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「人を大切にする経営」は理想論か? コロナの危機にも曲げない、クルミドコーヒーの「結果を手放す」経営哲学

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従業員一人ひとりに幸せな人生を送ってほしい。それは、経営者なら誰もが抱く思いかもしれません。

一方で経営には数字の重みがのしかかります。先行きを読めない社会情勢のなかで、ときには一人ひとりの幸せより組織の利益を優先してしまうこともあるかもしれません。

個人の幸せと経済は両立できるのか? この問いにヒントを与えてくれるのが、東京・国分寺に2店舗を展開するカフェ「クルミドコーヒー」の取り組みです。

創業者の影山知明さんは、売り上げや利益を最優先することに背を向け、「人を利用するのではなく支援する経営」「事業計画をつくらない経営」を実践してきました。コロナ禍で打撃を受けつつも、その経営方針は変えていないといいます。

「自信満々に『経営がうまくいっている』と言える状況ではありません。でも、いろいろな葛藤を踏まえてもなお、僕はこのやり方しかないと確信しています」

取材依頼のメールへの返信で、そう打ち明けてくれた影山さんに、独自の経営スタイルの背景にある思いを聞きました。

*この記事への感想、影山さんへの質問を募集中です! 後日、影山さんに動画で回答いただきます。詳細は記事末尾をご覧ください。

事業計画書をつくらずに、年率20パーセントで成長

編集部
編集部
影山さんの著書『ゆっくり、いそげ』『続・ゆっくり、いそげ』を読ませていただきました。

本では、金銭的な価値のために人を手段化せず、「一人ひとりが大切にされる社会をつくるには」という問いのもと、これからの経済のあり方について書かれていました。なかでも驚いたのは、「そもそも事業計画書さえつくらない」という点でした。

どういった背景からこの取り組みがはじまったのでしょうか。

影山
影山
あえて事業計画書をつくらないのは、僕たちの業種がカフェだということも大きいとは思います。

カフェはいろいろな人がいろいろな過ごし方をして、思いがけない出会いや発想が多発する場です。

影山 知明(かげやま・ともあき)。1973年、西国分寺生まれ。東京大学法学部卒業後、マッキンゼー&カンパニーを経てベンチャーキャピタルの創業に参画。その後、株式会社フェスティナレンテとして独立。2008年、西国分寺の生家の地に多世代型シェアハウスを建設し、その1階に「クルミドコーヒー」をオープンさせた。2017年には2店舗目となる「胡桃堂喫茶店」を開業。出版業や書店業、哲学カフェ、地域通貨、お米づくり、まちの寮などにも取り組む。著書に『ゆっくり、いそげ 〜カフェからはじめる人を手段化しない経済』(大和書房)、『続・ゆっくり、いそげ 〜植物が育つように、いのちの形をした経済・社会をつくる〜』(査読版、クルミド出版)。

影山
影山
僕は、その時その場で偶発的に起こることには理由があって、そこには必然性があると考えています。

そして、起こったことに対して機会を与えることで、結果的にそのアイデアが花開き、実っていくことに経営的な可能性を感じています。

ですから、そうした偶発性を大切にしようと思うと、強固な事業計画が邪魔になってしまうこともあるんです。

せっかくおもしろい出会いに恵まれている場所なのに、「これは事業計画にない」からと受け止められないのはもったいないじゃないですか。

編集部
編集部
新しい動きを妨げずに、偶発性を受け入れるためには、事業計画をつくらないことが大切なのだと。

影山
影山
はい。

ただ、これは誤解されがちなのですが、僕たちは経営の計数管理についてはかなり細かく行っているほうだと思います。

売り上げや収支の確認は、ていねいにやっていますし、スタッフにはつまびらかに情報共有してもいます。

それは、いま自分たちがやっていることが、お客さんによろこんでもらえているのかや、間違った方向にいっていないのかを確認するためです。

大切なのは「目的」と「目標」のすみ分けです。日々の売上目標があったとしても、それを目的にはしないということです。

編集部
編集部
詳しく教えてください。



影山
影山
目的は”Why”に応えるもの、目標は”How”や”How much”に応えるものだと考えています。

「今日の売上目標として10万円を目指そう」と設定するとします。でも、僕たちは売上目標を達成するために店をやっているわけではないし、目標達成が第一でもありません。

編集部
編集部
そうなんですね。

影山
影山
僕たちがお店を開く目的は、お客さんによろこんでもらって、来たときよりも元気になって帰ってもらうことです。それを力を尽くしてやっていけば数字は付いてくるはずです。

そして、それが10万円という目標と比べてどうだったかということは、事後的に検証していけばいいという考え方なんです。

実際にこの考え方で経営を続け、売り上げベースでいうと、クルミドコーヒーの開業当初5年間は年率20パーセントほど、その後もコロナ前までは年率9パーセントほどで成長してくることができました。

真面目な人ほど目的と手段が入れ替わってしまう

編集部
編集部
それでも、人によっては、目標と目的あるいは目的と手段というものが、いつの間にか入れ替わってしまうということがあると思うのですが。

影山
影山
僕たちも、以前は毎週の定例会のなかで、 週次目標を設定していたことがありました。たとえば、客単価を意識して、コーヒーを飲んでくださったお客さんにおかわりやケーキをおすすめしてみるといったことです。

しかし、そのことで、あくまで目標だということがわかっていながらも、真面目な人であればあるほど目標が意識の最上位にきてしまう。その結果、コーヒー1杯だけを注文したお客さんにネガティブな感情を抱いてしまうことがあります。実際、自分自身がそうでした(笑)

経営のサイクルのなかに目標が大きな存在感でもって組み込まれてしまうと、いつの間にかそれが目的化してしまうということが起こるように思います。



編集部
編集部
それを避けるために、スタッフの方たちとのコミュニケーションはどうされていますか?

影山
影山
週に一回、定休日を使って、お店ごとに社員全員で集まる定例会があります。そこが、お店づくりのエンジンです。

いまの状況を共有し振り返り、どう力を注いでいくか。ぼくらが「なんのためにお店をやっているのか」についての葛藤も、こうした場で、きちんと話題に出てくることが大事だと思っています。

ただ、フォーマルな場で自分の感情を言葉にすることは難易度の高いことなので、結果的にはそれ以外の場や余白の時間でコミュニケーションを取ることもあります。

また、回数は少ないですが、僕自身もシフトに入り続けています。僕が現場の状況を多少なりとも知っていることで、スタッフが自分の感情を言葉にすることの心理的ハードルが下がればと考えています。

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