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「ハッシュタグ」事例が示した商標的使用論の限界?

先月末に出された判決が、急にあちこちで報道されて盛り上がったのは今週の話。

「自社ブランド名のハッシュタグを無断で使われ商標権を侵害されたとして、京都市の企業がフリマアプリ「メルカリ」の出品者に表示の差し止めを求めた訴訟で、大阪地裁(杉浦正樹裁判長)が商標権侵害を認めたことが分かった。」(ヤフーニュースで2021年10月13日21時配信)
「#他社ブランド」タグ悪用は商標権侵害 メルカリめぐり異例判決...対策は?同社に聞いた(J-CASTニュース) - Yahoo!ニュース

このニュースに触れた時は、自分もまぁそんなもんだろう、と思って流してしまっていたのだが、実際に公表された判決と添付資料を読んでみると、シンプルな事案ながら、商標の機能って何だっけ?ということを改めて考えさせられるもののようにも思えたので、以下、取り上げておくことにしたい。

大阪地判令和3年9月27日(令和2年(ワ)8061号)*1

原告:株式会社Wisteria Kyoto
被告:pudこと P1

報道されているとおり、この事案は、

「被告がオンラインフリーマーケットサービス「メルカリ」上に開設したサイトに表示した別紙被告標章目録記載1又は2の標章(以下,同目録記載の番号順に「被告標章1」などという。)が本件商標と同一ないし類似し,また,上記サイトにおいて被告が販売する巾着型バッグ(以下「被告商品」という。)は本件商標権の指定商品と同一であるとして,本件商標権に基づき,上記サイトにおける被告標章1又は2の表示行為の差止め(商標法(以下「法」という。)36条1項)を求める事案である。」(2頁)

という極めてシンプルなものである。

自分はメルカリのサービス自体を使ったことはないが、TwitterでもInstagramでも、キーワードにハッシュタグを付けてそのキーワードに関連のある人を自分のコンテンツに誘導する、ということは良く行われているし、メルカリでもそのような出品物の検索用のツールとして使われていたようである。

そして本件に関して言えば、原告が保有していた商標は「シャルマントサック」という標準文字(商標登録6232133号)だから、同じ文字列に「ハッシュタグ(♯)」を付けただけの被告標章との形式的な類否だけみれば、外観、称呼等、緻密な検討を経るまでもなく同一又は類似、と評価されることは明らかな状況だった。

被告標章:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/606/090606_option1.pdf

ただ、ここで問題になるのは実際の使用態様。

問題となった表示は裁判所のウェブサイトに掲載されている以下の資料の6~7頁にあるのだが、
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/606/090606_option2.pdf

【ivory × black dot】巾着ショルダー

というシンプルな商品タイトルに続けて、商品の説明の冒頭で「ハンドメイド品です」という記述があり、さらに、わざわざ

♯シャルマントサック風

と「風」付きのハッシュタグまで付けた上で、一連のハッシュタグの末尾には

「好きの方にも…」

という、分かっている人が見たらニヤリとするフレーズまで付けられている。

もちろん、これが上品なやり方かどうか、といえばそうじゃないよね、というのが自分の感覚だし、本物の「シャルマントサック」の中古品を探している人がこのハッシュタグにつられてこの出品物のページに来てしまったら悪態の一つや二つは付きたくなるだろうけど、だからといってこのようなタイプの使い方を商標権侵害の文脈で問題視する、という発想は自分にはなかった。

だが、裁判所は以下のような理屈で原告の請求を認めている。

イ 商標的使用について
「被告は,被告標章1につき,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない,すなわち商標的使用がされていない旨を主張する。しかし,前記のとおり,オンラインフリーマーケットサービスであるメルカリにおける具体的な取引状況をも考慮すると,記号部分「#」は,商品等に係る情報の検索の便に供する目的で,当該記号に引き続く文字列等に関する情報の所在場所であることを示す記号として理解される。このため,被告サイトにおける被告標章1の表示行為は,メルカリ利用者がメルカリに出品される商品等の中から「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供することにより,被告サイトへ当該利用者を誘導し,当該サイトに掲載された商品等の販売を促進する目的で行われるものといえる。このことは,メルカリにおけるハッシュタグの利用につき,「より広範囲なメルカリユーザーへ検索ヒットさせることができる」,「ハッシュタグ機能をメルカリ上で使うと使わないでは,商品閲覧数や売り上げに大きく差が出ます」などとされていること(いずれも甲7)からもうかがわれる。また,被告サイトにおける被告標章1の表示は,メルカリ利用者が検索等を通じて被告サイトの閲覧に至った段階で,当該利用者に認識されるものである。そうすると,当該利用者にとって,被告標章1の表示は,それが表示される被告サイト中に「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に関する情報が所在することを認識することとなる。これには,「被告サイトに掲載されている商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名のものである」との認識も当然に含まれ得る。」

「他方,被告サイトにおいては,掲載商品がハンドメイド品であることが示されている。また,被告標章1が同じくハッシュタグによりタグ付けされた「ドットバッグ」等の文字列と並列的に上下に並べられ,かつ,一連のハッシュタグ付き表示の末尾に「好きの方にも…」などと付されて表示されている。これらの表示は,掲載商品が被告自ら製造するものであること,「シャルマントサック」,「ドットバッグ」等のタグ付けされた文字列により示される商品そのものではなくとも,これに関心を持つ利用者に推奨される商品であることを示すものとも理解し得る。しかし,これらの表示は,それ自体として被告標章1の表示により生じ得る「被告サイトに掲載されている商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名である」との認識を失わせるに足りるものではなく,これと両立し得る。」

これらの事情を踏まえると,被告サイトにおける被告標章1の表示は,需要者にとって,出所識別標識及び自他商品識別標識としての機能を果たしているものと見られる。すなわち,被告標章1は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様による使用すなわち商標的使用がされているものと認められる。これに反する被告の主張は採用できない。」(9~10頁、強調筆者)

メタタグに関するこれまでの議論(ディスクリプションメタタグとキーワードメタタグに分けて論じる議論等)を踏まえれば、今回のようなハッシュタグは、メタタグ以上に明確に商品販売画面上で需要者に視認されるのだから、当然、商標権侵害になりうるだろう、という発想も裁判所の判断の背後にはあったのかもしれないが、仮に商品画面まで誘導されたとしても、購入する需要者は100人中100人、この商品がシャルマントサックだと思って買うことはない、というような場面でも「出所表示機能を果たしている」として侵害を成立させるのが妥当なのかどうか・・・。

ここで、原告側が商標の「広告宣伝機能」等を前面に出していればまた別の議論はできたのだろうが、判決文による限りシンプルな出所表示機能の問題、としてしか争われていないようにも見えるだけに、なおさら考えてしまったところはある*2

「商標の機能とか商標的使用とか、そんなややこしい話以前に、著名ブランドの名称を商品説明の中に記載して自分の商品を売るのはマナー違反だ!」という発想はあっても良いと思うし、堅実なプラットフォーマーであれば、今回の判決への反応も見ながら、いずれ運営ルールをそういう方向に持っていくことになるのだろう*3

ただ、そういった流れが行き過ぎると、これまで(広告)表現の過剰な萎縮に歯止めをかけていた「商標的使用」論の意義を失わせることにもなりかねないわけで、個人的には今回の判決が高裁でさらに吟味されるのであればもちろんのこと、仮にここで確定することになったとしても、今回の結果だけを一人歩きさせるのはちょっと危険だな、と思うところはある。

これから出てくるであろう、本判決への専門家の様々な評価にも注目したいと思っている。

*1:第26民事部・杉浦正樹裁判長、https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/606/090606_hanrei.pdf

*2:さらに言えば、ここで問題になっているのが「メルカリ」というフリマプラットフォーム上での表示であって、その市場において商標権者たる原告と直接競合することはない、という事情を考慮に入れる必要はないのか?という疑問もわいてくる。

*3:メルカリのサイトに行くと、現時点でも無関係と思われる商品の説明文の片隅に「シャルマントサック」と入れている商品をチラホラ見かけるが、そういったものもいずれは淘汰されていくのだろう。

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