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テスラ車で10人が死亡しても一切謝罪せず…イーロン・マスクが超強気を貫く本当の理由

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テスラの「自動運転」の安全性を巡って、アメリカで議論が起きている。2016年以降にオートパイロット稼働中のテスラ車が少なくとも30件の衝突事故を起こし、10人が死亡しているからだ。テスラCEOのイーロン・マスクはこれまで事故について一度も謝罪していない。経営コンサルタントの竹内一正さんは「その姿勢にはイーロンの一貫した哲学がある」という――。

2021年8月13日、ドイツ東部のベルリン近郊グリューンハイデで、建設中のTesla Gigafactory工場を訪問した米国の起業家・ビジネス界の大物イーロン・マスク氏。 2021年8月13日、ドイツ東部のベルリン近郊グリューンハイデで、建設中のTesla Gigafactory工場を訪問した米国の起業家・ビジネス界の大物イーロン・マスク氏。 - AFP/時事通信フォト

運転支援システムなのに「完全自動運転」のような名称

今年8月、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は約80万台のテスラ車に関して、運転支援システムの安全性を調査すると発表した。2018年以降に発生した緊急車両を巻き込んだテスラ車の衝突事故が11件に上り、うち1人が死亡したことを受けての対応だった。

テスラの「オートパイロット」と1万ドル(約110万円)のオプション機能「フル・セルフ・ドライビング(FSD)」はドライバーの監視が必要な「レベル2」に相当する“運転支援システム”だが、名前が完全自動運転であるかのようで紛らわしく、物議を醸していた。

自動運転はレベル0から5までの6段階で表され、レベル2は、ドライバーは常にハンドルに手を置き、運転状況を監視することが求められる。運転主体はあくまでヒトである。これがレベル3になると主体は人からシステム側に移り、そして、レベル5は完全自動運転となる。

NHTSAは緊急車両を巻き込んだケース以外でのテスラ車の衝突事故についても調査を行っており、16年以降でオートパイロット稼働中のテスラ車が少なくとも30件の衝突事故を起こしており、これらの事故で10人が死亡したと報道されている。

テスラのCEOのイーロン・マスクは、度重なる衝突事故が発生しているにもかかわらず、オートパイロット稼働中に起きた事故に対し、一度も謝罪していない。振り返ると、2016年にフロリダ州でオートパイロット稼働中のテスラ車が死亡事故を起こした際は、世間の多くから「オートパイロットを中止しろ」と批判の声が上がった。

「人が運転するより、オートパイロットのほうが安全」と反論

だが、イーロンは「統計的に米国では1.5億kmの走行で1件の死傷事故が起きている。一方、オートパイロットを使ってテスラユーザーたちが走行した距離は合計約2億km以上で、今回のフロリダの事故が初の死亡事故だ。比較すれば、オートパイロットは人間よりも優れていると判断できる」と主張し、開発の継続を公言した。この発言を受けて世論もテスラ支持に傾いていった。

「自動運転」と聞くと完璧なものを期待してしまうが、イーロンは「自動運転は、ある種の確率の問題だ」と主張する。人々は自動運転に完璧を期待するのではなく、「人の運転より安全かどうかで考えなくてはいけないんだ」というイーロンの指摘は現実的だ。

以降、イーロンは事故が起きても「人が運転するより、テスラのオートパイロットのほうが安全だ」との主張をデータを示しながら繰り返してきた。

自動車の追突事故 ※写真はイメージです - iStock.com/RobertCrum

だが、テスラ車の販売台数が増えるとともに、自動運転での事故も増加している。なにより、テスラはオンラインでつながっているモデルSやモデル3といった実車を公道で走行させて膨大なデータを収集し、自動運転開発に生かしてきた。公道でテスラユーザーを実験台にするかの手法には根強い批判もある。

なぜテスラはユーザーを実験台にするようなやり方で開発を進めているのか。そこにはテスラが採用している「ベストエフォート型」と呼ばれる開発手法が関係している。

シリコンバレーでは常識の「ベストエフォート型」

まず、ベストエフォート型の対極にある「ギャランティ型」について説明しておこう。

テスラ以外のトヨタやGMなどの自動車開発は、「ギャランティ型」と呼ばれる手法を採用している。あらゆる状況を最大限想定し、性能テストや品質確認を何度も繰り返し、時間とコストをかけて不良品が出ないように万全を期すというものだ。そのために開発期間は極めて長かった。

一方、テスラのEV開発は「ベスト・エフォート型」である。

この開発手法がひと言でいえば「まずはやってみて、問題が起きれば修正する」というものだ。ベストエフォート型はシリコンバレーを中心としたソフトウエアの世界では常識となっている。例えば、プログラムのバグはあって当たり前。PCがフリーズしたら、電源を切ってもう一度立ち上げればいい。

テスラのモデルSの開発におけるアルファ版(開発初期の試作品)はたった15台だった。これで、寒冷地走行テストも衝突試験も済ませて、車内デザインの検討もやってしまう。一方で、トヨタやGMなどギャランティ型の自動車メーカーでは“万全を期す”ために、200台以上は必要だった。

とりあえずやってみる。でも、ダメだったら、原因を解明し、改善する。ベスト・エフォート型でテスラはこのサイクルを高速で回し、モデルSのアルファ版の台数の少なさを補っていた。

社長が批判を浴びている間に、問題を解決する

トヨタなどのギャランティ型は開発に時間もコストもかかるが、万が一の問題が起きる確率は大きく下げられる。つまり、会社がマスコミの批判にさらされる回数が減ることになる。ただし、ギャランティ型では失敗を悪と見なすので、革新的なテクノロジーが誕生する可能性は低くなる。

かたやベストエフォート型は、開発がスピーディでコストも減らせる。しかも、失敗を容認するので、革命的なテクノロジーが生み出しやすくなる。とはいえ、万が一の問題が起きる確率は高くなり、その結果、会社が批判される頻度は格段に高くなる。

テスラのオートパイロットでの事故問題で、イーロン・マスクが晒されている状況がまさにそれだ。ベスト・エフォート型は、社長が批判に耐えて時間を稼いでいる間に、技術者たちが問題を解決できるかで命運は分かれる。解決できなければ、開発は止まってしまいブランドイメージを損なってしまう。

イーロン・マスクが革新的だったのは、ギャランティ型だった自動車業界に開発がスピーディでコストも減らせるベスト・エフォート型を持ち込んだことだと言える。

ベスト・エフォート型だからこそ、テスラはわずか12年間でEVの年間販売台数を5000倍にも増やすことができたのだ。ただしその間、手ひどい失敗も繰り返し、イーロンは批判の矢面に何度も立ち続けた。精神力が桁外れに強靭でなければ耐えられない手法でもある。

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