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【テロとの戦争から20年】フランスの視点 テロ事件を追う

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 2001年9月11日の米同時多発テロ(「9・11テロ」)は、イスラム教過激組織アルカイダが引き起こしたものだった。

 アルカイダとは「主に欧米諸国及びイスラエルに対するテロを主張するスンニ派過激組織。米国及びその同盟国を主な攻撃対象とする『グローバル・ジハード』を主張」する(公安調査庁)。その指導者は、9・11テロを首謀したオサマ・ビンラディンであった(ビンラディンは、2011年5月2日、潜伏していたパキスタンで米軍の特殊部隊に殺害された)。

 9・11テロ以降、イスラム過激主義の若者たちによるテロ行為が相次いだ。

欧州で発生したイスラム系テロの一部

2004年3月、スペイン・マドリードの列車爆破テロ

同年11月、オランダで映画監督銃殺事件

05年7月、ロンドンの公共交通機関を使ったテロ

2015年1月、フランスの風刺雑誌「シャルリ―・エブド」襲撃事件

同年11月、パリ同時多発テロ

16年3月、ベルギー・ブリュッセルの連続爆破事件

同年7月、仏ニースのトラック暴走事件

17年5月、英マンチェスターのコンサート会場での自爆テロ

同年8月、スペイン・バルセロナ中心部での車の暴走事件

2020年10月、授業でイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を見せたフランスの中学教師が、パリ郊外で殺害される

 テロの実行犯の多くは,欧州域内に居住している移民やその背景を持つ者であった。

なぜ市民がテロリストに?

 一体、「普通の市民」がいかにして「凶悪なテロリスト」に変貌していったのだろうか?

 朝日新聞ヨーロッパ総局長国末憲人氏は、丹念な現地取材を基にその謎を解く本『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)を上梓している。

(『テロリストの誕生』表紙撮影、筆者)

 同氏は1980年代後半のパリ留学後、朝日新聞でパリ支局員、パリ支局長などを歴任し、フランス社会や政治についての造詣が深い。9・11テロの位置づけも含めて、テロ事件の背景について、ロンドン市内で話を聞いた。

***

―2001年の9・11テロ発生当時は、パリ支局勤務でしたね。

 国末氏:その時は出張に行っていて、ベラルーシにいたんですよ。ルカシェンコ政権のまだ最初の方です。再選の大統領選挙があって、1週間ぐらい行ってました。(ベラルーシからパリに戻る)乗り換え地となったミュンヘンで、何か大変なことがあったらしいと乗客が話していたんです。それで会社に電話したら、ニューヨークで飛行機が(世界貿易センタービルに)突っ込んだと。

 (9・11テロの)犯人の軌跡を追う連載企画を何人かで取材をしました(後に『テロリストの軌跡』として書籍化され、新聞協会賞受賞)。2001年の11月から12月、一番先に(ビルに衝突した)飛行機を操縦していたモハメド・アタの家にも行きました。

モハメド・アタとは:米同時多発テロでは、アメリカ東部を飛行していた旅客機4機が計19人の実行犯グループに次々とハイジャックされたが、4機のうち2機は、ニューヨークの世界貿易センタービルに突入。午前8時46分、最初に世界貿易センタービルに激突したアメリカン航空11便に乗っていたハイジャック犯5人の主犯格が、エジプト出身のモハメド・アタ容疑者だった。(BBCニュース

 カイロにある、子供のころに住んでいたという家を見に行きました。普通の子供部屋がそのまま残っているんですけれど、小さな窓が開いている。「ひょっとして、クーラーじゃない?」と聞いたら、(案内してくれた人が)「そうだ」というわけですよ。当時のエジプトで、クーラーを持っている人はあまりいなかった。そういう、結構裕福な家の子だったんです。

―特にアメリカでは9・11テロは非常に大きな事件としてとらえられていますよね。アメリカ以外の国ではどう見えたのでしょう。

 フランスからの視点になりますけど、アメリカほどは大きいテロとは思わなくて、自分でも、大きな事件で話題になるけれど、歴史を変えるものでは、たぶんない、と。おそらくこれも、そうじゃないだろうかと思っていました。

 どうしてかというと、インタビューした人もこう言っている人が多くて、仏シンクタンク「国際関係戦略研究所」のパスカル・ボニファス所長は「歴史を変えるものではない」、と。「ただし、混乱を起こすだろう」という風な回答でした。

 結果的に、20年経って、終わってきましたよね。小さなテロはありますが。

 今はテロが優先課題になることはなくて、中国、あるいはコロナ、気候温暖化などの方が優先化されています。おそらく、2001年のテロ前もそうだったと思うんですけれども。

 10年、20年の期間ではイスラム教に関心を持つ、あるいは中東に焦点を当てる効果はあったけれども、おそらく、大きな流れでいうと、例えば冷戦崩壊とは・・・。

―違う、と

 違うと思いますね。

冷戦とは:第二次世界大戦後、アメリカ合衆国を中心とする資本主義陣営(西側)と、ソ連を中心とする社会主義陣営(東側)とが、世界的規模で緊張状態を生み出した。この対立構造は「冷たい戦争(冷戦)」と呼ばれ、1989年に米ソ両国首脳が冷戦終結を宣言するまで続いた。(NHK高校講座「世界史」

―9・11テロはアフガニスタンへの侵攻をはじめとする「テロとの戦争(War on Terror)」につながっていきました。アルカイダやビンラディンの討伐という当初の目的が次第に変わっていきました。9・11テロ自体というよりも、その後のテロとの戦争で影響が大きくなってしまったように思います。法を必ずしも順守しない米国という悪い印象を世界に与えてしまったような感じがします。

テロとの戦争とは:2001年の9・11テロを契機とした、米政府による国内外のテロリズムとの戦い。同年10月7日、アフガニスタン侵攻、2003年3月、イラク戦争開始。本来はテロ組織絶滅だった政策目標を大量破壊兵器保有国抑え込みへとつなげ、国際法無視の先制攻撃戦略へと拡大。特にイラク、イランと北朝鮮を「悪の枢軸」と名指し、イラクのフセイン政権を03年前半に軍事力で打倒した。(コトバンク他)

 そうですね、直し方を間違ったもんだから、よけい傷を広げてしまって、ちょっとした切り傷だったのが、化膿しておかしくなったという感じですね。

朝日新聞に掲載されていた記事の中で、アメリカのブラウン大学の調査(「戦争のコストプロジェクト」)があって、テロとの戦争で約90万人が亡くなったそうですね。9・11テロで3000人が亡くなって、その後のテロとの戦争で約90万人というのは大きいですよね。約100万人です。

 ブラウン大学の調査を見ると、大体100万人ですが、あれは間接的ですよね、直接的にはテロで亡くなった人は十数万人ぐらいではないでしょうか。

 ヨーロッパで一番大きい犠牲者が出たのは、マドリードの列車事故(2004年)でした。191人です。テロで亡くなった人は9・11テロと比べると、規模が違いますね。

 フランス国際関係研究所の研究部長マルク・エッケルさんがいうには、9・11テロが起きたときに、アメリカが大騒ぎした理由が2つあると。1つは、脅威が何もない時に起きたから、大変だったということ。冷戦が終わって、核戦争が遠のいて、脅威というのが何もない時にポンと起きたから、大変だった、と。

 もう1つは、アルカイダがどれだけの実力を持っていたのかが、わからなかったことがあるそうです。

 9・11テロを思い起こすと、あれが初めで、どんどんエスカレートしていく、例えば化学兵器のテロや、核にいく、と。そういう風に最初思ったんですね。結果的に見ると、9・11が最高峰で、だんだん下がっていったことになります。

 アメリカにとっては、情報がなかったというのがあると思いますね。

ドイツとフランスがイラク戦争反対の意思表示

―欧州では、9・11テロの直後、一旦はアメリカに集まった同情や支援がテロとの戦争が進むにつれて、一挙に減じていきました。「違法な」イラク戦争(2003年3月開戦)への反対運動も起きました。

 当時のフランスのシラク大統領、ドイツのシュレーダー首相はイラク戦争反対でした。

 イラク戦争の前後にドイツで実施された世論調査があります。ドイツは、大体、好きな国はずっとアメリカなんですよ。フランスは嫌いなんですよね(小林注:第二次世界大戦中、ドイツとフランスは敵国同士だった)。

 ところが、2002年に急に変わったんですよ。一番好きな国がフランスになった。

 これは一時的かもしれないけれど、ひょっとしたら、大きな変化の前触れかもしれないとコメントをしている人がいて、結果的に、やはり大きな変化の始まりで、今EUは独仏関係の協調でもっていますが、それが始まったのは2002年だと思うんですよ。

 それまでは、ドイツはアメリカを見ていて、フランスはドイツを信用していなかった。イラク戦争に対する反対とブッシュ政権に対する不信感が独仏を結びつけたのではないかと思うんですね。今は、独仏関係はそれなりにお互いを尊重している関係になっていますね。

9・11テロと欧州のテロ

―欧州のテロについてお伺いしたいんですが、オランダの映画監督の殺害(2004年)から、大きな、象徴的な事件が立て続けに起きました。9・11テロからテロとの戦争の展開につながっているのでしょうか。

 つながっていると思います。同じネットワークですから。

 まず、アルカイダ。「イスラムテロのハーバード(大学)」と言われているのですが、アルカイダに入れば、テロリストとしてはエリートと思われるんですね。

 アルカイダが(アフガニスタンの)ジャララバードに訓練所を作って、これに入ったのが、(9・11テロ主犯の)モハメド・アタであったり、フランスはジャメル・ベガルという男だったり、ベルギーのアブデサタール・ダーマンだったんです。

ジャメル・ベガルとは:アルカイダの元主要人物。

アブデサタール・ダーマンとは:ベルギー在住のチュニジア人で,アフガニスタンに渡航してアルカイダに参加し,「タリバン」と敵対していた「北部同盟」のマスード司令官を爆殺した(2001年9月)。(公安調査庁

 ダーマンはチュニジア人ですが、ベルギーで学生になり、そこからアルカイダに入りました。

 その同僚で、同じフランス語圏出身者で一緒にいたのが、ジャメル・ベガルです。彼がフランスに戻って刑務所に入って、刑務所の中で出会ったのが、シャルリ・エブド事件を実行するシェリフ・クアシなんですよ。

―兄弟(シェリフ・クアシと兄のサイード・クアシ)でしたね。

 ええ、兄弟です。兄弟の片一方と、アメディ・クリバリというアフリカ系が出会っている。そこで、新しいチームを作ってやったのが、シャルリ・エブド襲撃です。

シャルリ・エブド襲撃事件とは:2015年1月、風刺週刊紙「シャルリ・エブド」の編集部などが襲撃され17人が死亡した事件。2020年12月、イスラム主義者の被告14人に有罪判決が出た。シャルリ・エブドとユダヤ系食品店で多数が射殺されたほか、女性警官も銃撃を受け死亡。食品店を襲撃し射殺されたアメディ・クリバリ、クアシ兄弟は当局に射殺された。(BBCニュース等)

―日本でなかなかわかりにくいのが、テロリストたちが何を達成しようとしているのか、という点です。自国に対する何らかの不満というのがあると思うんですけれど。

 9・11のときに3つ挙げていたと思うんですけれど、1つは、自国政府の、親米の軍事政権を倒す、と。2つ目がイスラムの領土から、ユダヤ人とキリスト教徒を追い出す、と。もう1つはカリファの国(イスラム教徒の国)を作る、と。一種の政治思想ですよね、。

―シャルリ・エブドの実行犯は「イスラム過激主義のシンパ」と呼んでいいのでしょうか。

 シンパから入っていったんですけれども、ただ、軍事訓練を受けていますからね、モチベーションを抱いて、暴力の訓練も受けてやっているので、軽い気持ちではないと思いますよ。彼がどれだけ思想を分かっているかというと、おそらく、コーランは読んでいないでしょうね。理解してやっていても、理解は非常に浅いでしょうね。

 (テロ組織は)3層で考えた方が良くて、一番上はアルカイダとかIS(「イスラム国」)の中東の本部の人たちで、しっかりした理論を持っていて、理論と言ってもつぎはぎの理論ですけれども、戦略をたてている。

 その下にリクルーターがいて、彼らがいろいろな作戦を組織して、人を集める、と。

 一番下層の第3層というのが、ホームグロウン(自国で生まれ育った)で、ベルギーやフランスなどアフガニスタンにいて、「お前たち、こうすれば、将来天国に行ける」などと言われて、引き寄せられる、と。

―ある意味では、テロ行為が生きる糧になるというわけでしょうか。

 生きがいであり、死にがいである、と。

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