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TPPに関する日米共同声明について

日米首脳会談を踏まえ、TPPに関する共同声明が発表された。これを受け、日本の新聞各紙は、こぞって「関税撤廃の例外を容認」といった見出しを打っているが、なぜこうした報道になるのか、違和感を覚える。


なぜなら、今回の日米共同声明は、何ら新しいことを言っていないからだ。


そもそも、TPPに関して、“交渉の結果として”例外が一切認められないとは、米国は一度も言ったことはない。彼らのTPPの定義は、終始一貫して、「包括的で高い水準(comprehensive, high-standard)」だ。今回も、同じ表現(「包括的で高い水準」)を使っている。


どの国にも、国内配慮が必要な、いわゆるセンシティブ品目があり、それらに一定の例外を認めることは、当たり前の前提だ。だからこそ、参加表明をした国々は、交渉を行っているのだ。


なお、民主党政権下で閣議決定した「包括的経済連携の基本方針(平成22年11月9日)」の中でも、「センシティブ品目について配慮を行いつつ、すべての品目を自由化交渉対象とし、交渉を通じて、高いレベルの経済連携を目指す。」とされている。


つまり、日本のメディアが日米会談の成果だと大々的に報じている「一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する」という文言は、いわば当たり前のことを文章化しただけに過ぎないのである。


むしろ、TPPの本質は、“交渉の結果として”例外が認められないのではなく、“交渉の前提として”すべての品目を交渉対象に載せるとのルールになっていることにある。実は、この点については、共同声明の中でも、「全ての物品が交渉の対象とされる。(all goods would be subject to negotiation)」と明確に述べられている。この原則は不変なのだ。


衆議院選挙時の公約を忠実に守るなら、交渉対象品目の例外を勝ち取るべきだったなのだ。例えば、コメだけは交渉のテーブルに載せないなどの例外だ。しかし、こうした例外措置についての確約は全くとれていない。


繰り返しになるが、TPP交渉とは、「すべての物品が交渉の対象」となり、「包括的で高い水準を達成」を目指し、「最終的な結果は交渉の中で決まっていく」交渉なのである。よって、当然、例外はあり得るが、それは交渉次第なのである。


逆に言えば、多国間交渉の結果、すべての品目の関税撤廃を求められる可能性は、依然として残されている。現時点において、何らかの「聖域」が確保されているわけでは全くないのだ。


このように、今回の共同声明の文章には、日本の国益を守るための何か新しい約束が盛り込まれているわけではなく、あくまで、これまでのTPPの原則を改めて文章にしただけに過ぎない。


しかし、その一方で、米国側は、彼らの意向を巧みに共同文章に書き込むことに成功している。特に、問題なのは、最後のパラグラフだ。


私が、これまで、TPP交渉に関して絶対やってはいけないと主張してきたのが、交渉参加のための、いわゆる「前払い」だ。


まり、TPP交渉に参加する前に、米国から二国間ベースで満たすべき条件を提示され、それを受け入れることだ。


そんな交渉は、対等な交渉ではない。すべての品目を交渉対象にし、TPP交渉の中で(during the negotiations)決するべきで、TPP交渉の前(before the negotiations)に、何かを譲ることを約束するようなことをすべきではない。


それこそ、国益を害する行為だ。


この最後のパラグラフには、TPP交渉の参加を米国に認めてもらうための「前払い」の中身が、具体的に示されている。例えば、自動車や保険、そして、様々な非関税障壁だ。それらが満たされなければ、彼らの言うTPPの高いレベル(high standards)をクリアしないと言われているのだ。


残念ながら、今回の共同声明は、「守るべき国益は全く明確になっていないのに、譲るべき国益だけが明確になった」文章なのである。それなのに、「関税撤廃の例外を容認」と喧伝している我が国メディアの在り方には、首をかしげざるを得ない。本質が見えていないのではないか。

共同声明の第2パラグラフの言い振りを米国に容認してもらう見返りに、第3パラグラフの「前払い」を譲ったとしたら、これほど、国益を害することはない。将来に大きな禍根を残す可能性がある。

私は、安倍政権の方針として、TPP交渉参加を決定することに異を唱えているのではない。ただ、先の衆議院選挙で、あたかもTPP交渉に参加することはしないかのような公約を掲げて選挙に勝利し、政権をとった途端に、詭弁を弄して、十分な国民的議論もないまま交渉参加を決めてしまうやり方は、あまりに不誠実だと言っているのだ。


自民党や公明党内の慎重派の皆さんは、こんなやり方に納得できるのだろうか。また、民主党政権下では、大規模な反対集会を繰り広げてきた農業団体の皆さんも、こんな対応を許せるのか。外交交渉は政府の専権事項であることは当たり前だ。しかし、こうした不誠実なやり方を続けていけば、政治に対する信頼は、ますます失われていく。


安倍政権は、今後、TPP交渉を加速化させていくと思うが、十分な情報公開と、国民に対する誠実な対応を強く望みたい。あわせて、協定の妥結に至る前に、影響を受ける農業などに対する国内対策を、財源も含めて具体的に示してもらいたい。「先対策、後解放」は、最低限守るべき原則である。


そして、国益を守るため、「前払い」などは認めてはならない。

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