記事
  • WEDGE Infinity
  • 2021年10月22日 14:08 (配信日時 10月22日 06:01)

ウィズコロナへの転換期 今こそ検証すべき「法」と「体制」 - 堀 成美(感染症対策コンサルタント)吉峯耕平(弁護士)

1/2
新型コロナ第5波が収束しても、われわれは常に次なる感染症の脅威にさらされている。「感染症」と「法律」の専門家が語る、将来に備えて今こそ議論すべき要点とは。
聞き手/構成・編集部(川崎隆司)

堀 成美 Narumi Hori
感染症対策コンサルタント
神奈川大学法学部、東京女子医科大学看護短期大学卒業。国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)修了。聖路加看護大学助教、国立国際医療研究センター感染症対策専門職などを経て現職。国立国際医療研究センター国際診療部客員研究員。

吉峯耕平 Kohei Yoshimine
弁護士
田辺総合法律事務所弁護士。東京大学経済学部卒業。日本医事法学会、一般社団法人日本医療情報学会、デジタル・フォレンジック研究会などに所属。第一東京弁護士会総合法律研究所IT法研究部会前部会長、国立国際医療研究センター臨床倫理委員会委員、司法改革推進センター委員などに就任。


編集部(以下、──)9月末をもって全都道府県で緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置が全面解除された。新型コロナウイルス対策の近況は。

 新型コロナの特性自体はある程度早い時期から把握できていたが、ここにきて医療現場レベルで〝闘える武器〟が揃いつつある。ワクチンの効果で重症患者が減少したのに加え、軽症・中等症患者へは中和抗体薬「ロナプリーブ」の点滴投与(抗体カクテル療法)によって症状悪化を抑える効果が見込める。さらに、現在承認申請中の経口治療薬が年内を目途に行き渡れば、いよいよ長かったウイルスとの闘いの勝利に向けた一筋の光が見えてくる。

吉峯 素人目には「ワクチンができるまで数年はかかるのでは」と思われたが、世界中が総力を挙げたことで1年足らずで完成にこぎつけた。さらに、従来のワクチンの常識と比べ有効性が高く、副作用もほとんどないと聞く。国内の接種率もかなり高くなっており、この点はしっかりと評価すべきだ。

 ウイルスとの闘いのフェーズが移行する今だからこそ、われわれもコロナに関する混乱を早期に整理し、これまでの仕組みをモデルチェンジしていくべき時期にある。

──具体的には、どのようなことを見直していくべきか。

 例えば、感染拡大初期に「濃厚接触者に対しては患者と接触した日から起算して14日間は自宅待機を要請するように」という厚生労働省の方針が示されたが、ワクチン接種者や、軽症の自宅療養者の家族に対してまで2週間の自宅待機を強いるのは過剰な対応だ。検査を併用することで短縮でき、感染データを踏まえて待機期間を見直す国も増えている。日本でも、新型インフルエンザ等対策特別措置法の第5条に「国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該新型インフルエンザ等対策を実施するため必要最小限のものでなければならない」という法に基づき、自宅待機期間の見直しを図るべきだ。

吉峯 法律の枠を逸脱した対策でいえば、感染症法では、感染者は入院させるしか選択肢がなく、自宅療養や宿泊療養は、本来認められていなかった。

歴史を紐解けば、ハンセン病患者への不必要な長期間の隔離を違法とする裁判例があり、感染症法が改正されて、隔離の概念をなくしてしまった。陽性者に対する強制措置は「入院勧告」しか用意されていない。〝隔離〟ではなく入院と医療ケアによる〝保護〟だという建前で、結果的に隔離が達成されるという欺瞞的な法律だ。

一方、新型コロナは、無症状・軽症の陽性者から感染が広がるのが特徴で、医療機関以外での隔離(自宅療養、宿泊療養)といった法的根拠なき身柄拘束を実施せざるを得ず、人権侵害として極めて問題だった。法律に基づかないことで「自治体がどうやって支援するか」「誰の負担でどこまでの治療行為を行ってよいか」など、さまざまな問題が曖昧になったままだ。また、法律の裏付けがなければ、予算、人員、行動計画、どの程度の検査が必要かといった体制を事前に整備することができず、泥縄式の対応になってしまう。

新型コロナは予想外の感染症なので、発生当初は根拠がない中で対応するのもやむを得なかったかもしれない。しかし、これだけ時間が経っているのに、立法措置がほとんどなされていないことは、諸外国と比べても理解できない。隔離が法律に書いていないなどという非常識な欠陥を見直し、現実的な対応ができるよう法改正すべきだ。

「2類」から「5類」で
医療現場はどうなる?

──緊急事態宣言の解除に伴って、国民への行動制限はどう変わるのか。

吉峯 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の下では、事業者が要請に従わない場合、命令や公表ができる。宣言や措置が解除されれば命令や公表はできないが、要請自体は可能である。いずれも任意の要請で、罰則もない。日本のこういった仕組みは一種の「ソフトロー(soft law)」といえる。

任意の要請による行動制限という仕組みには、メリットとデメリットがある。メリットは、状況に応じて柔軟に対策を変えることができ、人権制限としても程度が弱いところだ。デメリットは、「国が責任ある対応を取らなくなるのでは」という疑問が生じること、強制力がないことで無視する人が増えてくると、守っている人に不公平感を与えることだ。行動制限は最小限でなければならないから、細かいルールを決めるよりも、考え方を共有して現場で考えられるようにすべきだ。最低限守るべきポイントは罰則で担保することも必要かもしれない。

──法律の見直しについて、現在感染症法の指定感染症のうち、2類相当に指定されている新型コロナを、インフルエンザと同等の5類感染症に引き下げるべきだ、といった意見もある。

吉峯 まず、法改正によって新型コロナは「新型インフルエンザ等感染症」という類型に位置付けられているので、5類には簡単に変更できないのではないか。2類と5類を比べると、2類感染症の方が、法律的にみればできることが多い。例えば、2類感染症患者であれば「入院勧告」ができるが、5類ではできない。

 2類感染症の場合、できることも多いが、それに伴って医療機関が〝やらなければならないこと〟も多くなる。保健所への発生報告についても、5類は発生から7日以内に発生数のみの報告(麻疹・風疹をのぞく)だけでよいのに対し、1類から4類については氏名や住所など、感染者の個人情報も全て詳細に、かつ直ちに報告しなければならず、現在ほど感染者が増えれば医療機関にはかなりの負担となる。

新型コロナを5類に引き下げても工夫の余地はある。例えば、5類感染症の中でも「水疱瘡」については入院者のみ詳細報告が必要と定められている。この仕組みを準用すれば、新型コロナ患者も入院が必要な重症患者のみ詳細報告の対象とし、軽症者については数のみの報告とするか、感染動向をみるために一部地域のみサンプルで詳細報告とする形式をとればよい。

吉峯 国際的にみれば、コロナ感染者が増加しても属性情報を含めた全数把握を続けている国も多いと聞く。

 そういった国はやはりデジタル化が進んでいて、報告作業が効率化されている。一方で、日本ではいまだ紙やFAXを用いた報告が一部残っているため、負荷がかかっている。

吉峯 コロナに限らず、デジタルで医療情報を扱う基盤が平時から整備されていない。医療機関はFAXでしか陽性者の届出ができないのもその一例だ。普段できないことは緊急時に急にできるようにならないので、平時から整備を進めなければならない。

 また、2類感染症では治療費は全額国費で賄われるが、5類感染症になればその他の病気と同様に3割負担となる。これは新規のコロナ患者が不利益を被るわけではなく、あくまで優遇措置が解消され、その他の取り扱いと同じになるということだ。ちなみに、コロナ対応にあたる医療従事者への特別手当についても10月を目途に解消される予定だ。

あわせて読みたい

「新型コロナウイルス」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    さて、立憲民主党は泉健太新代表の下で生まれ変わるかな?

    早川忠孝

    11月30日 15:54

  2. 2

    ダンボール箱2個に現金1億1400万円 匿名の寄付金に感謝

    笹川陽平

    11月30日 09:14

  3. 3

    岸田首相の決心を高く評価します そして日本の今の状況で政府は何をすべきか

    中村ゆきつぐ

    11月30日 09:12

  4. 4

    サイゼリヤで感じた「日本はこれで良いのか感」

    内藤忍

    11月29日 10:46

  5. 5

    東京都内の衆議院議員が5名増える!次回の衆院選は「10増10減」決定へ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    11月30日 09:53

  6. 6

    岸田総理の鎖国は少子化対策を先送りにしてこうなったのと同じ世紀の愚策と断言する

    永江一石

    11月30日 17:33

  7. 7

    立憲民主党の新代表に泉健太氏を選出 決選投票で逢坂誠二氏を破る

    ABEMA TIMES

    11月30日 15:18

  8. 8

    40代のシングルマザーが離婚後に学習塾へ通い始めた理由とは

    工藤まおり

    11月30日 10:06

  9. 9

    オミクロンが放つ経済への影響

    ヒロ

    11月30日 12:40

  10. 10

    料理中にコンロの火が長袖の服に引火 「着衣着火」の危険を消費者庁などが呼びかけ

    BLOGOS しらべる部

    11月30日 14:14

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。