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【読書感想】妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ

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妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ (集英社新書)
作者:橋迫 瑞穂
集英社
Amazon


Kindle版もあります。

妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ (集英社新書)
作者:橋迫瑞穂
集英社
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フェミニズムの「落とし物」がここにある――。

今世紀に入り、日本社会で大きく膨れ上がった「スピリチュアル市場」。

特に近年は「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」に代表されるような妊娠・出産をめぐるコンテンツによって、女性とスピリチュアリティとの関係性はより強固なものとなっていった。

しかし、こうしたスピリチュアリティは容易に保守的な家族観と結びつき、ナショナリズムとも親和性が高い。

本書は、この社会において「母」たる女性が抱く不安とスピリチュアリティとの危うい関係について、その構造を解明する。

 「お母さんをえらんで、生まれてきたんだよ!」

 書店でオビにこんなことが書かれている本が平積みにされているのを見かけるたびに、僕は「いやいやいや、子どもができて生まれるのは受精の結果で、子どもが親を選んだわけではなく、両親の遺伝子の組み合わせだから」と内心でツッコミを入れずにはいられないのです。

 ああいうのを、世の人々は本気で信じているのだろうか?

 育児っていうのはいろいろと大変なので、そんなふうに思わないとやってられない、というのなら、わからくもないのですが。

 現代日本社会に生きる女性たちにとって、妊娠・出産は依然として重要な出来事である。しかも、それは多くの女性たちにとって、単に医療的な事例であるだけでなく特別な意味や価値を伴う体験として受け取られている。妊娠・出産が、霊的、精神的、超越的な意味を含む主教的な事象を指すスピリチュアリティと接続しているのは、そうした理由に基づいている。

 では、妊娠・出産のスピリチュアリティがどのような内容を現代社会に示しているのだろうか。それが社会に広まった背景として、何が考えられるのだろうか。こうした問題について考えてみるのが、本書の主題である。

 著者は、さまざまな「妊娠・出産関連のスピリチュアリティ」を紹介しているのですが、そのなかに「子宮委員長はる」という人が出てきます。

 僕はこの本で、「はる」さんの名前をはじめて知ったのですが、人気ブロガーで、芸能人の支持者も多く、著書はベストセラーになっているのだとか。

 一躍有名になった、2015年に出版された『子宮委員長はるの子宮委員会』(KADOKAWA)の冒頭ではるは、「本当の自分の声」とは「子宮の声」だといい、それを聞けば結婚や子育て、お金などがうまく回り出すと主張している。その主張の根拠とされているのは、周囲に認められたくて働きすぎたことで子宮筋腫にかかったことや、精神疾患を患ったという自身の体験であり、性風俗で長年働いていた経験にも言及している。その上ではるは自分を中心に生きることの大切さを説き、そのために「子宮」に耳を傾けることが肝要だと述べている。

 ただし、「子宮」とはいってもここでは医学的な臓器イメージは一切なく、イメージとしての「子宮」であることが強調されている。病気で「子宮」を摘出した場合でもその声を聞くことができると記されているのは、それがイメージとしての「子宮」であるからに他ならない。

「子宮」の声の具体的な内容として、「素直に生きる」「自分を愛する」「嫌なことには耳をかさない」「などといったことが自分の体験をもとに列挙されている。基本的には何事も我慢せず、自分を優先させることが大切だということが繰り返し強調されている。しかも、これらの主張は暗示的に示唆されるのではなく、明白な形で示されている。

 例えば、女は生きているだけで努力する必要がなく、自分を犠牲にすることは無駄なことだと主張した上で、「あなたが子宮(自分)を大切にしないから、あなたが社会から大切にされないんだよ by 子宮」などと書かれている。こうしたメッセージは、太字で強調されている点にも特徴がある。

 これ、幻聴じゃないですかね……
 
 自分が言いたいこと、やりたいことを「子宮の声」ということにして主張しているだけなのでは、と思うのですが、皇室の結婚問題をみていると、女性の場合は、男性よりも、社会や周囲からのプレッシャーというか、外野から自分の人生の選択についてあれこれ言われやすいのも事実なのでしょうね。

 「女性であること」への抑圧への反動が、こういう「子宮系」を生み出しているのだろうか。

 著者は、こういう「何これ?」と思うようなスピリチュアリティに関しても、主観で正邪を語ることはほとんどなく、淡々と紹介しているようにみえます。

 「子宮系」では、医療や医師が積極的に関与していることが挙げられるのである。「子宮系」のありようからは医師が「子宮」に聖性を付与する努力を称揚し、その方法を示す当事者として活躍しているのはもちろん、「卵子の老化」についての情熱を積極的に織り交ぜる役割を担っている。さらに、妊娠・出産を経て母親になることをエモーショナルに肯定している様子も見いだされる。その結果、医療において培われたイデオロギーと「子宮」が聖性を帯びるようになったこととが接続していると読み取られのである。

 そして、今日における「子宮系」の広がりからは、女性にとって大切な「子宮」の健康や美に注意を払うことだけでなく、明るく前向きな内面を持つ「女性らしさ」を育むことが重要視されていると確認できる。こうした価値観からは、保守的な「女性らしさ」を強要する現代社会のジェンダーバイアスが透けて見えるだけでなく、ジェンダーバイアスを肯定し強化することで、そのバイアスを前向きに受けとめて、規範として内在化する「子宮系」の役割が見て取れる。

 しかし、今日、多くの女性たちがこのような思いに駆り立てられているのは、決して彼女たちが保守的な女性らしさに基づいた安穏な生活を希求しているからではない。現代日本社会において、労働環境や家庭は性別分業をいまだに自明のものとしている。そこでは、「子宮系」は「女性らしさ」を自明のものとして価値づけて、肯定的、かつ前向きに受け入れることを促進してくれる。そのことでジェンダーバイアスへの疑念が払拭されて、ストレスを避けることが可能となる。

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