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共産党はマンガ・アニメの規制にカジを切ったのか

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 アニメやマンガを規制しろと微塵も言っていないことはわかると思う(この質疑の後半でCGなどの話は出てくるが、それは実写をどこまで加工して曖昧にしていくかという線引きの問題)。

 仁比議員は「子供が縛られ、拘束され、殴られ、むち打たれ、又は痛みを暗示するその他の行為を受けているところを写した写真、子供を対象とした何らかの形態の性的行為に動物が関与しているところを写した写真」を例に出しているが、“そういうものは常人からすれば「性欲を刺激しない」けど明らかに「児童ポルノ(虐待された児童が写り込んだ、規制されるべき実写物)」だよね?”と問いただしているのである。

 今回の共産党の上記の引用政策のうち、前半部分、つまり第一段落は、「児童ポルノ(もちろん実写)」という言い方は性欲を刺激するという狭い捉え方になってしまうので、「児童性虐待・性的搾取描写物」に変えろと言っているのである

 性欲を刺激するかどうか=性道徳を乱すかどうかという問題は、権力がわいせつ性を問題するから起きてくる定義の狭さであって、そういうことじゃねーんだよ、子どもの人権が侵されてるかどうかなんだよ! という立場から、この問題を結構重要な問題として共産党は提起しているのである。

 アニメやマンガという「描写物」を規制しろと言っているわけではない。

 …が、そんなことがわかるようには書いてない。「なんだろう?」とか「描写物ってマンガやアニメのことだろ?」とか思っても、不思議ではない。こんな雑な書き方すんじゃねえ! 選挙で躍進したくねーのかよ?

 しかも、そのすぐ下の段落にアニメやマンガの性描写が現実に影響を与えるという話が書いてある。しかも、政策や話題を変えた時の記号であるダッシュ(——)がない。どう考えても上の段落の続きに見える。

 これは誤解するわ

 誤解を誘導していると言ってよい。

後段は法的規制ではなく、社会合意=世論形成で悪影響を減らしたいということ

 そして下の段落の構成は、こうなっている。

 “アニメやマンガは基本的に虚構物だから、実在の直接の被害者はいない。だけど、「女性を性的なモノのように見ていい」みたいな影響を与えるから、率直に言って有害だと思う。だけど法的・行政的に上から表現規制すべきではないから、関係者でよく話し合って合意をつくっていきましょう”というものだ。

 これは共産党の伝統的(?)なやり方で、*1法的・行政的規制ではなく社会運動と世論形成によって、共産党として有害だと考えているものを抑えていきたいという一つの「知恵」である。

「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意をつくっていくために、幅広い関係者と力をあわせて取り組みます。

とはそういう意味だ。

 だから、同時に、このジェンダーの分野での政策と別に、文化の分野の政策のところに

「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します。

とうたっている政策とは両立するわけである。

 もしも。

 もしも共産党が、「社会合意ができたと思うので、ひどいマンガやアニメの法的規制に踏み切ります」もしくは「ひどいマンガやアニメの法的規制へ向け社会合意を目指します」と言い出したら、それは明らかに「方向転換」だと言える。しかし今回はそのような方向には言っていない。

 ただ、共産党としては、例えば子どもと大人がセックスするアニメやマンガは子どもの性的なモノ化を進ませる危険があると考えているのだろう。そう主張する運動家は少なくないし、なんらかの悪影響があるという点ではぼくも認めざるを得ない。しかしその影響の排除・削減を、表現の法的規制によって達成するのではなく、言論活動によって、つまり世論づくりによって達成したいというのが、表現・言論の自由を命がけで守ってきた共産党の編み出した「知恵」である。まあ、「苦肉の策」とみる人もいるだろうが、表現の自由を守りながら、高まるジェンダー平等の流れにもきちんと応えたいという、政党として節度を持ったやり方だと思える。

 運動団体が、ある性的な表現についての是非を言うことを問題視する意見がある。最近も話題になった。

 デリケートな問題だから単純ではない。だけど、いきなり表現の削除を求めず、自分たちとしてどういう悪影響があるかということをきちんと伝えるなら、「アリ」だとぼくは思っている。むしろ健全な言論活動だ。

 そういう社会合意をつくるのを始めよう、と共産党は言っているのだと考える。

それにしても叙述が乱暴すぎる

 それにしても。

 政策の叙述としては乱暴である。乱暴すぎる。

 およそ丁寧さが足りない。

 この政策は国連勧告が法的規制を求めていることは現状としてあげているだけで、「よく読めば」共産党としては、日本における法的規制を求めてはいない。しかし、そこはかとなく法的規制を求めているんではないのかなと思わせてしまう。

 そして、非実在である虚構物のポルノが「現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります」という書きぶりは、あんまりだと思う。

 繰り返すが、ぼくは、ポルノにそういう影響(この記述ほどはひどくはないが、女性や若い人=子どもをすぐ性的な対象としてとらえたりモノ化したりしがちであること)があることは否定しない。人ごとではなく、ぼく自身の中に侵入している観念である。だからこの政策を起草した人はそう書いたのだろう。悪い影響をなんとかしたいから、法規制に頼らないで社会合意で…と思ったに違いない。そこはわかる。

 しかし、創作物の評価を共産党が一律にこうとらえているように読めてしまう。もし本当に創作物全体をこう評価しているのだとすれば、表現に対するあまりにも貧しい捉え方だ。少なくとも表現というものを一面的に捉えているという印象は拭えない。

 子どもが性の対象として登場するポルノは全て「子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります」というのなら、なぜ「しんぶん赤旗」は『分校の人たち』で子どもたちのセックスを描きまくっていた山本直樹という素晴らしいエロ作家を一面にドーンと載せたのだろう。説明してほしい。

 この政策の書きぶりには想像や空想が人間を解放する側面、想像や空想が文化に果たす役割については一切記述はない。そこに思いを馳せた形跡もない。

 空想で人を殺したり、想像で暴力や戦争を起こしたりする物語を紡いだり、それを読んだり、そういうグラフィックを描き・見ることが、誰かを救うかもしれないことを考えてほしい。また、ヘテロセクシュアルのエロマンガやボーイズラブのようなマンガが、文化の壮大な揺籃の役割を果たしていることをこの政策の書き手は知らないのか。

 本気で社会合意をつくっていこうとするなら、なぜ創作物の描き手の側の気持ちを聞かないのか・書かないのか。それをまじめに文化として捉え、リスペクトした痕跡がどこにもないのだ。「ポルノ表現は子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つける悪いもの」という一面性からだけ問題に迫り、最初から反対の意見など聞かず、本当の意味での社会合意をつくる気などさらさらないんだな、と思われても仕方がない。

 いや、そこまで言わなくてもいい。せめて。せめて、表現の価値には踏み込まずに、しかし現実の影響については心配しているという書き方ができないのか。

 デリケートな問題であるという自覚もなく、ぶっきらぼうな叙述。炎上するわ、そら。油をかけて自分から火に飛び込んでいくスタイル。

 表現の自由を傷つけるかもしれないという大きな問題だという自覚をもって、もっときちんと分量をとった政策提言としてまとめるべきだし、マンガやアニメの表現の自由という問題にも同じように分量を割くべきだろうと思う。

*1:例えば2003年前後に少年事件がマスコミをにぎわせたときの共産党の提言を見るといい。https://www.jcp.or.jp/web_policy/2003/09/post-202.html  ここでは「メディアやゲームの映像などにおける暴力や性のむきだしの表現が、子どもにたいして野放しにされていることにも、多くの国民が心を痛めているが、この分野の自己規律も、わが国は国際的にきわめておくれている」という認識を示しつつ(まあ、この認識の是非はあるんですけどね)、その結論は「この分野での日本社会の異常な立ち遅れを克服し、子どもの健全な成長を保障する社会の自己規律を確立することは、急務である」「社会的道義の問題は、モラルの問題という性格からいって、上からの管理、規制、統制、押しつけを強めるという立場では、解決できないどころか、有害な作用をおよぼすだけである」と述べている。

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