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【読書感想】ニュースの未来

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ニュースの未来 (光文社新書)
作者:石戸 諭
光文社





Kindle版もあります。

ニュースの未来 (光文社新書)
作者:石戸 諭
光文社

新聞は若い世代に読まれず、テレビは視聴者離れを憂い、綺羅星のようなライターを生み出してきたいくつもの雑誌の休刊が相次いでいる。
コストがかかる、という理由で十分な取材費も出せず、ニュースを巡る環境は悪くなっていくばかり……と誰もが思っているなか、本当に希望はないのか。
これらのメディアの未来とは? インターネットメディアの功罪を踏まえながら、気鋭のノンフィクションライターがニュースの本質を問う。

 最近、紙の新聞を読んでいますか?
 恥ずかしい話ではありますが、僕はもう何年も紙の新聞を買ったことがないのです。そういえば、このあいだ、スポーツ新聞の競馬予想コーナーは読んだな……

 とはいえ、ネットニュースも目に入ってくるのは芸能人の不祥事や皇室の結婚問題、テレビで松本人志さんがこう言っていた、みたいな話題ばかり。

 ネットニュースって、本当にPV(ページビュー)稼ぎ目的の安直な記事ばかりでどうしようもないよなあ……と言いたいところなのですが、結局のところ、そういう記事のほうが読まれているのでしょうし、これまで見た記事の解析の結果、僕好みの記事として、松屋の新しい定食とか芸能人のグラビア情報が「おすすめ」されているのです、たぶん。

 著者の石戸論さんは、大学卒業後、毎日新聞に入社し、独自の視点の記事を書いておられましたが、2016年にBuzzFeed Japanに入社し、2018年からフリーランスになっておられます。

 BuzzFeed Japanへの転職の際には、「大手新聞社を辞めて、ネットメディアに行く人が出てくる時代になったのだなあ」と思ったのを記憶しています。

 結局は、2年でフリーになられているので、ネットメディアも良いことや明るい未来ばかりじゃなかった、ということなのかもしれませんが。

 大手新聞社は、紙の新聞が斜陽とはいえ、ネットニュースでも信頼感が高いのは新聞社のようなオールドメディア発の記事ですし、スクープやスキャンダルも『週刊文春』をはじめとした、雑誌媒体が発信源になっていることが多いのも事実なのです。

 読まれ方が紙からスマートフォンになっても、オールドメディアが積み上げてきた取材のノウハウは、大きな武器であることは間違いありません。

 この本は、石戸さんが東京大学大学院で非常勤講師として2年間担当した講義がベースになっているそうです(だからといって、「いかにも講義っぽい文章」ではないのですが)。

 今の時代、そして、これからの未来に僕が必要だと思っているのが、魅力的な「良いニュース」を創るためにどうしたらいいのかという方法の追求です。良いニュースを伝えるために何をしたらいいのか。より多くの人に届ける工夫とは何か。今のインターネットに足りないものは何か。新しいメディアにふさわしい、新しい表現方法とは何か、追求が必要な課題はたくさんあります。

 そこにはライターに負×な書き方や表現の工夫とともに、発展し続けるテクノロジーの力をどう使っていくのかという議論も含まれます。僕はこの本のなかで、こんなことを書いています。

 良いニュースは、クリエイティブです。
 良いニュースは、人をわくわくさせる力があります。
 良いニュースは、変革へのエネルギーを生み出します。

 ニュースが生み出される環境はかつてないほど多様になっています。担い手は従来のようにマスメディアだけではありません。企業も自らの手でウェブサイトなどを通じて「ニュース」を発信し、自社でオウンドメディアを運営し、社内で編集者を抱えるところまであります。そこでは目を見張る記事もあれば、せっかく発信しても読み手に響かない記事もたくさんあります。スマートフォンの登場でニュースに触れている時間も増えました。ニュースの世界はかつてないほど拡張し、「良いニュース」についての議論は必要なのに、まだ十分になされていないのが実情ではないでしょうか。

 ネットに書く側になってみると、「読まれない良質なニュース(記事)」と、「たくさん読まれているけれどくだらないニュース(記事)」は、どちらが正しいのか?と考えさせらることが多いのです。

 思わせぶりな「釣りタイトル」は、読む側としては苛立つものですが、「結局のところ、何がきっかけであっても、読んでもらえなければ土俵には立てない」のも事実なんですよね。

 個人の趣味のブログなら「自分で満足する記事が書けたらそれでいい」と割り切ることも可能かもしれませんが、継続的に内容の濃い記事を書いたり、ニュースを伝えたりするには、人手がいるし、お金もかかる。

 いまの広告収入頼りのネットニュースの収益構造では、「PVこそが正義」にならざるをえない面があるのです。  

 東浩紀さんは『ゲンロン』で、「ちゃんとお金を払ってくれる、特定の人に刺さるネットメディアを志向されているようです。

fujipon.hatenadiary.com

 ノーベル文学賞作家が遺した謎めいた言葉からこの本を始めてみようと思います。彼の一言がニュースの本質を見事に表現しているからです。

 たとえば、象が空を飛んでいると言っても、ひとは信じてはくれないだろう。しかし、4257頭の象が空を飛んでいると言えば、信じてもらえるかも知れない。 (「想像力のダイナミズム」『すばる』1981年4月号)

 この本のなかでも数多く参照することになるノンフィクションライター時代の沢木耕太郎さんのエッセイを読んでいたとき、目に留まった言葉です。コロンビア出身の作家、ガブリエル・ガルシア=マルケス。彼は20世紀を代表する傑作『百年の孤独』を書き上げた小説家として知られていますが、キャリアをたどれば元ジャーナリスト、つまりニュースの世界の住人だったのです。

「えっなんで文学の話なの? ニュースの話じゃないの?」と思う方、どうぞもうしばらくお付き合いください。この話は、2010年代のニュース業界で最大の問題となったフェイクニュースについて考えることにつながってくるのです。

 ガルシア=マルケスが、どう「フェイクニュース」につながってくるのか?
 興味を持たれた方は、ぜひ、この本を手にとって(あるいは、Kindleで買って)読んでみていただきたいのですが、「紙は細部に宿る」というか、「大きな嘘を信じさせるには、ディテールにリアリティが必要」ということなのだと僕は解釈しました。

 たしかに、石戸さんのノンフィクションは「面白い」のです。
 ただ、僕はこの本を読んでいて、危うさ、みたいなものも感じずにはいられませんでした。

fujipon.hatenadiary.com

この本の冒頭で、けっこう話題になった「石井光太論争」というのが紹介されています。
 ノンフィクション作家、石井光太さんは、なぜこんなに作品を量産できるのか、ドラマチックな場面に出会えるのか、書かれているのは、石井さんが「本当に取材し、見聞きしたこと」なのか?
 たしかに、「対象に徹底的に取材したノンフィクション」というのは、そんなにたくさん書けるようなものではないですよね。

 (少なくとも)初期の石井さんの作品に対しては、書かれていることが事実かどうか、疑問の声もノンフィクション作家のあいだでは多いそうです。「本当に、ひとりの『観察者』の前で、こんなにさまざまな事件が起こるのか?」と。


 「ニュースは、淡々と事実だけを伝えるべき」と考えている人が多いけれど、本当にそうすると、誰も読んでくれない。
 そもそも、「どのニュースを、どれだけ大きく伝えるか」を決めるには、取材者なり所属組織なりの主観が反映されるわけですし。

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