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日米が向かう大バブルへの道―岩本沙弓(大阪経済大学客員教授)

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※初公開日:2013年02月12日

円安が進み、株価が上昇したのはアベノミクスゆえと、すっかり国内は新政権の経済政策の話題一色となっている。日本人である以上、国内の材料にある程度集中してしまうのはやむをえないとしても、グローバル経済の真っ只中にある現代、残念ながらアベノミクスだけで国際金融市場の動向が決まるわけではない。

たしかに、昨年あれほど騒がれていたユーロも危機的状況からはいったん落ち着きを取り戻し、領土問題は盛んに取り沙汰されているものの、中国経済もパッとしない。米国は、つい最近まで「財政の崖」が騒がれていたが、それも新年早々あっさり法案が可決され収束。相場を動かす海外要因はそれほど発生していない、と思われるかもしれない。

それでも、これまでさんざんグローバリズムや各国の通貨切り下げ競争の犠牲者といった立ち位置で、世界経済のなかで翻弄され続ける日本の姿を炙り出していたにもかかわらず、新政権が誕生するや否や、外部要因を俯瞰せず国内要因だけに目を向けるというのもおかしな話ではあるまいか。

とくに、同盟国である米国ではオバマ氏の2期目の大統領の任期がスタートしている。米国の経済政策の日本への影響を排除するわけにはいかないだろう。

◆株高・円安は国内要因だけか◆


日本の株価の上昇要因として、昨年11月から今年1月にかけて、1ドル=70円台から90円台まで一気に進んだ円安が挙げられることが多い。では、この急激な円安はアベノミクスがすべての誘因なのだろうか。衆議院の解散発言から実際の解散までがわずか3日、その直後に日銀法の改正の提示や、物議を醸した安倍総裁の「日銀の建設国債引き受け」発言があった。たしかに長らく停滞していた1ドル=79円台から動き出したものの、実質2円程度の動きに留まり、7カ月ぶりの82円台に突入したのは日本の貿易収支の悪化を受けてのことである。

アベノミクスで盛り上がっているところに水を差すようで恐縮ではあるが、つまるところ、突如の解散という日本政治への不信と日本のファンダメンタルズの悪化で為替市場が円安に動き出し、単純に円安を好感した株式市場が上昇したという状況である。

理由はどうであれ、株式市場が好転、景況観が明るくなることはよいことではないか、という声を否定するつもりはまったくないが、いまのところ動きは所詮、金融部門にすぎない。日本経済にとって前向きな姿勢が見受けられるのは初動としては十分であるが、これが広く国民の所得を潤すような実体経済の成長へと結びついていくのか、こちらのほうがより重要な問題である。

ところで、前述したのはあくまでも日本の国内要因から見た為替市場の動向のみである。日本が解散→選挙報道に明け暮れているころ、米国ではにわかに「シェールガス・オイル」が注目を集め、一気に盛り上がりを見せていたのである。そこには11月12日になって、突如米国の主要メディアが一斉に米国を「新しい中東」と位置付けて報道したという顛末があった。

じつは、これには少々意図的ないきさつがある。11月に一斉配信された内容は、さらにその3週間ほど前に遡った10月23日に、AP通信が報じた“US may soon become world's top oil producer(米国は間もなく世界一の産油国へ)”のほとんど焼き直しであったのだ。

AP通信の第一報と二次配信の唯一の違いといえば、国際エネルギー機関(IEA)の名前が出ているかどうか、という点に絞られる。IEAは第一次石油危機後の1974年にキッシンジャー米国務長官(当時)の提唱を受けて、OECDの枠内の機関として設立された。加盟国の石油を中心としたエネルギーの安全保障を確立するとともに、中長期的に安定的で持続可能なエネルギー需給システムの確立を目的とする機関とされている。いうなれば国際的・公的機関のお墨付きをいただいた情報であるとして、あらためて二次配信がされたようなものである。信憑性の高さを付加してテレビや新聞を通じて報道されたことで、一気に米国で盛り上がったのだ。

1990年代は1バレル=20ドル未満だったWTIの原油価格も2008年には一時1バレル=140ドル台を見ることとなり、ピークから価格は下がったものの、現在でも引き続き100ドル前後を推移している。こうした原油価格の高止まりは、これまで採算が合わないとされてきたシェールガス・オイルの採掘に俄然、費用対効果をもたらすことになった。

シェール層は天然ガスや石油の主成分である液化炭化水素から成っており、採掘に高度な技術を要する。その技術革新も相俟って、米国産の天然ガスは2005年と比べると、2012年は1.3倍に産出量が増えている。現在、世界最大の産油国はサウジアラビアの日量1160万バレルであるが、米国の産出量は2013年には1140万バレルとほぼサウジアラビアに並ぶ勢いで、2020年ごろには1300万~1500万バレルと完全に追い抜く予想がされている。まさに「新しい中東」と指摘されたゆえんでもある。

メジャーといわれる石油業界も手を拱いているわけではない。たとえばエクソン・モービル社はカナダからノースダコタ州・モンタナ州に広がる米国最大のバッケン・シェール油田の購入費用が10億6000万ドルになることを2012年9月に公表、これで同社のバッケン・シェール地域の占有率は50%(60万エーカー)になった。

こうした自国産の天然ガスや原油の増産と同時に、米国の対外石油依存度が低下している。米エネルギー省情報局は2005年のピーク時の60.3%から2013年は44.6%になると予想する。その背景には、オバマ政権が取り組んできたクリーンエネルギーの推進や原油価格高騰による消費自体の抑制の効果もあろうが、やはり、シェールガス・オイルの実質的な増産による影響が大きい。

さらには、主に中南米諸国に向けて輸出されているガソリンや重油等の米国産石油製品の輸出量は2005年に比べ、2010年には3倍まで急増している。

実際に原油輸入の減少とともに、石油輸出が急激に伸びている状況から、間もなく米国が新しい世界の「エネルギー資源供給国」になる、という記事の指摘もあながち嘘ではなさそうだと思えてくる。となれば、これまで慢性的な貿易赤字で悩まされてきた米国は黒字転換、貿易収支を構成要素としている経常収支の赤字も改善するはずと市場は期待する。その結果、為替市場においてはドル買いが発生しやすい状況が生まれてくる。

時系列にドル円の為替レートと事象を追いかけてみると、10月23日のAP通信が配信された時点での動きは鈍い。米有力紙である『ワシントン・ポスト』などはAP電を受けて、国内のエネルギーや環境問題を扱うBrad Pumer 記者が「米国はサウジアラビアにはまったく追い付く準備が整ってない」とする記事を掲載しており、この時点ではAP電に対して懐疑的な様子が窺える。

しかし、IEAの太鼓判を押された情報が11月12日に複数社から流されると、『ワシントン・ポスト』も今度は経済コラムニストであるRobert J. Samuelson が「結局のところ、米国はエネルギー自給国となる」と、以前の自社の記事を否定する内容を載せている。

雪崩を打ったような配信、しかも内容は二番煎じで横並びだったことから、ある程度意図的に情報が流されたと想像はできるが、このときを境にドル円レートでドル上昇に弾みがついている。国内要因もさることながら海外要因、とくに米国内での資源の自給自足の目処が立つというシナリオが今回の円安の起点にはあった、という多角的な分析も必要であろう。

実際に今後シェールガス・オイルは革命を起こす起爆剤となりうるであろうし、米国経済の牽引役となる可能性が非常に高くなってきた。世界のエネルギー地図を塗り替えることにもなろう。そういう意味では、日本にも地熱やメタンハイドレートなど自国産の次世代エネルギーの可能性がある。折しもアルジェリアの悲報が伝えられている。自国産のエネルギーが確保されれば資源を海外に求める際のこうした悲劇もリスクもなくなるはずだ。ぜひ安倍政権にも、エネルギー開発の分野に資本投下を行なってもらいたい。

◆シェール・バブルの可能性◆


すでにニュース等で伝えられているとおり、シェールガスやオイルの採掘産業には裾野の広さがある。採掘そのものだけでなく、運搬する際のパイプラインや鉄道建設などにも及び、実際にシェール油田のある地域の失業率は改善してきている。まさに雇用と経済成長を促進するエネルギー政策となりつつある。

オバマ政権はこの状況をどう見ているのか。ちょうど2期目の就任演説が行なわれたので、1期目の演説で新エネルギー戦略に触れた部分と比較してみたい。
 2009年 就任演説

 We will harness the sun and the winds and the soil to fuel our cars and run our factories. And we will transform our schools and colleges and universities to meet the demands of a new age. All this we can do. All this we will do.

 太陽、風や土壌を利用して自動車の燃料とし、工場を動かす。学校や単科大、総合大学を新時代の要請に合わせるようにする。これらすべてがわれわれには可能だ。これらすべてをわれわれは実行するのだ。

 2013年 就任演説

 The path towards sustainable energy sources will be long and sometimes difficult. But America cannot resist this transition, we must lead it. We cannot cede to other nations the technology that will power new jobs and new industries, we must claim its promise. That's how we will maintain our economic vitality(後略)

 持続可能エネルギーへの道は長く、時に困難を極めるだろう。しかし、この変革を拒否することはできないし、米国が主導的な役割を担うべきだ。新規雇用や新産業を創出する技術を他国に譲渡することはできず、われわれはこの明るい兆しを追い求めなければならない。それがわれわれの経済活力を維持することになる(後略)

2009年がより抽象的・情緒的な内容が安易な言葉で表現されているのに対して、2013年は対外的な戦略にも踏み込んだ、直接国民の生活や意識に訴える非常に対照的な内容となっている。今後シェール革命の具体的な方針に触れられれば、新エネルギーへの期待は一層膨らむことになろう。

もちろん、その可能性には大いに期待したいが、新興国や途上国の潜在的なエネルギー需要は旺盛であり、中東情勢は緊迫したままであれば、エネルギーの国際価格の高止まりは続くだろう。そのようななかで、たとえ米国内の天然ガスや原油の生産量が増えたとしても、米国内のガソリン価格の引き下げが即座に実施されることはないだろうし、枯渇燃料である以上、米国がそれを積極的に輸出に回すかどうかも未知数である。

一方、現実問題を別にすれば、米国内に「新エネルギー革命」として投資資金を呼び込むには格好の材料であるのは間違いない。財政赤字を抱える米国政府としては、海外資金の流入を促すことはあっても、抑制することはあるまい。

そして、市場参加者はあらゆる材料を前倒しで消化していくクセがある。好材料が出てきたとなれば、それを先取りして価格を吊り上げ、ひと儲けを狙う投機家も時間の経過とともに増えていくだろう。

ちょうど90年代後半のITバブルを思い出していただければ、と思う。たしかにIT革命はわれわれの生活を一変させた。それでも、ITという言葉が登場してインターネットが世界中に敷かれるまで、あるいは実際にわれわれの手元にiPadが届くまでには10年や15年という時間軸が必要なのである。

グリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長(当時)に「理由なき熱狂」とまでいわしめたその後も株価は数十年分を先取りして上昇、バブルを発生させてしまった。2期連続で大統領を続けたクリントン政権では2期目がまさにそのITバブルであり、任期終了の最後の年には崩壊を迎えている。

ところで、ブッシュ政権でも2期目に住宅バブルが発生し、任期終了とともに弾けていった。このサブプライム危機以降、世界の主要国はふんだんな資金供給を実施してきた。実体経済に流れるわけでもなく、金融部門に留まっていたとてつもない資金が今後一挙に米国へと流れる要素は多分にある。ニューヨーク・ダウがいつの間にか、史上最高値に迫ってきた背景もここにあるのではないか。

過去の経緯に鑑みれば、バブルを看過する政府や金融当局がいて、相場の変動から利益を狙う投機家が存在する以上、シェール革命がバブル化する可能性は否めまい。オバマ政権の第2期目の2013~15年にシェール・バブルが生成され、16年の次期大統領選挙前後に破裂となるのではなかろうか。

過去最高の金額が供給され、それが一斉に逆流するのであるから、山が高ければ高いほど、その後の谷は深くなろう。2017年以降、米国発の世界恐慌入りというシナリオも考えられる。

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