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  • 2021年11月01日 13:56 (配信日時 11月01日 06:00)

日本企業にリモートワークが合わないこれだけの理由 オフィス復帰を指示し始めた米国 - 冷泉彰彦 (作家・ジャーナリスト)

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2020年から21年にかけての一時期、アメリカではホワイトカラーのオフィスワークは原則として全てリモート(テレワーク)となった。これは、感染対策の一環として各州政府が発動した強制的な措置、つまりロックダウンの一つとして行われた。


(kazuma seki/gettyimages)

具体的には工場や建設現場、運輸、小売といったリアルでなくては成立しない職種を「エッセンシャル・ワーク」と定義し、それ以外の職種に関しては出勤を禁じたのである。ちなみに、企業として小売やサービスなど現業部門を持っていたとしても、総務経理など間接部門で知的労働が主である職種は同様に出勤禁止とされていた。

一時期はウォール街を含むニューヨークのマンハッタンなど、世界有数のオフィス街から人影が消えた。また西海岸のシリコンバレーに林立する、ハイテク企業の巨大「キャンパス」も無人となった。

その結果として何が起きたのかというと、リモートに移行した産業、すなわちハイテクと金融に関しては、短期的な業績としてはコロナ禍の影響を受けず、むしろ成長を続けて株価も上昇したのである。その背景には、2010年前後からアメリカではリモート勤務が部分的に多くの企業で導入されており、基本的なインフラ、つまり端末の運用や仮想ファイアウォールなどセキュリティ対策が完備していたことが指摘されている。

「リモートは生産性が高すぎる」という懸念

だが、そのアメリカでは21年の夏以降は状況が変わってきている。感染拡大が沈静化し、ロックダウンが解除となるにつれて、リモート勤務の固定化を嫌う経営者たちが、従業員に対して続々とオフィスへの復帰を指示しているのだ。これに対しては、ワークライフバランスの観点から、リモートのメリットを享受してきた従業員の多くが抵抗を示しており、場合によっては離職も辞さない態度を取っていることから、人手不足が懸念される状況もある。

では、アメリカの経営者たちは、どうして「オフィスに戻れ」と強く訴えているのかというと、「リモートは生産性が高すぎる」からだという。例えば、13年の時点で、当時ヤフーのCEOであったメリッサ・メイヤー氏は、すでに拡大を続けていたリモート勤務に対して危機感を抱き、従業員にオフィス勤務に戻るよう指示をして物議を醸した。

その際にメイヤー氏は「リモートは日々のタスクを回すには生産性が良すぎる」「だが、企業にとって重要なのは5年先、10年先を見据えた新しい発想であり、これは雑談や非公式な議論から生まれるもの」であり、「リモートではこうした一見無駄な要素は排除されてしまう」と訴えたのである。

今回のポスト・ロックダウンにおける各CEOの立場もこれと同様だ。とにかく、リモートであれば、日々の仕事はどんどん回るが、「それだけになってしまう」という点に多くの経営者が危機感を抱いている。

その他にも、リモートだと、人事考課は業績からダイレクトにするしかないが、対面だと異能の才を発見して抜擢することが可能だという声がある。また、金融関係の経営者からは「部下の表情からリスクのインパクトを読むには対面がベター」という声がある。

だが、この「抜擢」や「表情によるリスク評価」などという意見については、若い世代には嫌悪感が強い。生まれながらのデジタル世代(デジタル・ネイティブ世代)にとっては、そうした高度なコミュニケーションもデジタルで完結できるし、それが仕事だという感覚があるからだ。

テレワークで露出した日米の生産性の違い

とはいえ、この「一見するとムダな対面での雑談から中長期の視点が生まれる」という考え方は、それはそれで興味深い。だが、日本の多くの職場では現在、「テレワークにすると生産性が落ちる」という問題に頭を抱えているというのが現実だ。

テレワーク初期には高齢世代の上級管理職から、画面越しに管理監督ができないという「ボヤキ」が出ていた。だが、現在では「テレワークではデイリーの仕事が回らない」という悲鳴は、若手を含む現場からも上がっている。「テレワークでは生産性が高くなりすぎる」というアメリカと、「テレワークでは日々の仕事も回らない」という日本、その差の中には、オフィスにおける生産性の問題が深く関係している。

まず、テレワークの初期には、紙、つまり原本とハンコ、そして紙の郵便物に縛られた事務作業の環境があるという問題が指摘された。続いて、ネット環境におけるセキュリティの確保だとか、セキュリティが管理された中での自由なチャット環境の必要性など、インフラの問題も浮上した。もっと具体的なネットへの接続環境や、PCなどハードウェアへの投資の問題もあった。

だが、こうしたインフラの問題は、さすがにこの1年半の間に相当な改善が進んでいる。では、それでも、どうしてテレワークではデイリーの仕事が回らないのだろうか。

この点に関しては、日本語の会議では「あうんの呼吸」つまり関係性によって用意された事前の情報共有を前提として、言語そのものよりも「場の雰囲気」などを使ってコミュニケーションが図られる。従って画面を通した会話では物事が決められないといった文化論、あるいは敬語の存在や先輩後輩など極端なヒエラルキーがある中では、やはりオンラインによって要点を実務的に処理する会話はやりにくいといった指摘もされている。

こうした文化論による解説も事実の一端を示しているかもしれない。だが、日本のオフィスにおける生産性の問題、そしてリモートが回らない理由としては、もっと本質的な問題がある。それは日本の多くの企業、官庁の人事制度がメンバーシップ型であり、ジョブ型ではないということだ。そのために、業務の一環として「教える」という動作が非常に多くなる。これが問題である。

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