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政治と経済の失われた20年 ―― データから語る日本の未来 片岡剛士×菅原琢×荻上チキ +飯田泰之

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自民党の圧勝で終わった昨年の衆議院議員総選挙。総選挙二日後に行われた本イベントにおいて、エコノミストの片岡剛士氏は民主党の大敗を、マニュフェストが実現できなかったことに対する国民の失望の結果だと解説。政権を奪取した自民党・安倍総裁の掲げる「アベノミクス」が、日本経済に対してどのような影響を与えるか、データを分析した上で語った。

対して政治学者の菅原琢氏は、自民党の得票数・得票率から、本選挙において自民党は決して圧勝していないことを提示。現行制度である小選挙区比例代表並立制では、政党「制」と言える安定した状態が一向に訪れない可能性を指摘し、拘束名簿式の比例代表制一本にすることを提案した。

本格的に始動し始めた安倍政権。2013年7月に迫る参議院議員総選挙。飛び入りゲストに経済学者・飯田泰之を迎え、荻上チキ司会のもと、今後の日本の政治と経済について語り合った。(構成/金子昂)

■データから語る日本の未来

荻上 こんばんは、荻上チキです。みなさん「年末WEBRONZAスペシャル 政治と経済の失われた20年 ―― データから語る日本の未来」にご参加いただきありがとうございます。本イベントは当初、年末にしっとりと日本の政治、経済について語りながら夜を過ごそうと思い、企画を立てたものでした。この企画を立てたときは、まさか衆議院が解散し、投票日の翌々日がイベント日になるとは考えていなかったので、関係者一同びっくりしています。

本日お越しくださったみなさんは、今後の日本の政治経済はどうなっていくのか、非常に気になっていることでしょう。今回の選挙で争点となった金融政策、選挙後に巻き起こったさまざまな議論は、じつは経済学者、政治学者が何年も前から議論していたものでした。今日は、政治学者の菅原琢さんとエコノミストの片岡剛士さんと一緒に、政局ではなく、データにもとづいて政治と経済について考えていきたいと思います。

■小選挙区比例代表並立制は難しい

荻上 さて、二日前に自民党の圧勝で終わった選挙ですが、すでにさまざまな報道がされています。もっともよく耳にするのは「自民党の圧勝ではない。民主党の惨敗だ」という論調です。田中真紀子さんは「自爆テロ」とおっしゃっていましたが、もれなく「ただの自爆だろ」というツッコミが飛び交いました。選挙特番で自民党議員の方と電話を繋ぐと、「敵失」という認識を示す方が多かった。菅原さんは、今回の選挙の結果をどう見ていらっしゃいますか。

菅原 一言ですませるのは難しいかもしれませんが、前回、前々回とは少し違った意味で、小選挙区比例代表並立制はやはり厄介だというのが最大の教訓だと思います。

今回の選挙では、自民党に人気があったために票が伸びたというよりは、もとからある支持母体を固めたこと、公明党の忠実な協力によるものが大きいでしょう。加えて、民主党の支持が下がり、棄権が増える一方、維新の会とみんなの党にも票が流れたことにより、民主党に集まっていた反自民票も分散しています。これにより相対的に有利になり、自公は小選挙区で圧勝したのです。

比例区の自民党の得票数を見ると、1700万に届いておらず、惨敗した前回以下です。得票率の27.6%も前回の26.7%から1ポイント伸びた程度です。自民党の幹部も、議席数の伸びにびっくりしているのが正直なところなのではないでしょうか。

荻上 ジャーナリストの神保哲生さんは、「自民党はむしろ困るだろう」とおっしゃっていました。というのも、これだけの議席数を獲得してしまうと、自民党と公明党であらゆる政策が通せてしまうため、「できなかったときのイイワケがなにひとつない」ためです。いままで乗り気じゃない政策については「民主党が足を引っ張っている」と言い訳ができましたが、これからは選挙前に掲げた政策をやらずにいるとどんどん減点されてしまう。

90年代以降、自民党の支持母体、支持者の数は一貫して減りつづけてきました。また、特定の政党に投票することを決めていない人の割合も増えています。この状況では、投票者が多い場合は、特定の政党を応援する人の影響力が弱まり、投票者が少ない場合は支持母体をもつ政党の力が強くなるでしょう。今回の選挙は前回に比べて投票率が10%ほど落ちています。つまり支持母体をもつ政党に有利な選挙だったわけですね。また菅原さんもお話しされたように、政党が乱立したことで反自民票が割れてしまった。

しかし、二大政党制を志していた日本で、なぜこんなにも多くの政党が乱立してしまったのでしょうか。

菅原 小選挙区比例代表並立制は、小選挙区が300議席、比例代表が180議席となっています。仮に小選挙区だけでの選挙制度であれば、少数政党は議席をえられずに消滅したり、大きな政党に吸収されるなどし、ひとつの選挙区を取ればふたつの勢力の候補者が競い合うようになると考えられます。しかし並立制の場合は、比例区が180議席あるため、少数勢力もそれなりに残ります。

荻上 比例代表制は多党制を実現しうるシステムであり、小選挙区制は二大政党を実現しうるシステムであるということですね。現在はふたつの制度が併用されているため、小さな政党もたくさん生まれたということでしょうか。

菅原 だいたいそのとおりです。

小選挙区比例代表並立制は、大政党から分裂して新党を結成しやすい制度でもあります。比例代表制があると、派閥同士の争いが起こったとき、今回の小沢さんのように新しい政党をつくりやすいわけです。それで、分裂元の政党と対決する。今回の日本未来の党は結成時ほどの議席は獲得できませんでしたが、比例代表では消えずに残っています。純粋な小選挙区制とは違い、比例区で救われるという「希望」があり、大政党から離脱する誘因になっていると考えられます。

荻上 なるほど、小選挙区比例代表並立制については後ほど詳しくおうかがいしたいと思います。

■なぜ民主党は敗れたのか

荻上 片岡さんは今回の選挙をどうご覧になりましたか。

片岡 民主党の大敗は、前回の選挙で支持を集めたマニフェストを実現できなかったことが原因だと思います。国民がどれだけ民主党にがっかりしているかが如実に出た選挙結果と言えるでしょう。

民主党の政策集では、最初に社会保障、つまり再分配政策をどのようなかたちで行うかが書かれています。野田さんは、消費税を増税し、広く薄く分配すると言っていました。しかし日本は、民主党政権になった後もデフレの問題は依然として解消されず、経済は成長していません。実績がともなわず、再分配も行えなかったことが経済的な側面からみた民主党の大敗原因だと思います。

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少し時間軸のスパンを広げて話をしてみたいと思います。1980年から2012年までの名目GDPの推移をみてみるとわかるように、91年にそれまでつづいていた成長が止まり、2012年まで横ばいになっています。これがいわゆる「失われた20年」。この状態で、高齢化にともなって社会保障の支出が増えれば、財政状況が悪くなるのは当然です。

次に90年から2011年の年率平均の名目GDPの成長率を各国と比較してみましょう。

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一目瞭然ですが、日本は0.2%と突出して低い。同時期の実質GDP成長率は年率平均で0.9%ですが、これも主要国のなかで最低です。端的に言えば、これはデフレが原因で起こっている現象です。21年間の物価上昇率を年率平均でみると日本だけがマイナス0.7%。他の国は1%後半から2%ほど。日本が過去20年間、いかに特殊な経済状況であったかがよくわかります。

経済停滞は日本の政治にも色濃く影響していると思います。日本では、91年くらいから不況が始まりデフレに陥りかけた頃に、自民党政権から細川政権というかたちで新しい政治が始まりました。経済が停滞し景気が悪くなると、やはり既存政権に対する不満が出てくるのですね。

荻上 経済が停滞し始めた90年代、自民党は票離れが収まることを懇願するかのごとく公共事業を増やしていましたね。しかし2000年代になって公共事業は減りました。

片岡 90年代以降、名目GDP成長率が停滞し、配るパイが減る一方で、票田に結びつく地域に重点的に公共事業が行われました。本来であれば経済成長に資する事業を重点的に行う必要があったにもかかわらず非効率な事業が優先され、結果的に、さらなる景気停滞と財政赤字の累増を招いた。そして小泉政権では歳出削減と構造改革が叫ばれました。政治と経済のインタラクションが起きているのですね。

荻上 当時の議論を振り返ると、改めて捻じれを実感しますね。

小泉政権にはよく、「地方を切り捨てるな!」という批判が浴びせられていました。それを自民党造反組が口にしているのか、共産党や社民党が口にしているのかで、ロジックがだいぶ違いますよね。自民党造反組は「地方への見返り=公共事業が減ったら票が獲得できないじゃないか!」と思っていたでしょうし、左派であれば、抽象化すれば「田舎に住む権利もある」という批判を行っていたでしょう。

片岡 そして小泉政権の対抗馬として、成長一辺倒ではなく、再分配を主軸に弱者に温かい目を向けるリベラルな人たち、民主党が現れました。しかしあまりに成長を意識しなかったがゆえに、本来やりたかった再分配が実行できず、結局は政権を再び自民党に譲ることになったのだと思います。

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