記事

首相就任初の総選挙は鬼門か

1/2
記者会見に臨む岸田文雄首相(2021年10月14日) 出典:Photo by Eugene Hoshiko – Pool/Getty Images

樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・歴代総理大臣最初の解散・総選挙は、ホロ苦い結果。

・過去には、国民的な〝ブーム〟で大勝のケースも。

・岸田文雄首相は、自らの信を問う意向だが、前政権の不人気を背負って敗北する恐れもある。

総選挙は10月19日に公示される。

岸田首相が衆院を解散したのは就任後10日、任期満了わずか一週間前だった。過去にない早いタイミング、任期切れ目前の解散も、聞いたことがない。

勝利に向けた思惑あってのことだろう。総理大臣にとって、就任直後は、国民からの人気がもっとも高い時だ。

しかし、過去の例をみると、首相にとって初陣の選挙が、その勝利に帰したかといえば、必ずしも、そうとはいえない。

首相は「岸田にお任せいただけるか、ご判断いただく」と自信を見せるが、目論見がはずれれば苦しい状況に追い込まれるだろう。

■大平、中曽根はあわや退陣の危機に

就任からやや時間が経過したものの、初の総選挙で、勝利ところか、手ひどい敗北を被ったケースが何度かある。

昭和にさかのぼる。54年と58年。大平正芳、中曽根康弘の両内閣による解散だ。

▲写真 大平正芳首相とカーター米大統領(当時) 1980年05月01日 出典:Bettmann/GettyImages

大平のケースをとってみると、昭和53年の就任から10カ月、頃合いはよし、政権基盤の強化めざし衆院を解散した。

ところが、現在の消費税の原型で大平の持論、「一般消費税」導入の公約に有権者が強く反発した。

形勢不利とみて選挙戦途中で撤回したものの、時すでに遅く、投票日が雨にたたられて低投票率になる不運も重なり、自民党は248議席と過半数を割り込む大敗を喫した。

反主流の福田派などは退陣を要求、大平はこれを拒否して党内を2分する〝40日抗争〟に発展した。激しい権力闘争で手傷を負いながらも、なんとか政権に踏みとどまったものの、対立はくすぶり続け、翌55年5月に内閣不信任案が可決されてしまう。

大平は衆院解散を決断、同時期に予定されていた参院との初の同日選に打ってでたものの選挙戦のさ中に過労から急死する。

選挙は自民党が衆参いずれも大勝という劇的な展開をたどった。

昭和57年11月に発足した中曽根内閣は、最初の選挙、58年6月の参院選を68議席で過半数を維持で無難にこなし、同年12月、衆院の解散に踏み切った。

ロッキード事件の一審判決で田中角栄元首相らが実刑判決を受け、政権運営で元首相の支持、協力に頼らざるを得なかった中曽根自身にも批判が高まったため、差し迫った事態を打開するための解散だった。

しかし、自民は30議席以上失って過半数を割り込み、現職閣僚が3人も討ち死にするという惨憺たる結果に終わった。

新自由クラブ(当時)との連立で、数合わせは何とかしたものの、中曽根は「田中氏の影響力を排除する」という屈辱的な声明を出すことを余儀なくされた。

ちなみに、この選挙で田中元首相(新潟3区)は22万票を超えるという空前の大量得票だった。

中曽根は61年6月になって、連立解消をめざし、いったんは断念を装って世間の目をくらましながら衆院解散に打って出た。

大平に続く2回目の衆参両院同日選挙で、自民は衆院300議席と大勝、総裁任期延長によって、中曽根は5年間という長期政権を築いた。

 解散見送りと信じ込ませる奇策を弄したことから「死んだふり解散」とネーミングされた。

■角さんブームも功を奏さず

中曽根に一時は瀕死の打撃を与えたその田中角栄。

学歴がないにもかかわらず総理大臣にのぼりつめたことから、〝今太閤〟などともてはやされて大衆人気を誇った。

政権発足5か月の昭和47年12月、「日本列島改造論」という大風呂敷の公約、就任直後に日中国交正常化を実現した早業の実績を引っ提げ、満を持して解散、総選挙に臨んだ。

▲写真 田中角栄元首相と毛沢東中国主席(当時) 1972年9月27日 出典:Bettman/GettyImages

しかし票は思うように伸びず、自民党は解散前から26減の271議席に後退という予想外の結果に終わった。

政権発足時に高い人気を誇っても、上滑りになりやすく、支持率に頼って安易に解散に進むことのリスクを、この選挙は示した。

田中首相は2年後に〝金脈スキャンダル〟によって辞任、ロッキード事件で逮捕、起訴された。先述の実刑判決を受ける身となり、順風だった前半生とは逆の命運をたどっていく。

あわせて読みたい

「岸田文雄」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    サイゼリヤで感じた「日本はこれで良いのか感」

    内藤忍

    11月29日 10:46

  2. 2

    鬼束ちひろ容疑者をいじるな 「メンヘラ」と安易に言ってはいけない

    常見陽平

    11月29日 09:24

  3. 3

    ようやく辞めた木下元議員 警視庁は選挙期間中の無免許運転をなぜ公表しなかったのか

    毒蝮三太夫

    11月29日 09:02

  4. 4

    「コスパ最悪のメシ食って上司とクソつまらん会話して何が楽しいんだよ」飲み会復活にウンザリする声

    キャリコネニュース

    11月28日 15:00

  5. 5

    不思議なコロナ感染状況下で出現したオミクロン

    ヒロ

    11月28日 13:27

  6. 6

    没後7年 “婦唱夫随”の夫人が明かした「菅原文太の真実」 - 松田美智子

    新潮社フォーサイト

    11月28日 11:24

  7. 7

    深刻化する中国による人権侵害疑惑。融和的な外務省に政治はどう向き合うか

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    11月29日 09:49

  8. 8

    立憲民主党が若者の支持を得るには? ひろゆき氏、代表候補4人に「メディア対策」力説

    ABEMA TIMES

    11月28日 14:51

  9. 9

    米国の北京五輪"外交ボイコット"で板挟みの日本 思い出される天安門事件直後の悪夢

    WEDGE Infinity

    11月29日 10:04

  10. 10

    元横綱・白鵬のテレビ解説が大好評 相撲協会は「白鵬の乱」に戦々恐々

    NEWSポストセブン

    11月29日 14:46

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。