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「労働者協同組合」は介護労働の不条理を解決する手段になる - 「賢人論。」第149回(後編)斎藤幸平氏

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2020年、労働者協同組合法が制定。これにより、同じ目的を持つ労働者同士が集まって経営に携わりながら労働できるようになった。「労働者協同組合で事業所を運営することによって、経営者に賃金をピンハネされずに働くことができる」と哲学者の斎藤幸平氏は言う。労働者協同組合がどのように介護職の労働問題が解決するのか。斎藤氏に語っていただいた。

取材・文/みんなの介護

労働者協同組合は、介護職と相性が良い

みんなの介護 介護職の労働問題を解決する方法はありますか?

斎藤 一案ですが、昨年制定された労働者協同組合法は介護の現場の労働環境を変える大きな切り札になるのではないかと思っています。

現状では、介護事業を経営する主体は民間企業が多く、企業は当然ながら、利益をあげることを最優先にしています。ところが、収入である介護報酬は、国が決める金額の枠があるわけですから、利益を出すためには介護の現場で働く人への賃金を抑えるのが手っ取り早い。あるいはぎりぎりまでスタッフの数を減らすわけですね。

介護職の収入を上げるべく国が介護報酬を引き上げても、労働組合が強力でない限り、賃金の額や人員の数は基本的に会社側が決定するので、賃金が上がるとは限りません。これだけ大変で重要な仕事にもかかわらず、実際、低賃金のままですよね。

また経営主体が社会福祉法人であったとしても、賃金を抑えたままにして、理事たちが高額の報酬を得ているケースも多いようです。つまり、現場で、エッセンシャルワークをしている人たちにお金が届く前にピンハネされているような状況が多発している。一方、多額のお金を得ている経営層・管理層は実質的に介護のケアに携わるような仕事をしていないという大きな矛盾があるわけです。

経営側のピンハネによって低賃金や長時間労働になってしまうのであれば、介護職の人たちこそ、労働者協同組合の事業所を運営していってはどうかと思うのです。

やり方としては、5人や10人といった人数で集まって、自分たちで出資し、事業所をつくってしまう。その中でさまざまな仕事を割り当てて、シフトを組みます。この程度のマネジメントであれば、経営陣がいなくても十分自分たちでできます。

こうした労働者協同組合では、自分たちが意思決定することができるので、より楽しく柔軟に働く環境をつくっていくことができるでしょう。ピンハネがなくなる分だけ、給料を上げていくこともできるでしょう。

介護職こそ、実質的な運営をもっと現場に落としこみ、労働者であると同時に経営者でもあるような働き方が合うのではないでしょうか。

国は、そのようにより良い働き方やケアのあり方を模索している事業所にもっとお金を出すべきです。そして、悪い事業所にはどんどん撤退してもらった方が良いと思います。

私の知り合いにも、労働者協同組合の介護事業所を運営している人がいます。そこでは、障がいを持っている人たちも一緒に働いています。労働者協同組合には、多様性を生かしながら、やりがいがある介護を実現する余地があります。

また、資本主義の中で栄えていた仕事がなくなるのであれば、それを機にケア労働やエッセンシャルワークがさらに重視されることにつながれば良いなと思います。

まずは、自分たちの手で何ができるか考えよう

みんなの介護 労働者側は何から始めれば良いでしょうか?

斎藤 労働組合に入って活動するのが一番だと思います。「今の職場のやり方に従うしかないし、我慢して働こう」というメンタリティーを持ち続けていたら、何も変わりません。介護・保育業界では、誰でも入ることのできる介護・保育ユニオンがありますよね。

保育の話になりますが、最近では一斉退職や突然の閉園がよくメディアで話題になります。これは、利益重視の経営側がコロナ対策などで儲からないとなるや否や、保育士や親御さん、園児のことを考えずに閉園してしまうからです。そうした保育園では、日々の運営でも人員削減などによって絶えず現場の保育士に過剰な負担がかかっていて、それは事故や虐待のリスクも高めています。

それに反対の声を上げると、イジメやパワハラを園長たちから受け、辞職に追い込まれることもあります。そうした状況に耐え切れなくなり、一斉退職となる。

同じような構図は介護でもありますが、そもそもこうしたケア労働は利益優先の事業形態とは馴染まないのです。

働き方を少しでも良いものに変えていくためには、自分一人の力ではどうしても弱くなってしまいます。ですので、労働組合に入ってしっかり活動をすることも現状を変える一歩になるでしょう。

職場によって状況が異なるので、具体的な解決策は異なります。交渉によって変わるところもあれば、ストライキが必要なレベルのところもあります。そのため、一概にこのような道へ進んで、こうするべきだということはないわけです。

「自分たちの手で何ができるかを考えなければいけない」という発想の転換がまずは必要です。

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