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デフレ脱却のための望ましい日銀人事とは 渡辺喜美(みんなの党代表)×飯田泰之

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2013年2月15日、日本銀行・白川方明総裁が緊急会見を行い、3月19日付で日銀総裁を辞任することを発表した。日銀人事は安倍内閣が「アベノミクス」を実行する要となっている。次期日銀総裁・副総裁はどのような人が就くべきなのか。いま危惧されることとはなにか。みんなの党代表・渡辺喜美議員と経済学者・飯田泰之の対談をお送りする。(構成 /金子昂)


■公正取引委員会のポストに就くべきではない人物像

飯田 今日伺ったのはなんといっても日本銀行に関する国会同意人事についてです。渡辺さん、さらにはみんなの党のお考えをお聞かせいただきたく思っています。

その前に、人事の前哨戦となる公正取引委員長人事の話から始めましょう。みんなの党は政府が提出した公正取引委員会の委員長の人事案に反対されていますが、どのような理由で反対されているのかをお聞かせください。

渡辺 われわれは政府が提案した人事案、つまり財務省次官OBである杉本和行さんが委員長になることに反対しているわけです。しかし、これは杉本さん個人の能力が劣っていると考えているわけでもない。もちろん事前報道ルールが守られなかったという理由でもない。杉本さんが背負っている看板が問題なんです。

公正取引委員会は競争を促進する総元締めであり、消費者の利益を守るために、独立禁止法や反ダンピング法関税、再販制度などを取り扱っている。もし財務省次官OBが公正取引委員会の委員長になった場合、再販制度を守りたい業界は、財務省から無言の圧力を受けることになりますね。これでは官が民をステルス的に支配するかたちになりかねません。

飯田 たしかにメディアは、再販制度といい新聞の軽減税率適用といい、財務省と上手にコンビネーションを組みながら実利をとっている印象が強いですね。

渡辺 そういうことです。

無言の圧力を受けたメディアは、再販制度を守るために財務省の意向にしたがう可能性があります。たとえば財務省が増税したいと考えていたら、増税キャンペーンを買ってでることも考えられる。

新聞業界の場合、「押し紙」と呼ばれる慣行があり、「押し紙」の分も消費税を払っていると聞きます。それが事実ならば、再販制度を守ってもらい、さらに軽減税率を導入してもらえたら新聞業界はとても助かるでしょう。だから率先して増税キャンペーンに協力しかねない。このような馴れ合い関係が「疑惑」としてあるわけです。この「疑惑」を深まらせるような人事は望ましくない。

公正取引委員会のポストは、一時期検察に明け渡していたものの、多くの場合は歴代財務省次官級OBが就いていました。竹島一彦さんのように再販制度に手をつけようとした委員長もいましたが、失敗に終わってしまった。やはりタブーに切り込む覚悟と戦略をもった人間が公正取引委員会のポストに就くべきなんです。身分制天下り人事をしてはいけません。



■日本銀行総裁・副総裁は誰が望ましいか

飯田 そして現在、今後の日本経済を占う重要な局面である日本銀行総裁人事を控えています。

みんなの党は日銀総裁人事の条件として、経済学の博士号をもち、国際感覚があり、マネジメント能力をもつ人を提示していらっしゃいます。率直にみんなの党あるいは渡辺先生のお考えをお聞かせください。

渡辺 日銀人事には、財務省OB、日銀プロパー、学識経験者が一名ずつ就く慣例があります。しかし今回の人事でこの棲み分けにしたがってはいけません。白川総裁の発言にあるような「金融政策は為替に関係ない」「日銀はお金の量をコントロールできない」といった誤った日銀の発想を根本から変えるためには、日銀官僚やそれに連なるエコノミストを説得できる学識と覚悟を持っている方が、日銀総裁にならなくてはいけない。旧来型の人事では、いままでのパラダイムからの転換は不可能です。

また語学力と国際感覚のもつ方でなければ、参加者の7割がPh.D.を取得しているG20ではっきりと意見を打ち出すことができないでしょう。他国から「近隣国窮乏化政策だ!」と批判を受けたときに、「そんなことはない。いままでの日本銀行は自国窮乏化政策をとっていたんだ」と反撃できなくてはいけません。

さらにマネジメント能力、いってみればクライシスマネジメント能力のある方が望ましい。マーケットのこともわからずに、日銀の旧来型パラダイムに固執する人はもう願い下げです。リーマンショックのような危機に陥ったとき、マーケットとの対話能力をもち、素早い対応のとれる人が総裁になって欲しい。

以上の観点からわたしは安倍総理に、高橋洋一さん、竹中平蔵さん、中原伸之さん、浜田宏一さん、そして岩田規久男さんの5名を推薦しています。

飯田 もし今回、従来型の何ら変わらないような日銀人事が行われた場合、せっかく好転したマーケットの反応が反転してしまうでしょう。だからこそ「今度こそはまったく違う」という、良い意味で期待を裏切る人事が必要になるわけですね。

渡辺 その通りです。いまは期待感だけで円安・株高になっている。日本銀行の営業毎旬報告をみればわかるようにベースマネーはほとんど増えていません。期待に反する人事が行われたらメッキがはがれることは容易に想像つくでしょう。

わたしは安倍総理に、デフレ脱却のためには筋金入りのリフレ派の論客を3人いれるべきです、と申し上げています。現在の日銀政策委員会9名のうち2名がリフレ派らしいことをいっている。つまりあと3名がリフレ派になれば、過半数を固められます。だから余計なバランスなんて気にしないほうがいい。



■日銀をうまく運営でき、総理との信頼関係がある人材とは

飯田 なるほど、たしかに日銀総裁・副総裁3人のうち、かりにリフレ派2人が役職についたとしても過半数にならない可能性があるというわけですね。

しかしいわゆるリフレ派が総裁・副総裁となっても、学者のマネジメント能力は決して高くありませんから、日本銀行の細かなオペレーションについては、日銀官僚とある程度仲良くならないとうまく運営できないのではないかと不安視している方もいます。

渡辺 たとえば先ほどあげた中原さんであれば、政策委員会審議員を5年やっているので、日銀の内部事情はよくわかっているはずです。マーケットへの造詣も深い。日銀とマーケットの両方をわかっている方もいらっしゃるわけです。

今回非常に重要なことは、いままでの政権と違って総理大臣自らがトップダウンで金融政策を変えましょうといっていることです。デフレ脱却のためには、総理と日銀総裁・副総裁の信頼関係が築かれなければいけない。信頼関係というものは一朝一夕ではできあがりませんよね。しかし先ほどわたしが申し上げた5人は、いずれも安倍総理がご存知の方々ばかりです。

アベノミクスのもっとも肝である金融政策を実行するために、そして経済財政諮問会議のメンバーでもある日銀総裁が、成長戦略について忌憚のない意見を総理に開陳するためにも、すでに信頼関係のある5人がふさわしいと思います。



■自民党は先祖返りしたのか

飯田 いまの政権をみていると、安倍総理と菅官房長官などの最側近組は金融政策の重要性を理解しているように思えるのですが、麻生副総理兼財務大臣と甘利大臣の話を聞いているとどうも不安になってくる。彼らが発言すると為替と株がマイナス方面に動きますからね。

自民党はアベノミクスの掲げる「三本の矢」――といってもぼくは「一本の矢」だと思っているのですが、その一本の矢ですらうやむやにされてしまうのではないか。結局、公共事業をばかすかやって、経産省はターゲッティングポリシーをやるだけのことになる気がしてならないんです。

渡辺 まったくその通りですね。

補正予算を見るかぎり、財政政策やターゲッティングポリシーに見られる成長戦略は、小泉政権以前の自民党に先祖返りしている。あんなに公共事業を詰めても消化できないでしょうよ。消化しきれずに予算が積みあがると思いますよ。天下り法人に滞留される可能性がきわめて大きい。

また官民ファンドにみられる、産業投資特別会計のような悲劇をわれわれは知っているわけですよね。あのときは、NTT株売却代金を原資として2800億円ほど投資し、30億円くらいしか戻ってこなかった。小泉政権で財政投融資制度から「投資」をとって財政融資に改めたのに、ふたたび投資が復活してしまっている。

飯田 高橋洋一さんの仕事が元に戻ってしまっている。

渡辺 ええ、電力、エネルギー、医療、介護、農業、林業といった分野で既得権益を解体するような、戦いの姿勢を打ち出した改革をすすめていくことが大事です。残念ながらその姿勢がいまはまったく見えない。安倍総理が覚悟をお持ちでも、自民党をみていると先祖返りしている印象が強いですね。



■みんなの党の考えるデフレ脱却に必要なこと

飯田 どうやら大変難しい局面を迎えている安倍内閣ですが、今後、経済政策を成功させデフレから脱却するために、なにが必要なのか、改めてみんなの党のお考えをお聞かせください。

渡辺 今日お話したように、劇的なパラダイム転換が必要です。そのためには総裁人事と日銀法改正をワンセットで行うべきです。

みんなの党の日銀法改正案は、政府が日銀に対して目標を指示し、日銀は目標達成のための手段を選べるようにすべきだというものです。そして目標が達成できなければ、解任権が発動されるきわめて明快な責任体系となっています。

またFRBのようなエバンス・ルールを日本も導入すべきでしょうね。金融政策を実行して、為替を望ましい水準で安定させなくてはいけない。「為替は財務省の権限だ」と思い込んでいる人を日銀総裁・副総裁に絶対してはいけませんよ。

飯田 この5年間を日本経済が復活するラストチャンスだとぼくは思っています。みんなの党のご活躍をお祈りしております。今日はお忙しいところありがとうございました。

(2013.2.12. 衆議院第2議員会館にて)
渡辺喜美(わたなべ・よしみ)
1952年栃木生まれ。衆議院議員(当選5回)。みんなの党代表。早稲田大学政経学部、中央大学法学部卒。96年初当選。09年に自民党から離党し、脱官僚・地域主権、生活重視の国民運動体「みんなの党」を立ち上げる。主著に『いつまで官僚の『日本破壊』を許すのか』(徳間書店)、『脱・官僚政権樹立宣言』(講談社)、『金融商品取引法』(文春新書)、『反資産デフレの政治経済学』(東洋経済新報社)ほか多数。
飯田泰之(いいだ・やすゆき)
1975年東京生まれ。エコノミスト、駒澤大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

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