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【127カ月目の浪江町はいま】具体策なき「拠点外除染」 全域除染求める住民、「帰還意向」優先したい国~帰還困難区域の説明会始まるも「これから検討」

2011年3月の原発事故で福島県双葉郡浪江町内の「帰還困難区域」について、政府方針に関する住民説明会が始まった。15日には福島市で、16日には仙台市で説明会が開かれたが、はっきりしているのは、ごくごく一部の「特定復興再生拠点区域」内を除染し再来年の避難指示解除を目指すということだけ。大多数の「拠点外」については帰還意向のある避難者の「生活環境」を除染するというだけで、具体的な中身は「これからしっかり検討」。出席した内閣府の官僚は頭を下げるばかりで、町民からの「全域を除染するべき」などの意見を聴くだけにとどまった。


【「これから具体的に検討」】

言葉ばかりはていねいだが中身は空っぽ。そして「お詫び」の繰り返し。ひと言で言えばそんな説明会だった。
 大堀行政区の男性は、見かねたようにマイクを握った。

 「お詫びの言葉は十分に聴いた。お詫びの言葉をいくら言われても震災前の生活は戻らない。われわれが住んでいた場所がどうなっていくのか、どういう扱いをされるのか。もっと現実的に具体的なことを示して欲しい。一方的な説明で『希望する人には住宅周辺を除染しますよ』というような、そこで生活していた人の感情など一切無しにして、ただ政府方針を示されているだけ。今までそこで生活していたことは何だったんだと思ってしまう」

 しかし、これに対してもやはり、官僚は頭を下げることしかできなかった。

 「改めまして状況は申し訳ないと思っている。地元に帰りたいという想いにどのように応えていくのかという考えのもと、方針を決定させていただいた。ただ、まさにご指摘いただいたように今回は『方針』。具体的にどのように進めていくか、(帰還の)ご意向をどのように確認するか、どのように除染を進めていくか。これからしっかりと検討していかなければいけない。しっかり検討を深めていきたい」(内閣府原子力被災者生活支援チーム・佐藤猛行支援調整官)

 津島小学校近くの山林を父親から引き継いだという男性は、太陽光発電の業者に土地を賃貸する意向を持っている。「土地をそのままにしておくのも何なので有効活用したい。どのような認識でいれば良いのか」と尋ねたが、ここでも内閣府官僚の答えは「これから検討」だった。

 「個別に相談ができれば…。地元のご意向もふまえて、どのようにさせていただけるかご相談したい」

 「現時点で土地活用した事例が1つもない。活用方法などは地元の皆さんとこれから検討するというのが実情。具体的な説明はできない。申し訳ございません。詳細についてはわれわれのなかでも検討中。はっきり答えられずに申し訳ございません」

 男性は「それじゃ話にならない。もう良いです」と席を立った。説明会を象徴するような場面だった。





説明会に出席した官僚たちは頭を下げるばかり。言葉遣いもていねいではあるが、8月末に方針が決まっただけで具体的な説明はできない。参加した町民の1人は「ああいうのを慇懃無礼と言うんだ」と会場を後にした

【「環境整えるのが先」】

 福島会場、仙台会場に共通していたのは「なぜ帰還意向の無い場所は除染しないのか」という疑問だった。  室原地区の男性は「住民が帰らないような経済効果のない所は除染しないということですか?国の施策としてやった原子力事業。東電は半国営企業。帰っても帰らなくても除染するのが当たり前。一企業に追い出されたんですよ。それをもっと認識して欲しい。帰る帰らないじゃない。考え方を改めて欲しい」と訴えた。

 加倉地区の男性も「帰りたくても帰れない人がたくさんいる。帰還意向の無い場所は除染対象から外れるという考え方がそもそもおかしい。あまりにも酷い。帰還困難区域の全域を除染して欲しい。自宅周辺20メートル範囲を除染してもらったって生活できるわけではない」と怒りをぶつけた。だがしかし、これらに対しても、佐藤支援調整官は頭を下げるばかりだった。

 「この場で全域を除染しますとお約束できない。申し訳ない。吉田町長をはじめ、他の町村からも『帰還困難区域全域を除染するべきだ』というご指摘はいただいており、引き続きの課題と認識している。しっかり検討していきたい。ご指摘に100%答えられる方針になっておらず、このタイミングですべてをお答えできないのは大変申し訳なく思っている」

 10年という歳月は、避難元の自宅を激しく傷めた。床も畳も抜けてしまった。それに、除染によって本当に被曝リスクは無くなるのか。様々な現実と想いが交錯し、そうそう答えは出ない。酒井地区の60代女性は「生きているうちに本当に帰れるのか。望郷の想いは募るばかりだが、自宅は見るも無残な状況。朽ちていくのを目にするのはつらいので、早急に解体して欲しい」と心情を吐露した。

 「順番が逆だ」という声もあがった。

 「一昨日、戻るか否かのアンケート用紙が届いた。まず国と東電の責任で環境を整えてから戻るか否かを尋ねて欲しい」(下津島の女性)

 これに対しても明快な答えはなかった。

 「厳粛に受け止めたい。どうするかは町と相談しながら進めたい」(佐藤支援調整官)





参加した浪江町民からは「帰還困難区域全域を除染するべき」、「意向調査の前に環境を整えろ」などの意見が相次いだが国からの明快な説明は無し。吉田数博町長も「今後の課題について今後も国と協議を重ねてまいります」と述べるにとどまった

【「本当に子や孫と帰れる?」】

 説明会に出席した復興庁福島復興局の重村健二次長(原子力災害現地対策本部・住民支援班長)は、冒頭のあいさつで「住民の皆様にしっかりとご説明をしたうえで、皆様の帰還に対するご意向、そういうものをしっかりと聴き取って、それを確実に反映させていくようなものにしていきたいと思っている。本日は忌憚のないご意見とかお気持ちをお聞かせいただければ…」と述べた。しかし、官僚の説明も町民の想いもどちらも一方通行で、最後まで交わることは無かった。

 津島地区の女性が怒りを込めて疑問をぶつけた。

 「被曝を避けるために避難しているのに、なぜ20倍もの空間線量基準(年1ミリシーベルトではなく年20ミリシーベルト)で帰らなければいけないのか。将来、子どもや孫たちを住まわせることができますか?私たちは本当に自信を持って家族と一緒に帰ることができますか?皆さんが同じ立場だったら奥様やお子さんを津島に連れて行かれますか?それに、店もなければ何にもない。私たちの生活はどうするんですか?バスを出すからイオンまで買い物に行きなさいって言うんですか?避難先の人々は『除染してもらったのになぜ帰らないのか』と思いますよ。私たちはそう問われるんです。どう対応すれば良いんですか?国と東電は私たちを10年間放置した。もっと歩み寄って本当に住まわせて良いのか考えて欲しい。国も県も町も本気になって考えていただきたい」

 しかし、国側は納得できる言葉を持っていなかった

 「10年間放置されたという話、家族の話、胸が大変痛くなった。科学的にきちんとした水準、年20ミリシーベルトについてきちんと確認したうえで避難指示を解除したいと思っている。一方で、中長期的には年1ミリシーベルトを目指すという目標を国としても掲げさせていただいている。避難指示解除をして終わりということではなく、リスクコミュニケーションも含めてご意見をちょうだいしながら、どのようなことができるのかしっかり考えていきたい。いずれにしても、今回の方針についても必要な除染はきちんとやるという方針を示している。戻りたいと考えている皆さんが安心出来る環境をつくっていきたい」(佐藤支援調整官)

 説明会は今月22日にいわき市で開かれるほか、11月にも二本松市、郡山市、都内で開かれる予定。

(了)

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