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企業にとって重要課題となった「SDGsと独禁法コンプライアンス」

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SDGsとコンプライアンス

SDGsという言葉をよく目にするようになった。(「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称、2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標だ。

貧困や飢餓、健康や教育、安全な水など、開発途上国の支援の問題から、エネルギー、気候変動への対策、海洋資源の保全などの地球環境の問題、働きがい、街づくり、ジェンダー平等など社会の在り方に関わる問題など多岐にわたる。まさに、世界全体、人類がめざしていく上でのコンセンサスとなるべきことを幅広く目標として掲げたものだ。

そのような目標を実現していくために、経済社会を構成する企業が重要な役割を担うことは言うまでもない。社会と共存し、持続性を担保しうる企業活動は、企業経営の重要な課題とされ、それは、コンプライアンスの重要な要素と位置付けられるに至っている。

日本経済団体連合会(経団連)も、2017年に、「革新技術を最大限活用し、人々の暮らしや社会全体を最適化した未来社会の実現」をめざす取組みの一つとして、SDGsの達成を柱とする企業行動憲章の改定を行っている。

コンプライアンスとは、「法令遵守」ではなく「社会の要請に応えること」、第一次的には、「需要に反映された社会の要請」に応えることである。企業は、需要に応えることで利潤を獲得し、生き残り、成長が可能となるが、それとともに、「需要に反映されない社会の要請」にも応えることも求められる。企業にとって、両者の社会的要請にバランスよく応えていくことが、真のコンプライアンスである。

SDGsと独占禁止法

SDGsは、重要な「需要に反映されない社会の要請」を包括的に示したものと言えるが、企業のSDGsへの取組みが、「需要に応えること」から必然的に生じる「同業他社との競争」とぶつかり合う場面が生じる。それは、各国の競争法(日本では独占禁止法)が促進しようとする「競争」とSDGsへの取組みとの対立の構図にもなり得る。

10.22日経新聞の「SDGs、カルテルの適用外か」と題する記事(瀬川奈都子編集委員)では、

「環境対策などで社会全体の利益のために企業が足並みをそろえると、カルテルとみなされかねない」

「硬直的な独禁法の運用が公益を損なわないよう、欧州を中心に議論が始まった」

として、オランダで21年1月に公表された、環境保護などを目的とした企業間の合意や連携に関する指針案を紹介している。同指針案では、

「その商品・サービスの消費者だけでなく、社会全体に利益があれば、カルテル規制の適用を免れる」

と明示しているが、その背景として、競争当局が、「飼育環境に配慮した鶏肉のみを扱う合意」と「1980年代に建設された5つの石炭発電所を閉鎖する発電事業者の合意」の二つの事案で、消費者の購入価格を不当に引き上げたり、選択肢を狭めたりすると判断したことに対して、環境保護団体などから、独禁法がSDGsの壁になっているとの批判があったとのことだ。

SDGsへの取組みという国際的な潮流の中で、このような欧州における議論は、日本の独禁法の運用にも、独禁法に関連する企業コンプライアンスにも大きな影響を与える可能性がある。

そこで、このSDGsとカルテルの問題を、日本の独禁法との関係で考えてみたい。

日本の独禁法におけるカルテル禁止規定

独禁法の目的は、商品・サービスの価格と品質の比較によって合理的に取引を選択するという「競争」を促進することである。競合する事業者間で、相互の意思連絡なく、市場への参入の妨害・排除もなく、自由な事業活動が行われることが、経済の発展と消費者利益を実現することにつながる、それは、個々の経済主体が、誰からも介入されずに経済活動を行い、その結果で経済が動いていくという「経済民主主義」にもつながるという考え方である。

そのような独禁法の目的を阻害する重大な違反行為・犯罪がカルテル・談合である。

同法2条6項で、

「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

が「不当な取引制限」と定義され、罰則や課徴金の対象とされている。

要するに、事業者間で互いに意思を通じ合い、合意を行うなどし(共同行為)、その合意を実行する意思を持って事業活動を行い(事業活動の相互拘束・遂行)、それによって一定の範囲の市場競争を制限すること(一定の取引分野における競争の実質的制限)が、不当な取引制限とされるのである。

カルテル・談合というと、一般的には、「対価の決定」や「取引の相手方の制限」が想定されるが、上記の規定上は、「技術、製品、設備」を対象とする合意も含まれている。「競争」には、価格面の競争と、品質・技術などの非価格面の競争とがある。非価格面についての合意であっても、それによって市場の競争が実質的に制限されれば、不当な取引制限が成立する可能性があるのである。

一方、この2条6項の条文には、「公共の利益に反して」という文言が含まれている。素直に読むと、事業者間の合意があり、競争の実質的制限が認められる場合でも、「公共の利益に反して」いなければ、不当な取引制限は成立しない、ということのように思える。つまり、競争というのは価格面に限らず、品質、技術、設備等様々な経済活動に及び、そういう市場での競争を制限する行為が独禁法違反としての不当な取引制限として原則として禁止されるが、「公共の利益に反していない場合」は合法というのが、2条6項の素直な解釈なのである。

「経済憲法」としての独禁法と戦後の法運用の歴史

独禁法は、経済社会における「競争」の在り方全般を規律する「経済憲法」と称され、その独禁法を運用する公正取引委員会は、「独立行政委員会」として、内閣から独立した地位が与えられ、経済取引全般について、「市場競争が制限されているか」「それが、『公共の利益』に反していないか」についての判断する広範な権限を持つというのが、そもそもの独禁法の趣旨だった。

独禁法は、このような考え方に基づき、戦後の占領下の1947年に、GHQ主導で、「経済民主主義」を標榜する極めて高い位置づけの法律として制定された。

しかし、1950年に朝鮮戦争が勃発し、米ソ冷戦という国際情勢の下で、アメリカの対日政策は、中ソの共産主義勢力に対抗するための日本の経済的基盤の強化を優先する方向に転換され、経済官庁主導の、効率重視の協調的事業活動が中心とされた。各分野でのカルテル適用除外の法制化などで、独禁法上のカルテル禁止規定自体が様々な制約を受け、公取委の予算・人員も大幅に削減された。1970年代までの、戦後復興、高度経済成長の中では、公取委は、霞が関の一角で、「三流官庁」として何とか命脈を保っている状況だった。

「公共の利益に反して」の解釈と位置づけ

こうした中で、公取委によるカルテルの摘発は極めて低調で、しかも、価格や取引の相手方の制限の合意がほとんどで、「技術、製品、設備」を対象とする合意が対象とされることはなかった。

一方で、独禁法の学説も公取委も、「公共の利益」については、「自由競争経済秩序」それ自体ととらえ、「事業活動を拘束し、又は遂行」することによって競争が実質的に制限されれば、「自由競争経済秩序」が侵害され、それによって公共の利益にも反することになり、不当な取引制限が成立するという解釈をとってきた。「公共の利益に反して」が不当な取引制限の要件となっていることは、ほとんど無視されてきた。

その背景には、不当な取引制限の他の要件を充たす行為でも、「公共の利益」に反していると言えなければ違反と認定できないことになると、公取委によるカルテル摘発は一層困難になることになるので、「公共の利益に反して」を実質的な要件と解することは、公取委の法運用を一層弱めることになりかねない、という配慮があった。そのため、明文で規定されている「公共の利益に反して」を敢えて無視するという、「法文上は無理筋の解釈」がとられてきたのである。

このような公取委に対して、唯一の応援団となっていたのが、消費者・消費者団体という存在だった。高度経済成長の中で、経済社会には様々な歪みが生じ、それが、消費者に不当な不利益を与えているという認識から、消費者の利益を確保することに関して、独禁法の目的である「一般消費者の利益の確保」が注目された。独禁法の運用によって企業を叩く役割が期待されたのが公取委だった。

公取委は、1960年の「ニセ牛缶事件」で、消費者を欺瞞する不当表示を摘発するなどして消費者側からの期待に応えてきた。本来の公取委の役割は、競争を促進すること、競争制限を排除することを通して、消費者利益を実現することであるが、当時は、「競争の促進」はあまり注目されず、「消費者利益の保護」を旗印とする組織であるかのように認識されていた。

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