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日米首脳会談 TPP交渉参加のサプライズ表明は難しい 水鳥真美のしなやか外交術(1)

安倍晋三首相は22日午後(同23日未明)、オバマ大統領とホワイトハウスで首脳会談に臨む。環太平洋連携協定(TPP)交渉参加、沖縄県尖閣諸島をめぐって緊張が増す対中関係、3度目の核実験を強行した北朝鮮問題が会談のポイントだ。外務省で27年間勤務し、日米関係、在日米軍基地問題にも詳しい元外交官の水鳥真美さん=英国在住=にインタビューした。

――注目されるTPPで交渉参加のサプライズ表明はあるか

「安倍首相が米国に行く事前インタビューで、ある種の決意をにじませた発言をしていて英字紙もそれを取り上げている。気になるのは、安倍首相がオバマ大統領から交渉の対象に例外がありうるという言質を求めたいと報道されていることだ。安倍首相がTPP交渉に参加したいという気持ちの裏腹だと思う。例外措置の言質を米国のトップから得ることができたら進もうということだろう。しかし、米国から見ると、まだ交渉中の段階で、しかも交渉に参加もしていない国に対してトップレベルで例外があり得るよと約束するというのは、多国間交渉では厳しいと思う。オバマ大統領が何をどこまで言うのか、日本側が日本にどういうように伝えることができるのかにかかっている。若干、これは私の経験から機微だと思うのは、言った、言わないになりかねない、安倍首相のTPPに参加したいという意図そのものは重要だと思うが、その辺の日米のやりとりがうまくいくのかなということがポイントだ。最終的にTPPというのはこれからの交渉の中で、交渉というのはまさに参加して初めてどういうふうに進むのかということだから、最初から例外を求める日本の立場がどれだけ米国に、米国のみならず他の参加国に受け入れられるかということだと思う。個人的には今の段階で日米首脳会談を踏まえてTPP交渉参加というところまで行くのかどうかは微妙だと思う」

――首脳会談で事務方の協議を越えて何かが決まるということはあるのか

「常識的に言うとあまりない。特にこの種の交渉事、しかも多数の国を含んでいる交渉事で、これまで事務方が積み重ねてきたこと以上のモノがでてくるというのはあまり考えられない」

――米国側は日本に安定した政権が誕生するのを望んでいるのではないか

「日本では過去7年の間に7つの政権ができた。総論で言えば長期安定政権が日本にできるのは米国にとっても歓迎すべきことだし、それはオバマ大統領も考えている。オバマ政権1期目のときにクリントン米国務長官(当時)が中心になって経済も含めて安全保障面でアジアに軸足を置く外交方針を打ち出した。いろんな意味でアジアを重視し、日本が地域の中で非常に頼りになる同盟国だという認識は米国の中で非常に強いと思う。ただ、そうは言っても個別の問題でどこまで日本に配慮できるかというと、そもそもTPPの交渉がどういうものであって、その中で米国や他の参加国が何を求めるのか。安倍政権への配慮と言っても、日本の政権が安定することを求めるから、代わりにこれを差し出すというようなところまではなかなか行かないのではないかというのが私の率直な感じだ。日本にTPP交渉に参加してほしいという気持ちは、オバマ政権の中では非常に強いだろうから、そのために米国としてこれから日本を加えることについて日本を盛り立てると思うが、参加するに当たって、日本が独自に国内の問題を乗り越えて頑張って欲しいという気持ちが逆に米国にはある」

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水鳥真美さん

――米国は自動車、日本は農産物で例外を求めるという「あ・うん」の呼吸で今年夏の参院選まで時間を稼ぐという腹芸はあり得るのか

「水面下で実は話がそこまで煮詰まっているのであれば日本の参加を実現する上で非常に歓迎すべきことなのかもしれないが、そこはよくわからない。報道や関係者の発言をみる限りは日本に限らず、どこかの国に例外を認めることは米国としてもしたくないだろう。そういうことを裏で握っているとしたら、そういうことが最終的に多国間交渉の中で実現できるかというと非常に難しいと思う。いくら日本と米国が裏で握ったとしても、TPPは日米の自由貿易協定ではない。私は現実的にはそういうシナリオは成立しないと思う」

――タイムスケジュール的にTPPへの交渉参加はかなり厳しくなっているが

「今の時点でもかなり時間を失ってしまったと、日本でTPPを推進しようとしている関係者は思っている。これ以上、時間を失うことはできない。その中で、日本として考えなければならないのは、TPPに参加することが日本にとって何を意味するのかということだ。今の安倍政権の経済政策にも関連してくるが、公共投資を増やしたり、通貨の切り下げに頼って経済を浮揚させたりすることが根本的な対策かといえば、そうじゃないとみんな考えている。構造改革が必要だと。TPPというのは単なる貿易交渉ではなくて、まさに構造改革にまで踏み込む話なんだから、TPPがアジア・太平洋でできる中で日本が参加するかどうかは、日本の国としての覚悟が求められている。米国とのやり取りも大切だが、そもそも安倍政権が日本の中でどうTPPを推進していくのか、本当にやる気があるのであれば国内勢力の中で強く進める必要がある。この間、オバマ大統領の一般教書演説の中でも、TPPと並んで、米国と欧州連合(EU)の自由貿易協定の話があって、この話というのはかなり以前からあって、それが続いている。一方、日本もEUとの間の自由貿易協定の交渉をしましょうということになっているが、実質的には始まっていない。世界を巻き込む自由貿易協定、自由貿易圏の交渉が進んでいる中で、いったいこういうものを進めることが日本にとって真に必要だということであれば、最終的には守らなければならない例外があるにはしても、そこの原則論のところを安倍政権は主張すべきだろうし、おそらく米国は安倍政権にそうしてほしいという期待があるのだろう」

――尖閣諸島をめぐって中国の圧力は増している。クリントン前米国務長官が「日本の施政権を害そうとするいかなる一方的な行為にも反対する」と釘をさした

「中国が一方的に武力を使ったり、武力の威嚇とみなされるようなことをして行動したりすることについて、それは認められないという気持ちは、クリントン前長官が政権を去った後もあると思う。じゃあ、米国はそういう事態になることについてどう考えているかというと、米国は日中できちんと対処して解決してほしいということだと思う。だから米国がいざというときには米国として毅然とした態度を取ると言っていることが、日本では強く報道されすぎる傾向がある。米国はいざとなればそういうことだけれども、そういうことにならないようにしてほしい、そのために日本にも中国にも伝えようとしている。それを受けて日中がどう対応するかにかかっている。最近の状況を見ていると、中国側は柔軟な、理性的な対応を向こうからしてくるという感じにはなっていない。今のような非常に危なっかしい、ちょっとしたことが紛争につながりかねない状況の中で、日本がどうやってリスクを軽減するようなシステムを作れるのかとか、現段階としてどのようにして中国と本件に関して対話の糸口をつかむのかということを日本のように民主的で理性的な国に求めているというのが米国の強い期待だと思う」

――対中問題で安倍政権から米国への要求は

「安倍首相としてはクリントン前長官の立場を米国が言ってくれれば、それに越したことはないと思っている。難しいのはそのメッセージだけが独り歩きすると、中国を封じ込める、中国に対する強い対応を日本と一緒になってやっていくということでまた中国が刺激されるとみる向きも米国にはあると思う。日本側の思惑としては毅然とした対応についてのメッセージをオバマ大統領自身の口から出してもらったらそれに越したことはない。米国としては、日本は横に置いておいて中国との関係をどのようにマネージするのかということは、彼らの中でも一、ニの外交課題だ。そことの関係で外に向かって何が言えるのかが決まってくると思う」

――誰も住んでいない、ちっぽけな島をめぐって日中は本当に紛争を起こすのかという見方が米英にはあるが

「米英のいろんな識者やマスコミの書きぶりをみると、明らかだ。そもそも日中が、よく英語で『ちっぽけないくつかの島』と表現されるが、そのちっぽけな島をめぐって、どうしてこういう争いになっているのか理解できないという言い方をする。二つ目に、そういう中であまりにも中国が事態をエスカレートさせているという非難は強まっている。そうは言っても事態がエスカレートして紛争に発展して、日米安保があるので巻き込まれるというのは、何とか回避したいというのが米国の本音だというのはその通りだと思う」

――紛争回避のために日本が主体的に動かなければならないということか

「解決策は一つではなく複数の可能性もある。日本はそうしたものを考えて、それについて米国の支援もほしい、関与もほしいと求めてくるのであれば、そこは米国も十分に噛んでくると思う。領土問題で米国がどちらかの立場を支持することはないのは明白だ。日本のものなのか、中国のものなのか、というところには米国は関知しない。建設的な対応策が出てきて、日本が米国に役割を求めるのであれば、米国は考えるだろうし、考えなければならないと思う」

(つづく)

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