てることを歓迎しているという。最近では、メッセージングアプリのディスコード経由で契約交渉を行い、オークションへの参加者登録をツイッター経由で案内している、と同氏は説明する。

「SNSは仕事の場だ。顧客サービスはSNS上で済んでしまう」とデービス氏はロイターに語り、伝統的な手法と比べて、このプロセスの圧倒的なスピードには驚かされる、と言葉を添える。

もうひとつ、大きな変化がある。オークションハウスはしばしば、クリプトアーティストから直接NFTを買い付けるという点だ。多くの場合、ほぼ正体不明の、ハンドルネームで呼ばれる作家らだ。

対照的に、リアルな美術市場では作家らがまず作品を売る相手は画廊であり、オークションハウスは伝統的に二次市場での販売に特化している。

「私が何よりも驚いたのは、作家らがオークションハウスと直接取引したいと思っているということだ。私たちはこれまで常に二次市場で活動していたのに」と語るのは、やはり世界的なオークションハウスであるフィリップスで20世紀・現代美術のシニアスペシャリストを務めるレベカー・ボウリング氏。

「伝統的構造はひっくり返された」と語るボウリング氏は、作家との連絡にツイッターとクラブハウスを使っているという。

<クリプトアートのリスクは>

だが、まだ馴染みの薄いメタバースに乗り込んだオークションハウスは、新たな次元のリスクにも直面している。特に、購入者たちがNFT購入の決済手段として好む暗号資産に伴うリスクだ。

オークションハウスが「本人確認(KYC)」と「マネーロンダリング防止(AML)」という2点で法的リスクに直面すると指摘するのは、仮想通貨を得意とする弁護士で、ニューヨークのダイレンドルフ・ローファームのパートナーであるマックス・ダイレンドルフ氏だ。

「このような作品は有価証券と見なされる可能性があり、画廊が作家や作品を選別する際には独自にデューデリジェンス(資産査定)を行う方がいい」とダイレンドルフ氏は語り、すでに暗号資産を利用したマネーロンダリングが行われていることは「周知の事実」になっていると指摘した。

サザビーズは、自社のKYCやAMLの手順に関するコメントを控えている。クリスティーズは、NFTの販売におけるKYC及びAMLの基準は、リアルな美術作品に対するものと同じだとしつつ、詳細についての説明は拒んでいる。フィリップスは、購入者のウォレットに十分な残高があるかをチェックしていると述べた。

もう1つの問題は、NFTはデジタル資産の所有権を明白に登録する方法として販売されているが、それでもトラブルが生じる可能性がある、ということだ。

サザビーズが6月に販売したNFTの1つは、初のNFT作品と称されるケビン・マッコイ氏によるシンプルな幾何学模様のアニメーション作品「クオンタム」で、購入者は150万ドルを投じた。だが、同じNFT作品についてもっと前のオリジナル版を所有しているという異議申し立てが起きたことで紛糾した。

これとは別に、サザビーズがワールドワイドウェブのソースコードを表現するNFTをオークションで販売した後(540万ドルで落札された)、コードの動画バージョンに誤りが含まれていることを識者が指摘している。

双方の事例についてサザビーズにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

マイアミ州を本拠とするコレクター、パブロ・ロドリゲス・フレイル氏は、NFTとリアルな芸術作品の双方を収集対象としている。同氏によれば、オークションハウスがデジタルの世界に参入する際の取り組みは非常に高く評価できるという。

「オークションハウスは、デジタルアートのエコシステムの標準化を進めている。彼らはまもなく正しい道を見つけるのではないか」とフレイル氏は語る。

「とはいえ、キュレーションの難しさと技術的な課題は重要なテーマだ」と同氏は述べ、オークションハウスが画廊のように一次販売に関わることの難しさを指摘する。

クリスティーズは16日、デジタルアート作家「ビープル」によるNFT新作を販売する。同氏のNFT作品は3月の同社オークションで6900万ドルの値を付けた。大手オークションハウスが、物理的には存在しない芸術作品を販売したのは、このときが初めてだった。

だが今回は、「ビープル」の作品は、NFTと同時に実体のある作品としても販売される。少なくともクリスティーズでは、実物の世界にもいくばくかの魅力が残っているようだ。

(Elizabeth Howcroft記者、翻訳:エァクレーレン)

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