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  • 2021年11月12日 12:03 (配信日時 11月12日 06:01)

コロナ移住で地方活性化という幻想 必要なのは移住者に活躍してもらう「仕掛け」 - 岡田 豊 (みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部経済調査チーム上席主任研究員)

岸田文雄新政権の信を問うともされていた衆議院選挙は、自民党と立憲民主党がともに議席を減らし、日本維新の会が前回の約4倍の議席を獲得する結果となった。これまでの自民党政権でなく、共産党と共闘した立憲民主党でもない、改革志向の維新が支持を得たとも言えるが、実は「都市と地方」の課題にも密接に関わっている。

自民党や立憲民主党といった既存の政党は、地方への富の配分に力を入れる「地方重視」とも言える政策を昭和、平成、令和にかけて進めてきている。さらに、新型コロナウイルス対策として、都市部の移動を制限するといった施策がとられてきた。都市部の有権者、特に若者世代は、既存政党にない新たな〝選択肢〟を求めている。そこに、大阪府という都市部を中心に政策を組む日本維新の会を選んでいると見ることができる。

自民党は衆院選で、序盤の劣勢から単独で国会を安定的に運営できる「絶対安定多数」を確保するまでに踏ん張ったが、重要なのは、来夏に控えた参議院選挙となる。日本の政権交代は、2009年に民主党政権が誕生したのをはじめ、参院選で過半数を失うことに端を発している。岸田政権にとっては、来夏の参院選が「天王山」と言える。都市部の有権者をいかに動かすのか、地方のビジネスをどう動かすのか、文脈を作ることがカギとなっている。


(show999/gettyimages)

「コロナ移住」をどう読むのか

都市と地方について、昨今メディアを中心に話題となっているのは、コロナ禍で地方移住が進み、地域が活性化していくのではないか、というものだ。企業がリモートワークに舵を切り、週に数回または月に数回しか大都市のオフィスに出勤する必要がなくなり、住み心地が良い地方に引っ越ししているという潮流である。

ここで、東京圏をめぐる転入・転出を見てみよう。総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」によると、就学・就職に伴う人口移動が多い21年4月の東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の転入超過数(転入-転出)は、コロナ前の19年4月に比べて減少しているものの、コロナ禍でも転入者が転出者を上回る転入超過となっている。つまり、コロナ禍にも関わらず、東京一極集中は緩やかに進んでいるといえる。

また、フルリモートワークの進展で大都市での仕事を持ち込んだまま地方に移住する「転職なき移住」が増えている。その移住者が自宅を仕事場として地域とあまり関係をもたないのであれば一種の「ひきもこり」ともいえ、移住者が地方にもたらす経済効果は限定的であろう。

人口という数ではなく、地域への「創造」を

地方が真に求めなければならないのは、移り住む人の「数」ではなく、移り住んだ人に地域活性化をもたらす「ゲームチェンジャー」になってもらうことだ。

企業がリモートワークを進めている背景の一つとして、リモートワークが採用活動のウリになりつつあることを挙げることができる。高い給与を払えない、または強いインセンティブをつけられない企業が優秀な人材や若者を採用するためには、「リモートワーク可」や「フルリモートワーク」といった条件が必要とされるようになっている。アフターコロナでもリモートワークはメインの働き方ではないとしても一定の割合で残るであろう。

特に、フルリモートワークと相性の良い企業は、IT関連やベンチャー企業だろう。こうした企業に勤める人が地方に住むのであれば、その人たちを活躍できる場を設けることが地域活性化の近道となる。昔から、地域活性化には「よそもの、わかもの、ばかもの」を活用すべきとされてきたが、転職なき移住で地方に移住するIT人材やベンチャー企業に勤める人材は地域活性化にはまさにぴったりといえよう。

ただし、「仕掛け」が重要である。キーワードは兼業・副業である。本業を持つ移住者が兼業・副業というトライアルを通じて移住先で活躍できる場を見出すことで、地域が活性化するとともに、移住者が地域に根差して定住してくれる可能性が高まるからだ。

例えば、自治体にとって、住民票の提供といった住民サービスや職員の給与計算・福利厚生などの内部管理といった行政事務のデジタル化は大きな課題となっている。こうした業務に対し、転職なき移住で地元に住むIT関連企業の社員に副業・兼業でアドバイスを求めたり、アウトソーシングしたりすることで、お互いの必要性を確認しながら徐々にデジタル化を進めることができよう。

また、「新たな挑戦がしたい」「さまざまな仕事がしてみたい」というニーズを持つ移住者に、兼業や副業でトライアルの場を与えることも重要だ。兼業や副業により移住先の企業などと実際に関わりをもつことで、移住者が移住先の企業に活躍の場を見つけて転職したり、移住先の企業との協業や助けを借りて起業することも可能になろう。

行政のデジタル化の仕事も、地域での新たな事業も、副業・兼業から始まるのであれば地域にとって大きな負担とならない。こうした仕事を大都市のコンサルティング会社などに頼むと、膨大な費用がかかってしまう。それに対して、住み心地が良いと思って来てくれた人に副業・兼業を通じて「場」や「出会い」を与えることで、地域に変化を与える好機を得ることになる。

企業の歯車として働いているより、地域のために働いている方がやりがいを持てると思う人は多いだろう。そうした変化は、「ひとり」であってもできる。地域活性化とは、人をたくさん呼ぶことではなく、新たなビジネスや風を起こすことになりつつあるのだ。

行政は金よりも人を出そう

こうした動きのために、地方、特に自治体に期待したことは、お金を出すのではなく、汗をかくことだ。

移住者の能力と行政の課題をマッチングさせること、地域のために働いてみたい移住者と地域の有力企業の経営者の出会いの場を作ること、そんな黒子のような存在が求められている。

2000年代に、富士宮焼きそばを全国的に有名にさせた「2人のわたなべさん」がいた。静岡県富士宮市で食べられ続けてきた特徴的な焼きそばを、イベント企画や情報発信により10年間で約500億円もの経済効果を生み出すことに成功した。

その一人、渡邉英彦さん(18年12月、59歳で死去)がまず、この焼きそばを地域の宝と考え、仲間とともに「富士宮やきそば学会」を旗揚げした。市内の焼きそば店の地図を作成したり、大型の鉄板で大量の焼きそばを作るイベントを開催したりと、ユニークなPRを進めていた。

これを陰で支えたのが当時、市職員だった渡辺孝秀さんである。同じく郷土焼きそばがある自治体との連携や、他のエリアでのイベントの調整・仲介役を担った。全国のメディアからの取材対応にも尽力した。

移住者を受け入れる地域には、このような活躍を陰で支える動きが必要となってくる。面白いことや新たな取り組みを始めるためには何でもする。予算をかけるのではなく、人をつけることが大事なのだ。

地方は、移住者を受け入れれば地域が活性化すると思うのではなく、「移住者を使い切る」という姿勢で臨まなければならない。人を集めるだけから、集まった人から何か新しいことをする。これが本当の「地方創生」になるのではないだろうか。そこで生まれた地方の姿は決して東京の歯車ではなくなっている。

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