- 2021年10月27日 16:02 (配信日時 10月26日 11:15)
「発売2カ月で100円に値下げ、1年で販売終了」アマゾンがスマホ事業で盛大にスベったワケ
1/22014年にアマゾンが発売したスマートフォンの「ファイアフォン」は、発売からたった1年で販売中止になった。なぜ失敗したのか。学びデザイン社長の荒木博行さんの著書『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)より一部を紹介する――。
2014年7月25日、アメリカ・ニューヨーク州ブルックリンにあるAT&Tの店舗に展示されている、新しいAmazon Fire Phone。オンライン小売業のアマゾンが独自に開発したスマートフォン「Fire Phone」が、米国でAT&T限定で販売された。 - 写真=EPA/時事通信フォト
見た瞬間ワンクリックで即購入
2014年当時は既にiPhoneやアンドロイドベースのスマートフォンが乱立している時代でした。この競争が激しい市場において、遅れて参入したアマゾンは、どのような勝ち筋を描いたのでしょうか。
このファイアフォン(Fire Phone)というスマートフォンの最大の特徴は、「電話もできる携帯レジ端末」と表現されるほどの「買い物体験の向上」にあります。
具体的には搭載された「Firefly(ファイアフライ)」という機能です。
この機能を活用すると、スマートフォンのカメラでDVDや書籍の表紙を撮影することで、すぐにアマゾンのウェブページでレビューを読んだり購入したりできるようになります。さらにはカメラだけでなく、テレビや映画、音楽などをファイアフォンに聞かせることで、コンテンツを特定し、すぐに購入することが可能になるのです。
つまり、ファイアフォンは、実空間にあるもの全てをスキャンの対象にするツール、とも言えるでしょう。
もちろん、単なる検索機能であれば、アプリ上ではそれほど難しくないかもしれません。
しかし、このファイアフォンの特徴は、検索から購入に至るまでのシームレスかつスピーディな動作にあります。当然、この裏側にアマゾンの巨大なデータベースがあるのは言うまでもありません。
つまり、膨大な商品画像やコンテンツデータのストックがあるため、認識できるものの種類が多く、かつ次の瞬間ワンクリックで即購入できるものの種類も多いということです。「1億を超えるアイテムを、いつでもどこでも1秒で認識できる」と当時アマゾンのCEOだったジェフ・ベゾスは語りましたが、このシームレスな体験はアマゾンでしか実現できないことでした。
世の中を丸ごとショールームに変える
私たちの購買活動の利便は向上しつつありますが、検索から購入までの過程には、検索作業やアプリの横断など、「わずかな障壁」が存在します。その代表例が、iOSのキンドルアプリからはいまだにコンテンツを直接買うことができない、という制約です。
これは、アップルがアプリ開発者向けの規約で、アプリ内から直接デジタルコンテンツを購入させることを禁じているためで、アマゾンにとっては厄介極まりない処置です。
アマゾンはこのようなあちこちに散らばる購入体験上の障壁を完全に取り去ることを目指しました。それが「電話もできる携帯レジ端末」と言われるファイアフォンの本質です。
また、当時は消費者が小売店の店頭で実物を見てからネットで購入する「ショールーミング」と呼ばれる消費行動が台頭してきた頃でした。ファイアフォンには、「世の中を丸ごとショールームに変える」という狙いがあったのです。
当時のアメリカでの小売売上高に占めるネット通販の比率はわずか6%。つまりネット通販のポテンシャルは巨大です。この「ショールーミング」の可能性を睨んだファイアフォンというデバイスにはアマゾンの大きな野心があったのです。
発売わずか2カ月で100円程度に値下げ
しかし、アマゾン側の期待とは裏腹に、発表直後、市場や業界の反応は否定的でした。その背景には、iPhoneやギャラクシー S5といった強力な先行者の存在がありました。
言わずもがな、スマートフォン市場は最も競争の激しい市場の1つです。GAFAと呼ばれる大手プレイヤーでさえ、ハードウエアにおいて成功したのはアップルのみ。フェイスブックもグーグルも参入しては撤退したという苦い経験を持ちます。
2014年7月に発売したものの、やはりアマゾンの想定した通りにはならず、9月にはファイアフォンの価格を199ドルから99セント(100円程度)に引き下げるという発表をして世間を驚かせました。アマゾンのサブスクリプションサービス「アマゾンプライム」1年分(当時99ドル)の利用権は引き続き特典として提供されるので、価格においては無料以上のメリットまで提供したのです。
しかし、それだけの対応をしても、アマゾン自身のサイトの購入者評価でも5段階中の3にとどまるなど消費者の反応はいまひとつ。電池の過熱や持続時間に対するハード面の不満も少なくありませんでした。
他方で、同じ9月にはアップルによるiPhone6が発売となり、市場におけるファイアフォンの人気は急速に下火になっていきます。
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