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リモートワークをめぐる戦争が始まっている - 鈴木綾

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リモートワークや在宅勤務が日常化したコロナ時代。パンデミックが終結し、今や、在宅勤務を続けたい社員と「現場が第一」の上司たちの間に戦争が始まってる。

今勤めているロンドンの会社でこの摩擦をしみじみ感じる。ロックダウン中はみんながやむを得ず在宅勤務をしていた。しかし、外出・移動制限が解除されてすぐ、会社の幹部が方針を変えた。

「イギリスの住んでいる社員は少なくとも週に2回出社しなければいけない」と。

今振り返ってみると、パソコンで仕事ができるオフィス・ワーカーの間で在宅勤務が今回のパンデミックより前に普及してなかったのは逆に謎だ。Yahoo!アメリカは2013年になんと、テレワークを禁止した。パンデミックはやっと「パソコンでできる仕事はオフィスでやる仕事」という既成概念をぶち壊して、数多くの会社員が新しい働き方に目覚めた。

ロンドンの会社に勤めている人は、別に暗いロンドンの狭いアパートにいなくてもいい。ポルトガルの海辺のアパートだっていいし、イタリアのワイナリーだっていい。ネットさえあればどこででも仕事はできる。

もともと最初のロックダウン中に「在宅勤務」だったのが、もっと幅広い、自宅以外のいろんな場所で勤務する「リモートワーク」になった。そして、「仕事はどこでするものか」を決める力が会社から社員に移った。パンデミックのせいで、会社は社員の健康を最優先にしなければいけなかったから。英語の表現で言うと、一度外に出た魔物は瓶の中に戻せない。

うちの会社は特にそう。

例の「社内恋愛がだめ」なクリスくんにはオーストリアに一人暮らししている85歳のおばあちゃんがいる。彼はおばあちゃんの介護のために、ほぼフルタイムでオーストリアに住んでそこで仕事しようとしている。一方で、会社は彼がイギリスにできるだけ残るように要求している。

会社は10月から、社員に海外での勤務(本当の意味での「リモート」ワーク)を最長、年に4週間までに抑えるよう社員に求めている。理由はさまざまある。税金の問題が一つ(ある国に長く住むとその国で税金を払わなければいけなくなる) 。でも一番大きいのは、社員にオフィスで交流したりコラボレーションしたりしてもらいたいから。

でも幹部たちの言うことは矛盾している。実際、海外に住んでいる社員もいる。社のナンバー2(社長の次に偉い人)はロンドンから電車で3時間も離れている街に住んでいる。彼女はできるだけ週に2回のルールを守ろうとしているけど、やっぱりその距離だと難しい。

クリスくんがよく言う。例えば、イギリス出身の人が月火に出社して、実家に戻って水木金に仕事を実家ですればバツは付けられない。実家がイギリスにあれば海外にカウントされないから。でも、彼みたいに、実家が海外にある人はそうはいかない。

友達のお母さんも勤め先と似たような喧嘩をしている。

彼女のお母さんは政府機関で弁護士をしている。秘密情報を扱っているので、去年の3月にロックダウンが始まったとき、政府機関はお母さんが家で秘密情報を扱えるように特別なインターネットを整備してあげた。

お母さんは勤務先からかなり遠くに住んでいる(通勤はドアツードアで2時間かかる)。62歳の彼女はやっぱり通勤が疲れるし、家で仕事した方が圧倒的に楽。数ヶ月前、勤務先がオフィスを再開して、週に2回のオフィス勤務を義務付けた。で、友達のお母さんは怒っている。彼女はもうオフィスに行きたくない。

クリスくんの場合も、友達のお母さんの場合も、誰が正しい?

クリスくんも友達のお母さんも少しわがままが過ぎているのかも、とは思う。クリスくんは複雑な家庭環境に置かれているのはわかるけど、現実的に彼はイギリスに住んでいて、イギリスの会社に勤めている。イギリス在住の社員として会社と雇用契約を結んでいるんだから、会社の言うこともなんとなくわかる。

友達のお母さんもそう。彼女は豊富な年金をもらうために官僚になった。もう60歳を過ぎているからあと数年で引退できる。目的が年金をもらうことなら、残り数年、週に数回のオフィス勤務を我慢するのはとんでもない要求でないと思う。

世の中が正常に戻ると、こういう喧嘩は増えると思う。リモートワークは本当に新しい制度だから、会社側も社員側も何が適切かわからない状況になっていても不思議ではない。一般的な合意が見えてくるのは何年もかかるだろう。

私も答えがよくわからない。働く場所は誰が決める? リモートワークは仕事の内容で決めるべき? 会社の文化で決めるべき? 社員一人一人の生活状況で決めるべき?

時間が経てばわかるだろう。

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