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次のサブプライム・ショック~曲がり角に立たされている米国の大学教育~

※このエントリはBLOGOSへの書き下ろしです

米国の学費ローン残高が1兆ドルを超えました。

調査会社FICOラボによるとクレジットカード残高や自動車ローンの残高が近年減少する傾向にある中で、学生一人当たりの学費ローン負担額だけが過去7年間に+58%も急増しました。

しかも学費ローンのデフォルト率は漸増傾向にあり、FICOラボの最新のデータ(2010年10月以降に組まれた学費ローン)では15.1%にのぼっているそうです。これは5年前の前回調査より+22%も増えています。

大学の授業料がどんどん高騰し、それにもかかわらず大学を目指す学生が増え、結果として「大学は出たけれど良い職にありつけない」という状況が生じているわけです。

それは言い換えれば大学卒という肩書の持つ価値がだんだん薄まっているにもかかわらず、僅かな有利さを求めて学生が殺到するという構図になっているということです。

実際に、大学卒は有利なのでしょうか?

下は米国労働統計局の2011年の調査です:
【学歴別失業率】
高卒 9.4%
四年制大学卒 4.9%
修士卒 3.6%
プロフェッショナル学位 2.4%

【学歴別週給】
高卒 $451
四年制大学卒 $1,058
修士卒 $1,263
プロフェッショナル学位 $1,665
つまり確かに高学歴ほど失業率は低いし、給料は高いのです。しかし高い学歴を手に入れるためには、先ず高い授業料を払って大学を出なければいけません。

米国の大学の授業料はピンからキリまでありますが、一般にアイビーリーグなどの、卒業後就職に有利なブランドネームの大学の場合、寮費(米国の場合、寮で他の学生と共同生活するのが普通です)を含めた年間コストは四百万円から場合によっては五百五十万円にも達することは、珍しくありません。これは軽く日本の私学の二倍です。つまり四年間通うと、ザックリ言って二千万円の投資になるわけです。

もちろん、大学には各種奨学金制度(スカラーシップ)がありますが、その多くはグラント(授業料の棒引き)ではなく単なる融資です。また奨学金は学生の成績や家計の状況など、いろいろな尺度によって決まって来るので、確実に貰えるというのとは、程遠いです。

多くの場合、大学独自の奨学金制度の手厚さは、その大学がどのくらい裕福か? ということによって決まります。別の言い方をすれば、卒業生からの寄付金を沢山受けている大学(例:ハーバード、イェール、プリンストン)は学生に負担を強いること無く大学を運営できるけど、学生のもたらす授業料に大学の運営費用のやりくりの大半を依存しているところは、必然的に奨学金制度もショボイということなのです。

結果として大学間格差はどんどん拡大する傾向にあります。

なぜならハーバード、イェール、プリンストンといった潤沢な寄付金を持った大学は、家庭が裕福かどうかを一切、考慮せず(=これをニード・ブラインドと言います)どんどん奨学金をぶら下げることで最優秀な学生を集めれば良い一方で、経営の不健全な大学はそれが出来ないからです。

この結果、最近の学生はどの大学を選ぶか? という問題に際して、ROI(Return on Investment)を重視しはじめています。それは奨学金などを考慮に入れた後の、実質的なコストに対して、卒業後、どれだけ高給な仕事に就けるか? というソロバンに他なりません。

高いROIを示している大学には優秀な学生が集まりやすいし、それは結果として将来、成功する人材を多く輩出し、それがより多くの寄付金になって大学に戻って来る……そういう好循環を生むのです。

これとは逆に授業料ばかり高くて、卒業しても良い職につけないという評判が立つ大学は、だんだん応募者の質が低下して、結果として就職戦線でより苦戦する……つまり悪循環に陥るのです。

いまから数年後には学費ローンの大量デフォルト時代を迎えると思います。その場合、誰だって「自分が卒業した母校が、社会人になって15年後、30年後に落ちぶれていた」という状況は見たくないと感じるでしょう。

今後、その手の振い分けがどんどん厳しくなるのは目に見えているし、個々の大学のブランドネーム価値が「暴落」を起こす可能性も、極めて高いのです。

実際、最もROIが低いと思われるNYSEなどに株式を公開しているフォア・プロフィット(=営利)の大学の株価は、どれも倒産を織り込んだような安値をウロウロしています。

くわばら、くわばら。

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