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日本は幸福な長寿社会モデルの先駆けになれる - 「賢人論。」第150回(前編)秋山弘子氏

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日本が高齢化に突入したのは1970年代から。その頃はまだ高齢化問題は日本の大学においては研究・教育の対象ではなかった。しかし、東京大学名誉教授である秋山弘子氏は当時から問題意識を持っていた。そしてジェロントロジー(老年学)が芽生えていたアメリカに渡り、1978年にイリノイ大学でPh.D(心理学)を取得。

米国国立老化研究所研究員、ミシガン大学社会科学研究所教授などを経て、1997年より東京大学大学院で教鞭をとる。長年高齢化の問題と向き合ってきた秋山氏は、超高齢社会にある日本で今何が必要だと考えているのか。お話を伺った。

取材・文/みんなの介護

人生100年時代、個人・社会・産業界それぞれの変革を

みんなの介護 ジェロントロジー(老年学)を専門にされたきっかけをお聞かせください。

秋山 幼い頃から高齢の方と接することが多かったのです。そのため高齢者の日々の生活における喜びや悩みに関心がありました。私が育った家は祖父母が隠居して離れに住んでいました。そこにご近所さんや親戚のお年寄りが来ていろいろなことを話していました。

私は初孫だったのでとてもかわいがられて育ち、祖父母がいる離れで1日過ごすことも多くありました。高齢者の喜び・不安・寂しさなどを身近に感じる環境で育ったのです。

その後、1970年代の初頭にアメリカの大学院に留学して30年近くアメリカで過ごしました。私が留学したのは日本の高齢化率が7%になり高齢化社会に突入していくタイミングでした。有吉佐和子さんの『恍惚の人』という本がベストセラーになった頃です。

認知症になったお舅さんのために介護離職をした中年女性の話が克明に書かれています。この本で高齢社会の課題を多くの人が意識するようになりました。

私は心理学を勉強していたのですが、当時の発達心理学の対象年齢は20歳ぐらいで止まっていてその後はありませんでした。身体の老化や成人病(のちに生活習慣病と改名)の研究が始まっていた医学の分野以外では高齢者研究はあまり注目されていなかったのです。

このような時代に私はアメリカに留学しました。そしてジェロントジーというアメリカにおいても萌芽期の学問があることを知って専門にする道を選びました。高齢者は急速に増えるのに、高齢化問題を研究・教育する大学は日本になかったからです。

みんなの介護 秋山さんは超高齢社会の課題はどこにあるとお考えですか?

秋山 私は常々、高齢社会の課題は大きく分けて3つあると申しています。「個人の課題」と「社会の課題」と「産業界の課題」です。

長寿時代に生きる個人の課題は、お決まりの人生コースに沿って生きるのではなく、100年の人生を自ら設計して舵取りをしながら生きる新しい生き方に切り替えていくことです。社会の課題は人生100年時代のニーズに対応すること。社会の仕組みを見直していくことが必要です。

今私たちが生きているまちは人生50年・60年と言われた時代にできたものです。この頃は子どもたちが多く、高齢者は5%ぐらいしかいませんでした。そのため住宅・交通機関・教育・雇用・医療・介護などソフトとハードのインフラを長寿社会のニーズに合うように整えることが求められています。

産業界の課題は、人生100年時代の生き方や社会に合わせたモノやサービスをつくることです。個人や行政がいくら新しい生き方やまちづくりを考えても、それに必要なモノやサービスやシステムがなくては実現できません。

日本はほかの国に先駆けて長寿社会の課題に直面します。急速に高齢化したため課題は山積していますが、モデルがありません。

しかしこれを逆手に取ることもできます。長寿社会に対応する新しい産業を、日本の基幹産業の一つに育て上げていくのです。今や地球丸ごと高齢化しており、大きな市場があります。

長寿社会の課題解決には「産官学民」の共創が必須

みんなの介護 学問の垣根を越えて研究を進められているからこそ、可能になることもありそうですね。

秋山 超高齢社会の問題はさまざまな学問が連携しなければ解決不可能です。また学問だけではなく、行政や産業界とも力を合わせて向かい合う必要があります。超高齢社会では医療・介護の問題だけでなく移動手段・雇用制度・お金の問題など複雑で多様な問題が山積しています。

従来の細分化された学問分野で論文を書くだけでは、人々の生活は豊かになりません。幸せにもならないです。課題解決のためには、学際的に連携していくことが必須です。アメリカのジェロントロジー研究所も学際的な組織として運営されています。

みんなの介護 研究結果が実際に社会で生かされることが大切なのですね。

秋山 そうですね。私が今関わっている東京大学の高齢社会総合研究機構でもアクションリサーチを大切にしています。アクションリサーチは、現場に行って住民や行政、産業界と一緒になり課題を解決していく取り組みです。

私は長い間調査研究を行い、「高齢社会の課題は何か」を見つけることに専念してきました。

典型的なものは1987年にアメリカの大学にいたときに始めた、パネル調査と言われる全国の高齢者調査です。

これは同じ人(約6,000名)を3年ごとに追跡して行う調査です。個人が年をとるに従って、その人の健康・経済・人間関係がどのように変化していくかを追跡しています。これにより、超高齢社会の実態と課題を捉えることができます。30年間続けており今年は10回目の調査になります。

しかし、実際に問題を解決するために大学はもっと貢献していかなければいけないと強く感じました。そして15年ほど前に高齢社会総合研究機構の設立に携わったという経緯があります。

そこで取り組んだのがアクションリサーチです。東大は多くの学問分野が集積する総合大学なので、さまざまな分野の教員が連携して取り組んでいます。

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