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  • 2021年11月02日 09:49 (配信日時 11月02日 06:00)

都市VS地方 今や「地域力」は人口だけでは測れない 「高齢化」=地方の衰退とは限らない - 吉田浩 (東北大学大学院 経済学研究科教授)

9月16日の敬老の日に公表された総務省の人口推計によれば、65歳以上の高齢者人口は、3588万人と過去最多となった。少子化により総人口が減少したため、高齢者の割合は28.4%と過去最高で、世界201カ国・地域中でも最高水準であることが分かった。

日本でここまで高齢化が進んだ理由は、寿命の伸長である長寿化のおかげであり、人生100年といわれている中で、喜ばしい側面もあることは確かである。しかし、一般的に高齢化というと、若年労働者の不足、年金財政の持続性の問題、老人医療費の増大など、明るい話題は少ない。

(metamorworks/gettyimages)

さらに、国全体の高齢化の進展とあいまって、地方の高齢化はさらに深刻であるととらえられている。その象徴とも言うべき衝撃的な推計が増田寛也氏らを中心とした日本創生会議が2014年に発表した「消滅可能性都市」の推計である。

この推計によれば、現在のような地方から大都市への人口流出のペースが収まらないと仮定すると、40年には全国の896 自治体(市町村)が「消滅可能性都市」となり、それは全体の 49.8%を占めるというものであった。

この増田氏らの行った推計では、子どもを産む女性人口に注目しつつ、「2040年時点で人口が1万人を切る市町村」(523 自治体、全体の 29.1%)は「消滅可能性が高いと言わざるをえない」とされている。地域の人口が1万人を下回ったら本当にその地域はもう社会的に持続できない=消滅となってしまうのであろうか。

ここでは、人口の観点から地域の将来を考える場合に、人口数以外の新たな視点で見直すことを考えてみたい。

すでに地域力=人口ではなくなっている

消滅可能性都市の推計は、「地域が都市として成立する人口規模なのか」という視点で作られた指標であるように思われる。つまり行政執行の単位として都市には一定程度の人口規模が必要であるという考え方である。地域を評価するにあたって人口規模を問題とすることは、どちらかといえば統治者(行政、首長)側からの視点で考えるとわかりやすい。

中世の戦国時代のような社会では、領地(国)の面積や人口数の多寡=「国力」の大きさを表すと言えた。それは、より多くの石高とより多くの兵士を要することができたからである。しかし、現在ではそのような領地間の闘争の時代ではない。地域の人口数が多いこととその社会の繁栄は直結しているとは言えなくなっている。

統治者側から住民へと視点を移すと、自らの住む地域の人口数の減が、その地域の生活の豊かさの喪失につながるとは限らないという点が浮き彫りになる。

世界に目を転じると、北欧のノルウェーは総人口530万人余りの国家である。日本でいえば、千葉県の629万人(2020年国勢調査)よりも人口は小さい。しかし、ノルウェーは世界的に知れ渡った先進国であり、「ノルディックデザイン」で有名な工業製品や海産物、ウインタースポーツや先進的福祉国家としての文化や政治・社会は、世界的にも評価されている。1人当たりの国内総生産(GDP)もノルウェーは世界ベスト5に入る経済力を持つ。

総人口数ではなく、そこに住む住民側の視点にそって地域の持続可能性を考える指標を我々は見つけ出していく必要があるのではないか。

なぜ人口指標として高齢化率が示されるのか

地域の人口構造を評価し、比較する場合にもっともよく使われる指標として「高齢化率」があげられる。高齢化率は地域の高齢者(65歳以上)数を当該地域の全人口で除したものである。この高齢化率の指標は人口構造の地域間比較だけではなく、高齢化の推移を概観するために時系列指標としても『高齢社会白書』(内閣府)などに用いられている。

高齢化率は高齢者/全人口であり、高齢者/(若年者+高齢者)であることを意味するから、若年者の減少(少子化)は地域の人口規模を減少させ、高齢化率を高めていくことになる。

この高齢化率が地域の人口構造を評価する指標として用いられる理由としては、まず、指標計算が簡便であることがあげられる。地域の年齢別人口のデータさえ得られれば、直ちに算出可能である。地域の人口に関する統計は5年に1度の「国勢調査」だけでなく、「住民基本台帳報告」や「人口推計」で毎年・毎月ベースで把握可能である。

もう一つが、扶養負担としての指標である。もし高齢者が退職して働かない人口とすると、高齢化率はその地域で扶養し、資源配分をしなければならない人口の比率を表す。したがって、高齢化の進んだ地域は、生産から離れたとみなされる人々が多く、その人々を扶養するべく、地域の生産物を分配しなればならない比率が高い、すなわち現役世代の負担も大きいということにつながる。

これらの観点から、高齢化率という指標は人口学的にも簡便であり、経済学的にもある程度の地域の持続可能性を考える参考になりうる指標であるということができる。

高齢者が貴重な働き手にもなっているという事実

高齢者は退職し、年金を受給する人々であるというのは、あながち間違いではない。しかし、長寿化の進行により法的にも定年を65歳以上にまで延長する政策が推進されている。さらに政府は生涯現役社会を目指して、働く能力と意思のある高齢者が可能な限り就業を継続できる環境を整備しようとしている。

実際に65歳以上の就業者数は増加傾向にある。先述の9月16日の発表では、高齢就業者数は、15年連続で増加し、862万人と過去最多になっており、就業者総数に占める高齢就業者の割合も12.9%と過去最高に達している。

この高齢者の就業傾向は主要国の中でも高い水準であるとされている。したがって、高齢化率が暗黙に前提としている65歳以上を非就業、被扶養人口とみなして地域社会の持続可能性を評価することは、人生100年と長寿化した現在の日本にはそぐわないといえる。

高齢化率は年齢による人口の区分で計算された指標であり、現実の就業状況を反映しておらず、地域の生産に従事できる人口資源と100%マッチするものではないという問題を持つ。このため、65歳以上でも就業している・就業できる人口が多ければ、単なる総人口数だけではその地域の生産力を判断できない。

2015年の国勢調査の結果によれば、例えば秋田県大潟村は、高齢化率は30%を超えた超高齢社会であるが、農業を中心とした地域政策によって就業率は75.2%に達している。さらに長野県川上村は、国民健康保険一人当り年間医療費が長野県下最低という住民の健康度もあいまって、就業率79.9%という日本一の水準を実現している。

以上のように、地域の持続可能性を考えるためには、単なる人口数の多寡ではなく、就業を通じて住民一人ひとりが健康で社会生活を生涯継続できることに注目する必要がある。すなわち、地域内の住民と生産活動の関係に注目する必要がある。

特に、65歳以上の非生産年齢人口であっても、就業している高齢者が増えていること、逆に生産年齢人口であっても就業していない、出来ていない世代も存在していることを考慮し、地域の持続のための資源を今後どれほど生み出す力を持っているかを吟味する必要がある。

地方の資源活用が持続可能性を高める

地域における高齢者や他の世代の就業の状況をより細かくとらえて、地域の持続可能性を検討するべきであると述べた。これらは、就労=市場による取引によって、地域の必要な資源を確保していこうとする考えである。しかし、住民にとって生活を持続的に維持するための資源は、市場で売買されるのが全てではない。

例えば、育児、介護、家庭内の家事などは、必ずしも100%市場で調達できるとは限らず、都市部よりも地方部のほうが、多世代の同居などにより家庭内で生産できる力が高い可能性を持っている。逆に都市部では、育児や介護を市場で購入せざるを得ないため、待機児童が発生し、少子化に拍車をかけている。しかし、地方部では、多世代が同居していることで、祖父母が子育てを手伝うという例も多くみられる。

地方の都市化にこだわらない

このように家庭内で家族が創り出すサービスが市場で購入するサービスに匹敵したり、代替したりすることがある。また、家族や世帯を超えて、地域のコミュニティで供給される、助け合い、郷土文化、相互信頼などの資源(社会資本)の存在も、地域の持続可能性に寄与する資源として考慮していかなければならない。

これらを考えていくと、地方を都市化して持続させることよりも、その地方の資源(高齢者の潜在的労働力、家庭内での生産、社会資本を通じた地域コミュニティからの生産)を十分に活用した持続戦略が考えられるのではないだろうか。

これまで、地域別住みやすさや幸福度指標などで、都市でなく地方が上位にランキングされることを不思議に感じてきた方もおられるかもしれない。しかし、地方には都市部にない生産資源があることに注目すれば、ランキングを見る目も変わってくるのではないか。

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