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私たちはたまたま平和な日本に生きているにすぎない - 「賢人論。」第151回(中編)渡邉英徳氏

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東京大学大学院の渡邉英徳教授は、東日本大震災から10年の節目となった今春「東日本大震災ツイートマッピング」を公開した。そこには、SNSが普及しはじめた2011年だからこそ残せた被災者の「声」がある。「東日本大震災ツイートマッピング」に集約された人々の思いは、災害発生直後の不安や困惑をダイレクトに表しており、今後の大震災に備えるメッセージにもなっている。長年「災いの記憶の継承」に取り組んできた渡邉氏が、今大切に思うこととは。

取材・文/みんなの介護

災害発生時の状況を思い出し、未来に備えることができる

みんなの介護 今年公開されたものとして、Twitterのつぶやきを集めた東日本大震災のアーカイブがありますね。

渡邉 2011年3月11日の震災発生から24時間以内に日本語でつぶやかれた世界中の位置情報付きのツイートを集めた「東日本大震災ツイートマッピング」です。

東日本大震災ツイートマッピング』 (東京大学大学院 渡邉英徳研究室 2021年)

地図上を探索しながらツイートを一つひとつ眺めていくことで、東日本大震災が発生した当日の人々の気持ちをリアルに感じとり、今の私たちの身の周りに引き寄せて捉えることができます。

10年前はかなり昔のことともいえるので、直接被災した方以外は、震災直後に「感じていたこと」は忘れているのではないでしょうか。むしろ、その後テレビなどで頻繁に目にした津波の映像などの記憶が強く残っているかも知れません。一方、Twitterには「そのときどう感じたか」がつぶやかれており、今も情報空間に残っています。

このように、瞬間瞬間の「思い」を残していける時代になったのは、とても大きな変化といえます。Twitterなどが現れた時代だからこそのアーカイブと言えるでしょう。

もし、10年経った今、ふたたび大地震が起きたらこうした率直な気持ちはつぶやかれないと予想します。10年前と比べて、たくさんの人がTwitterを使うようになりました。そのため、炎上や個人を特定されることを恐れて、人々は、ある意味で無難なことをつぶやくようになっています。その点でいえば、このアーカイブに収録した2011年のTwitterのデータの方が、リアルな感情を表していそうです。

そして、一昔前の10年前だからこそ、今年公開できたともいえます。先日首都圏で震度5強を記録した地震がありました。このデータを地図に載せたとしたら「個人が特定される危惧がある」といった物議をかもすことになりそうですね。

「東日本大震災ツイートマッピング」は、私たちの時代ならではの記録といえます。100年前のスペインかぜは、新聞などのマスメディアや写真などの資料によって記録されています。私たちの時代は、一人ひとりが瞬間に抱く「気持ちのアーカイブ」がつくれるのです。

みんなの介護 なるほど。近い将来起こると言われる大震災のために、学べることがありそうですね。

渡邉 そうですね。先程お話したように、10月には関東で東日本大震災以来となる震度5強を記録した地震がありました。「10年前のあの日、どんな気持ちだったか」ということを、みなさんは思い出したかもしれません。おそらく普段は忘れていたことですね。

当時の生々しい「気持ち」を、もう一度思い返してみることは大切です。過去に起きた災害の記憶をときどき取り戻しながら、これから起きる災害に備えなければいけない。

例えば、災害が起きたとき、誰もが慌てます。そのような中、どのように落ち着きを取り戻し、連絡を取り合うのか。当時の心持ちを思い出し、身近な方々と対策を話し合うことが必要です。

みなさん覚えているでしょうか。2011年には、Twitterはほぼ問題なく使えましたが、携帯電話の通話はまったくだめでした。メールも届きにくくなっていました。LINEはまだ使われていませんでした。しかし、今大地震が起きたら、みなさんがLINEで連絡を取り合おうとして負荷が高まり、使えなくなるかも知れませんね。

段階を踏んで災害時の状況を理解できるデザイン

みんなの介護 仕事において大切にしているポリシーはありますか?

渡邉 いくつかあります。たとえば、デジタルアーカイブズ・シリーズは「一瞥でストーリーが暗示される見栄え」を意識してつくってきました。「ヒロシマ・アーカイブ」では、広島にズームしていくと、上空に赤い球体が浮かんでいます。この球体は原子爆弾の火球です。火球の下にたくさんの方の顔写真が並んでいることによって、原爆投下がもたらした被害についての作品であることが示唆されます。

ヒロシマ・アーカイブ』(ヒロシマ・アーカイブ制作委員会 2011年)

美術館などの設計と似ています。建築の空間設計においては、文字の説明に依存するつくりにはしません。空間のデザインによって、鑑賞者みずからが展示の内容を把握し、探索していくのです。実際に「ヒロシマ・アーカイブ」の画面には、文字情報はほとんどあしらわれていません。

さらに重要なことは、災いについてのアーカイブを閲覧するための心構えをしてもらうことです。広島・長崎・東日本大震災などのアーカイブには、悲惨な記憶がたくさん詰め込まれています。まず襟元を正してもらう。それから静かに資料に分け入ってもらう。そうしたデザインを意識しています。

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