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3割の新人が3年で離職…「若者は根性が足りない」と嘆くオジサン社員の壮大な"勘違い"

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厚生労働省の調査によると、新入社員の約3割が3年以内に会社を辞めている。イノベーション研究の国際賞「シュンペーター賞」を受賞した早稲田大学商学学術院の清水洋教授は「『若い人の辛抱強さがなくなった』などと言われるが、完全に的外れだ。従来の働き方を続ける日本企業が見放されているからだ」という――。(前編/全2回)

電話で叫ぶ日本の企業の上司 ※写真はイメージです - iStock.com/THEPALMER

社内の言葉、常識が染み付いた日本の会社員

異業種の企業幹部が集まる研修でモデレーターをした時のことです。どうも話が噛み合わないのです。モデレーターが悪くて、打ち解けていないのかと思いましたが、初対面のわりには雰囲気は悪くありません。

会話を聞いてみると、話している言葉がかなり違うのです。お互い、自分のビジネスは説明しているのですが、かなりの程度、その企業の言葉で語られているのです。もちろん、経営幹部ですから、全く理解し合えないわけでありません。しかし、自分のビジネスや組織の課題を説明する時に、自分の組織固有の言葉をつかうのです。共通言語が少ないのです。

また、「じゃあ、こうすれば良いのではないですか?」と他の人に問われた時に、「いやいや、わが社はこういう事情がありまして……」と特殊事情として説明するのです。本当にそれは組織固有の特殊事情なのでしょうか。気前は良く、ユーモアもあるのだけれど、自分の組織の話となるとやや頑固になるのです。

同じ組織で長い間過ごしていると、組織特殊的な言葉や社内の常識が自然と染み付いてきます。そのような言葉や固有の事情が成立してきた文脈もあるはずです。合理性があって成立していることでしょう。

しかし、そのビジネス、あるいはその組織がなくなってしまうような状況になったら、組織特殊的なスキルばかりを磨いてきた人たちはどのような行動をするのだろうと考えたのです。もしかしたら、新しい変化を推し進めるのではなく、むしろそれをなんとかして止めようとしてしまうかもしれません。

45歳定年制度に賛成できる理由…終身雇用、年功序列は機能していない

サントリーの新浪剛史さんが45歳定年制度を提案し大きな注目を集めました。60歳未満の定年は現在、法律で禁じられているため、すぐに広がるものではありませんし、新浪さんもそのことは分かっているはずです。

この提言は、経済同友会のセミナーでのものです。経済同友会は、日本の経営者たちが会員となる組織です。新浪さんは、経営者たちにこのままでは相当まずいというメッセージを送ったわけです。

この受け止められ方は、おおむね「何をバカなことを言ってるんだ」というものでしょう。すぐに実現できるものではないとか、ただの賃金カットだとか、あるいは社内の優秀な人材がいなくなってしまうなどという意見が多いようです。あまり評判が良いとは言えません。

実は、45歳定年制度はアイディアとしては新しくはありません。東京大学の柳川範之さんが随分前に40歳定年制を提案しています。その時も、好意的に受け止めたビジネスパーソンは多くはなかったのではないでしょうか。

しかし、イノベーションという観点からすると、賛成と言わざるを得ない点が多くあります。その理由を考えていく前に、少し日本企業での働き方について歴史を振り返ってみましょう。

働き盛りの人材が企業を支えてきた

これまでの日本企業を支えてきた競争力の1つが優秀なミドル・マネジメント(中間管理職)だったということはこれまでに多くの研究者が指摘してきました。

何も決めない(決められない)トップ・マネジメントと何もビジネスを知らない新卒との間に挟まれながらも、ミドル・マネジメントがトップと現場をつないで、企業を献身的に文字どおり支えてきたのです。

なぜ、日本のミドル・マネジメントはそこまで頑張れたのでしょう。これは、彼・彼女らを頑張らせるインセンティブが埋め込まれていたからです。

図表1を見てください。これは、戦後の日本のいわゆる大企業に根付いたといわれる終身雇用を前提とした年功序列型の賃金のカーブです。縦軸が給与、横軸が時間を示しています。実線で描いたものは、労働者への給与がその人の市場価値で決まった場合に、労働者が受けとる給与のカーブです。

【図表1】高度経済成長期に確立した賃金カーブ

就職してから徐々に給与は増え始めます。自分の能力が上がるとともに、市場価値も高まるからです。しかし、その上昇は徐々に低減していき、ある程度になると少しずつ給与も小さくなります。シニアになるとそれまでに構築した能力は陳腐化しますし、新しい学習もしにくくなります(自己投資をしたとしても、回収期間が短いため、大型の投資はしないからです)、市場価値も少しずつ小さなものになります。

安い給料でも若手が猛烈に働いた事情

市場価値で給与が決まったとすればこうなるわけですが、戦後の日本の実際の給与カーブはそうなっていませんでした。

赤の点線が実際の給与カーブを描いています。新卒一括採用で入社した若い社員の初任給は高くはありません。まだ、仕事をしたこともないのですから当然です。若い人たちはさまざまな学習を通じて、ビジネスに必要なスキルを身につけていきます。順調に学習を重ねていけば、市場価値も上がっていきます。しかし、日本では、給与は市場価値ほど上昇しません。

ある年齢までは、市場価値よりも低く抑えられているのです。赤く示しているように、市場価値と比べると受け取る給与は過小なものとなります。それでも、若い頃には多くの人は、企業を支えるために働いたのです。社内のネットワーキングのために行きたくない飲み会にも参加し、夜遅くまで残業したのです。

なぜでしょう。それは、ある年齢を超えると実際に受け取る給与が、自分の市場価値に見合った給与よりも高くなるからです。図表1で青く示されているところです。この過剰な給与部分があるために、若い頃に市場価値よりも過小な給与であったとしても頑張るのです。

ラッシュアワー ※写真はイメージです - iStock.com/aluxum

転職は損…社内で使えるスキルが一番重要だった

社内では昇進競争もあります。昇進すればもちろん、過剰な給与部分は大きくなります。社内では24時間、365日とは言いませんが、いつも働きぶりを見られています。その競争の中から、良い人材が選抜されていくのです。これは社内に労働市場があるということであり、内部労働市場と呼ばれています。

内部労働市場が発達すると、人々は当然、社内での評価を気にして行動します。どこの企業でも通用する汎用(はんよう)的なスキルはあまり重視されません。例えば、財務会計やファイナンス、法務、英語やコミュニケーションなどは汎用的なスキルの代表的なものです。MBAをとっていても昇進が早まるわけでも給料が上がるわけでもなかったのです。

汎用的なスキルよりも、その産業や社内に固有のスキルの方が高く評価されてきました。自社の製品やサービスに固有の知識やスキル、あるいは、社内の人的なネットワーキング(部長は誰と仲が悪いか、どんな食事が好きかなど)もこれに当たります。ここで組織特殊的な言葉や社内の常識が染み込んでいくのです。

組織での評価の方が市場価値よりも高くなる人が多くなります。そういう人は転職しようとはあまり考えません。給与が下がってしまうからです。

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