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金融所得課税で経済成長?――アベノミクスと「キシダノミクス」のあいだ - 中里透 / マクロ経済学・財政運営

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「寛容と忍耐」を掲げて池田内閣が発足した時、強権的な手法の岸総理とは異なる新しい政治が始まることを多くの人が期待した。「田中金脈問題」で田中総理が辞任し、椎名裁定を経て三木内閣が誕生した時、「クリーン三木」には金権政治の打破への期待が寄せられた。

このように、支持率が低落した時に疑似政権交代とも言える大きな政策転換を行って支持を回復することは、政権与党としての自民党の長年の知恵であり続けてきた(少なくとも中選挙区制の時代までは)。「小泉改革以降の新自由主義政策の転換」を訴えて総裁選を勝ち抜いた岸田総理にも、世の中の「気」を変える役割が期待されているということになるのだろう。

もっとも、店の看板は違っても運営している会社は同じという飲食店があるように(マルチ・ブランド戦略)、経済政策の運営においても「政策」という商品の見せ方と実際の中身にはさまざまな工夫がなされているから、看板と商品の中身の関係については十分な注意をもってながめていくことが必要かもしれない。この点についての認識がずれると、議論の方向性が誤ったものとなってしまうおそれがあるからだ。

この点を踏まえ、以下では岸田内閣の経済政策をめぐるこれまでの経過を踏まえつつ、「キシダノミクス」の今後の方向性について考えてみることとしたい。

なお、「キシダノミクス」は岸田内閣の経済政策を表す呼称として公式に用いられている用語ではないが、記述の便宜のため以下では必要に応じこの呼称を用いて記述を行っていくこととする。

1.アベノミクスと「キシダノミクス」

成長と分配の好循環

岸田内閣の経済政策の最大の柱は「成長と分配の好循環」であるとされる。一部にはこれを「成長」重視のアベノミクスと対置する向きもあるようだ[「成長と分配の好循環」の具体的な内容については3節をご参照ください]。

もっとも、内閣府のホームページには、「成長と分配の好循環に向けて」という見出しで、この課題についての2014年以降の取り組みの経過が掲載されている。平成29年度版の厚生労働白書(2017年10月公表)では「社会保障と経済成長」をテーマに「成長と分配の確実な好循環」に向けた詳細な論点整理が行われている。ここからわかるのは、「成長と分配の好循環」の重要性が、安倍内閣の時にすでに認識されていたということだ。

「分配」を重視する取り組みが安倍内閣のもとですでに始まっていたというのは意外なことと思われるかもしれないが、それはアベノミクスが始まった頃のイメージにとらわれているためだ。アベノミクスは経済成長優先の政策と思われがちだが、6年前(2015年9月)に発表された「新三本の矢」は、「希望を生み出す強い経済」、「夢を紡ぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」となっており、分配面の対応の必要性がかなり早い時期から認識されていたことがわかる。政府、企業(経営者)、労働組合の3者が同じテーブルで雇用や賃金について話し合う「政労使協議」の場が設けられ(2013年9月発足)、安倍総理(当時)が経済界の代表に毎年のように賃上げをめぐって要請を行っていたことも、「分配」を通じて経済の好循環を実現するという視点が重視されていたことを示すエピソードだ。

これらの点を踏まえると、「成長と分配の好循環」については「成長優先のアベノミクス」と「分配重視のキシダノミクス」という「わかりやすい」構図でこの話をとらえるのではなく、これまでの累次の取り組みによってもなぜ十分な「分配」とそのもとでの好循環が実現できなかったのかを、データと経緯に即して改めて点検することが必要ということになる。このプロセスを経ずに目先だけ変えた新政策を打ち出しても、それは期待したほどの成果をもたらさないだろう。

キシダノミクスの「三本の矢」

岸田総理の掲げる「小泉改革以降の新自由主義政策の転換」がどのような内容を持つものなのか、その意味するところは必ずしも明らかではないが、アベノミクスは新自由主義的な政策とされてきたから、「新自由主義政策の転換」のメニューの中にはアベノミクスの「三本の矢」(大胆な金融緩和・機動的な財政出動・民間投資を喚起する成長戦略)の見直しも含まれると受けとめられるかもしれない。

だが、岸田総理は「デフレ脱却に向け、大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の3本柱を堅持」することを表明しており、そのもとで、

・2%の物価安定目標は世界標準

・年内に数十兆円規模の経済対策を決定

・「新しい資本主義」を実現していく車の両輪は成長戦略と分配戦略

という認識と方針が示されている。したがって、キシダノミクスにおいてアベノミクスの「三本の矢」はそっくりそのまま引き継がれることになる。

これに加えて、

・消費税については10年程度引き上げることを考えない

・基礎的財政収支の黒字化目標については達成時期の先送りを検討

ということも明示されているので、この点においても安倍内閣・菅内閣の基本方針がそのまま引き継がれていくことになる(ただし、金融所得課税の強化を分配政策の有力な選択肢のひとつと位置付けたことは、従来とは異なる動きといえる)。

これらのことを踏まえると、キシダノミクスはアベノミクスのアンチテーゼではなく、「三本の矢」を引き継いだうえで「新三本の矢」をさらに充実強化するものととらえることが適切ということになるだろう。

新聞やテレビの報道では「分配なくして成長なし」というフレーズがしばしば強調されるため、キシダノミクスは分配優先の政策と受けとめられることもあるが、「新しい日本型資本主義 ~新自由主義からの転換~」では「分配なくして成長なし」の前提として「成長なくして分配なし」が掲げられており、キシダノミクスにおいては「成長」と「分配」が車の両輪とされていることにも留意が必要だ(なお、「新たな資本主義を創る議員連盟」の最高顧問は、安倍元総理と麻生副総裁となっている)。アベノミクスに比べると「分配」のウェイトが高まることは確かに考えられるが、これは飲食店のメニューで言えばカレーライスとライスカレーの違いと同程度のものということになるだろう。

「新自由主義的な政策の転換」や「分配なくして成長なし」といったフレーズからは、一見すると政策の大転換が行われるような印象を受けるが、政策の中身をよく見れば店の看板から受ける印象よりも実際のメニューの変更は穏やかなものであり、財政政策や金融政策の運営についてはこれまでの政策がそのまま引き継がれていくことになる。

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