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米国の懸念は「巻き込まれる」ことよりも「巻き込まれないこと」

「米国が軍事衝突に巻き込まれる可能性も」 尖閣問題で米議会調査局(産経新聞)
尖閣諸島での日中対立について「米国が軍事衝突に直接巻き込まれる可能性もある」との見解を示した。
日中衝突なら米にも影響=尖閣問題めぐり-議会調査局(時事通信)
沖縄県・尖閣諸島をめぐる日中の争いについて「米国が(日中の)軍事衝突に直接巻き込まれる可能性がある」との懸念を示した。

アメリカが、尖閣諸島での日中対立に「巻き込まれる」心配をしている、という報道がありました。いずれも今月発表された米議会調査局(CRS)のレポート[PDF]がもとになっています。「アメリカは日中の軍事対立に巻き込まれる危険性(the risk of U.S. involvement in military operations)がある」と述べて、両国へ衝突回避の努力を呼びかけています。

ただ、レポートと報道のニュアンスがちょっと違うかな、と感じました。もちろん単純に「巻き込まれる」ことも懸念のひとつではありますが、むしろアメリカが「巻き込まれない」状況が生まれ、それが武力衝突の引き金になってしまうという懸念こそが最大のものだと読み取れます。アメリカのコントロールが効かない状況で地域が不安定化することの方がアメリカにとっては不利ですし、不安ですから当然です。

では、私が感じたレポートと報道のニュアンスの違いを簡単に。

レポートは尖閣問題に関心のない米議員たちにも分かるように、シンプルなロジックで書かれています。まず、アメリカが他国の領土問題には介入しない原則を確認しています。にもかかわらず、なぜ尖閣諸島防衛の義務が発生するのか?を続けて解説。いわく、「日米安保条約第5条において、米軍は日本の施政権下にある領土を守る義務がある」と規定されており、現在、「尖閣諸島は日本の施政権下にある」。だから、「米軍は尖閣諸島を守る義務がある」という論理です。その結果起こる可能性として、「日中軍事衝突の際にはアメリカは巻き込まれるかもしれない」とし、日本の報道が伝えているのもここまで。

重要なのはここからです。

現在、中国は尖閣諸島周辺に海洋監視船などを繰り出し、それを「通常の業務」と位置付けようとしています。この行為によって、中国は尖閣諸島における日本の施政権の有効性を曖昧にしようと試みているのだと、レポートは指摘します。つまり、第5条にある「日本の施政権下にある領土を防衛する」という文言の「日本の施政権下にある」点を疑わしいものにしてしまえば、アメリカは手を出せなくなる、というわけです。

アメリカの手を縛っておいて中国はさらに牙を剥くつもりですが、当然日本との間で高強度の軍事衝突が発生する蓋然性が高まります。日米同盟が機能しない確率が高いのですから、中国が今以上に強い手段に出ることは間違いありません。そして、これはアメリカのコントロールが及ばない紛争となり、この地域に利害を持つアメリカとしてはとても不愉快な事態です。

安保条約のこうしたスキマを中国に突かれないために、国防権限法に尖閣諸島防衛が名指しで盛り込まれることになったんだよ、とレポートは議員に再認識させています。

the unilateral action of a third party will not affect the United States’ acknowledgment of the administration of Japan over the Senkaku Islands.
(尖閣諸島が日本の施政権下にあるというアメリカの認識は、第三国の一方的な行動により影響を受けない)


こうして読むと、アメリカは日中対立に「巻き込まれる」ことを懸念しているという報道はやや単純すぎる表現かな~、と思います。


◇ ◇ ◇


同盟にはジレンマがつきもので、「巻き込まれる怖れ」と「捨てられる怖れ」があります(参考記事)。

例えば日本の側には、アメリカに捨てられる怖れがあるとCRSレポートは指摘しています。核の傘を含む拡大抑止が機能していないんじゃないか、という疑いも「捨てられる怖れ」のひとつですね。米主導のテロとの戦いに「巻き込まれる怖れ」も話題になりました。

自分が誰かと揉める時にはパートナーに一緒にいて欲しいものですが、パートナーが誰かと揉める時には距離をとりたいと思うのは無理もないところです。できることなら巻き込まれたくないけれど、取り返しのつかないことになってから巻き込まれるくらいなら、めんどくさいけど口出ししながらコントロールした方がましか、というのがアメリカの正直なところではないでしょうか。

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