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  • WEDGE Infinity
  • 2021年10月20日 13:17 (配信日時 10月20日 06:00)

自信喪失に喝!『日本“式”経営の逆襲』 - 友森敏雄(月刊「Wedge」副編集長)


『日本”式“経営の逆襲』(日本経済新聞出版)

「このところの日本企業は、あまりにも自虐的です」と話すのは、慶應義塾大学商学部専任講師の岩尾俊兵さんだ。何の話かといえば「経営学」についてだ。もともと、日本人は「舶来品」に弱い傾向があるが、今や日本の経営学は、海外、特に米国などから“遅れている”という認識が一般的になっているそうだ。

「ところが、外国の経営学の教科書には日本人の名前がたくさん出てきます。それどころか、アマゾンのジェフ・ベゾス氏は、日本の経営から多くを学んでいると公言しています」。

世界的に見れば、日本“式”の経営はいまだに高く評価されているにもかかわらず、日本人自らの評価が”自虐的“と思えるほど低い。「こんな状況はおかしい。日本からも(経営学に関する)新しい情報発信をどんどんして行こう」という気持ちで執筆したのが、『日本”式“経営の逆襲』(日本経済新聞出版)だ。

ここでいう「日本式」というは、「日本型」とは違うことを意図している。「日本型経営」といえば、年功序列、終身雇用などが一般的だが、そうではなく、日本式の経営技術のことだ。経営技術とは少し聞き慣れないが、「経営に関する手法そのものと、その手法を生み出すための実践的な思考フレームワーク」ということになる。ベゾス氏などが注目しているのは、まさにこの日本の経営技術についてだ。

「『両利きの経営』のコンセプトは、日本のカイゼンに関する研究が影響している」

「アジャイル開発、リーン・シンキング、リーン・スタートアップ……。日本の経営実践が源流にありつつもメイド・イン・アメリカのコンセプトとして日本に受け入れられているものは多々ある」

など、本書は、日本が遅れているという感覚と、実態が大きく乖離していることを指摘している。しかも、これによって「残念な結果」まで生じているのだ。

「経営者が英字新聞などを読んで『これはよい経営技術だ。うちでも取り入れよう』などと号令をかけます。しかし、形が違うだけでコンセプトとしては実践済みということが少なくありません。結果として、現場が大混乱に陥るという悲劇につながるのです」

ここまで言うと「やっぱり、日本は凄いんじゃないか! と、逆に自信過剰になる人が出てくることが心配」だと、岩尾さんは話す。極端に振れてしまうというのは、いかにも日本人らしいが、ここは客観的に、少し自分の姿を引き離して見つめ直す必要があるということだろう。

さて、ではどうして日本の経営技術が、日本からではなく、アメリカから発信されるのだろうか?

日本企業の『クローズド・カルチャー』

「日本企業では、独自の経営技術をコンセプト化、一般化をしてこなかったことがその原因です。そもそも、日本企業には『クローズド・カルチャー』があります。『秘伝』『門外不出』など、模倣困難性を高めようする意識が高いと言えます」

ただ、「門外不出」というようなことを続けていると弊害も出てくる。例えば、日本企業が海外工場に経営技術を移転する場合、それば一般化、言語化されていなければ、容易に理解することはできない。このあたり、文化と言ってしまえばそれまでだが、異なる言語、民族が集うアメリカでは、一般化することで、より多くの人に理解してもらうという作業が歴史的に行われてきたと言える。

コロナ禍でも実感できたように、遠くにいる人とコミュニケーションをとって仕事をすることが可能となった中では、一般化、言語化がますます重要になってくる。それは間違いないのであるが、むしろその逆、つまり「日本式」では当たり前の組織形態にも注目が集まっていることを本書では紹介している。

「ティール組織」だ。これは「組織がまるで生命体や自己組織系のように、人が集まって目的を達成して分散する。そして、その前提として組織の構成員によるセルフマネジメント(自己決定・自己管理)がおこなわれ、組織の構成員は仕事だけのつきあいではなく人間として全体が組織として受け入れられ、さらに組織はビジョンを進化させる」

要するに、「ジョブ型」と呼ばれるように、自分に与えられた役割を果たすだけではなく、一人ひとりが、組織全体のために動くということだ。これは、日本の「メンバーシップ型」に近い。このところ、「日本でも『ジョブ型』に移行すべきだ」という論調が目立つが、むしろ海外では逆にメンバーシップ型が注目されているのだ。

岩尾さんは、なんと平成元年生まれ。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた絶頂の時代を知らない世代だ。だからこそ、単純に「過去の栄光」や「過去の成功体験」といったことにノスタルジーを持つのではなく、「良い、悪い」を冷静に分析することができているのだろう。

「日本は、日本の経営技術を信じる力で負けているのである」と、岩尾さんは語りかける。本書を読めば、いま一度、日本を信じようという気持ちにさせてくれることは間違いない。

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