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東浩紀×岡田斗司夫「初めての対談」はみる側にも有意義だった

■大物論客二人の初めての対談

早くみたいと思いながらずいぶん時間が経ってしまったが、昨日やっとニコ生トークセッション 東浩紀×岡田斗司夫「本当に初めての対談」 - ニコニコ生放送(2013年1月21日)をみた。思想家の東浩紀氏、評論家の岡田斗司夫氏といえば、日本のオタクカルチャー、オタク市場を先頭に立って引っ張ってきた二人なわけだが、すでに、岡田氏は『オタクは死んだ』と宣言し、東氏は3・11以降、震災前の著作(『動物化するポストモダン』等?)は『黒歴史みたいなもの』と語っていて、異口同音にオタク卒業宣言をしているとの印象がある。そういう意味では、いわば、日本を代表する『ポスト・オタク』論客の激突という見方もできる。二人の過去の活動履歴を知る人ほど、息を殺して対談の行く末を見守る、という感じになったのではないか。対談の途中でどちらかが席を立って出て行く、というようなこともありえないことではない。特に、最近の東氏は、喧嘩別れが芸風になっている印象さえあり(失礼!)、私も正直緊張して見始めた。

■非常に有意義だった

ただ、実際に二人が邂逅してみると、予想以上に話がかみ合い、二人の思想の違いも互いの思想を一層充実させる方向に機能した感がある。みる側としても、非常に重要な、考えるための切り口を与えていただけたように思う。対談の進行は、東浩氏が最近の活動や時事に対する雑感を述べて、岡田氏がそれに突っ込みを入れるというスタイルで、私にとっては、どちらかと言えば東氏の最近の思想や活動をよりクリアーに理解するために役立つ対談/補助線になった気がする。

東氏は感性が非常に鋭く、論理的な思考能力が頭抜けていることは言うまでもないが、自らの過去の発言でも、修正すべきところを見つければ遠慮なく取り消したり、変える柔軟さや率直さが特徴でもある。今のようにものすごいスピードで変化する時代を論評するには、そのような資質は不可欠ではあるだろう。だが、反面、周囲との軋轢は避け難いと思われ、『発言に一貫性がない』とか、『子供のような思いつき発言が多い』というような批判も少なくない。常人にはこの型破りな鬼才について行くのはいかにも大変だろうと思う。それだけに、今回の岡田氏のような大人の理解と大人の突っ込みが出来る人の存在は大変貴重だ。東氏のしばしレベルの高過ぎる思想や直感を私のような並以下の頭で理解するためには、このようなレベルの高い突っ込みがどうしても必要だ。

■具体的な内容に関わる感想

具体的な内容については、私は、『ビジネスに使えそうなヒントの発見』という観点で見ていたため、若干『斜めから』の感想になる気もするが、最近考えていたこととも合致し、大変勉強になったので、それを書いておこうと思う。


最近の東氏の活動と言えば、何といっても、『福島第一原発観光地化計画』『ゲンロンカフェの設立』だろう。事情を知らない人にとっては一体何をやっているのか、さっぱりわからないのではないかと思う。最初は私もそうだった。だが、東氏自身がこれを語り、岡田氏が突っ込みを入れるこの対談のおかげで、私自身、東氏の真意を従前以上に明確に理解することができた。

■福島第一原発観光地化計画

『福島第一原発観光地化計画』は、いわゆる『ダーク・ツーリズム』の範疇ということになるのだろう。『ダーク・ツーリズム』とは、観光を楽しいものとしてだけ考えるのではなく、死”や“災害”のような人間にとってつらい体験をあえて観光対象として学びの手段として捉えるもので、この概念は、1990 年代にグラスゴーカレドニアン大学のジョン=レノン教授とマルコム=フォーリー教授によって提唱されたといわれている。日本では、広島の原爆ドームが典型例だし、史上最悪の原発事故を起こした、ロシアのチェルノブイリ原発も昨今はこの意味で観光地化しているという。

■日本人の旧弊転換のシンボル

岡田氏が対談で紹介したように、経営コンサルタントの大前研一氏は、『福島第一原発の跡地を、他の原発の放射能廃棄物までまとめて貯留する場所にするのも一案』と述べているというが、東氏は、それでは3・11で露呈した、『問題ある日本人の性向』を変えるきっかけにはならないという。戦後の日本人は、近視眼的な科学第一主義、効率第一主義一辺倒になってしまい、目先の利益を重視するあまり、それ以外の要素が目に入らなくなってしまったことが今回の福島第一原発の一連の問題の遠因とし、その性向を変えるためのきっかけ、いわば、巨大な『シンボル』として、福島第一原発の事故の様子がそのままわかる形で観光地として残すべきと語る。

■日本企業再生のためにも

さらに東氏は、この日本人の性向は現実のビジネスの場で日本が負け始めている理由にも通底していると語る。巷間でもさんざんいわれている通り、日本の家電メーカーは、機能改善、数値的な改良ばかりに血道を上げ、アップルのiPodやiPhoneに見る、ライフスタイルそのものを提案するようなことがどうしてもできない。それは、日本のテレビメーカーが3Dで惨敗したそのすぐ後に今度は4K(フルハイビジョンの4倍ある高画質化)を提案していることからも、アップルのiPodやiPhoneに対して、今でも、『日本の製品のほうが性能が良い』と語る日本の家電メーカー関係者が少なくないことからでもわかる。ここまで家電メーカーが枕を並べて討ち死に状態になっているのに、単なる機能改善では勝てない事がわかっているのに、あいかわらず実際の施策が、『精度向上』『性能向上』ばかりなのを見ていると、旧日本陸軍が効果がないとわかっているのに、肉弾戦で夜襲をかけ続けていたこととだぶって見える。

こういうのを見ていると、どこが『科学的』で『合理的』なのか、さっぱりわからなくなってくる。ということは、これを日本人が従来の『科学的』『合理的』なやり方で解決することは不可能ということになる。少なくとも日本の旧来の企業人は、『近視眼的な科学第一主義、効率第一主義』という宗教を信仰していただけで、本来の科学性とも合理性とも何ら関係がなく、戦後の追いつけ追い越せの時代にその信仰が機能してたまたま成功していただけ、というべきなのだろう。同時に、その『近視眼的な合理性』信仰が、リスクを後回しに、原発建設を盲目的に推進してしまった原因でもあり、そういう意味では、事故は『天罰』と言ってよいのだと思う。であれば、事故を近視眼的な合理主義でフタをして、なかったことにして、再び今までの信仰に沈潜するより、思いきってこの信仰における『神は死んだ』ことをシンボリックに誇示するために、ダーク・ツーリズム的な観光地化を実現する意義は大きいということになる。それはまた、アップルやグーグル、アマゾンのような企業に手も足もでなくなっている、日本企業の再生に繋がるというのも、よく理解できる。

■岡田氏の美意識?

岡田氏は、観光地化するなら、無辜の労働者の犠牲の下に無害化してからではなく、今すぐにやるべき、と指摘するが、この意見もまた非常に奥深い。他人に無害にしてもらって、自分とは関係ない悲劇を観光地として見るのでは、本質的な解決にはならないということだろう。実現は難しそうだが、意図は理解できる。

■ゲンロンカフェの設立

もう一つの、『ゲンロンカフェの設立』のほうだが、これも大変含蓄がある。

ゲンロンカフェは、東氏がプロデュースして東京・五反田にオープンしたカフェ併設イベントスペースだ。設立の意図/趣旨については、以下の記事が参考になる。

「学生の頃からさまざまなイベントに関わる中で、講師の話を聞くこと以上に、同じ会場へ足を運んだ人たちとの交流に意味があると感じていた」と振り返る東さん。「イベントの後も聴衆同士、時には講師も交えたコミュニケーションの場にしたい」と、飲食店という形態を選んだ。一部のイベントは全国6カ所の提携店舗でネット中継する計画も。「実在するカフェとネットでのコミュニケーションが互いに影響を与え合う場を目指す」と意気込む。

 「足を運ぶ」ことの重要性を再認識したのは、ソーシャルメディアの隆盛とも関係しているという。ネットでの発言が活発な印象のある東さんだが、「『リアル』と『ネット』の二本立て」が持論。11年の著書『一般意志2・0』では、一般意志2・0をネットにある「無意識(欲望)の集積」であると定義し、<積極的に掬(すく)い上げ政策に活(い)かすべきである><政治家や専門家の熟議はその無意識によって制約されるべき>だ、と指摘した。

東浩紀さん:東京に「ゲンロンカフェ」 新しい知のあり方を発信? 毎日jp(毎日新聞)


■巷間の常識の真逆

東氏が編集長をつとめ、ゲンロン社から出版されている著書、『日本2.0』*1を実際に手に取った人ならわかると思うが、出版不況といわれ、電子書籍元年(2012年。アマゾンKIndleが日本市場に参入してきたことで、今度こそ元年になると思うが・・)といわれる昨今の市場の常識の真逆を行く、大変分厚くて、とっつきにくいオーラを発散している本だ(実際読むとすごく面白い)。また、最近では、東氏ほどの著名人なら書籍よりも、メルマガをちゃんとやるほうが、収益性が高いのでは、とも思われる。

■リアルの重要性

だが、確かにメルマガを含め、ネットだけに閉じこもるスタイルは意外に拡張性がなく、ビジネスモデルとしても、さほど汎用性はないように見える。コンテンツを増やしても、その分のお金を読者に払わせるのは至難の業だ。一方、コンテンツのパッケージによる印象、インパクト等の効用は、やはり捨てがたい魅力がある。また、ソーシャルメディア等のバーチャルによる動員も、リアルとの接合は意外に難しく、問題を解決したり、政治的なムーブメントとして拡大していくためには、リアルの側の仕掛けも重要であることは、以前から指摘されてきたことでもある。また、リアルで動員が実現しても、昨年非常に話題になった原発反対をうったえる官邸前デモのように、非常に大きな規模で期間も長期にわたったわりには、実際の選挙での目に見える結果には繋がらなかった。参加者が、そのまま誰とも議論する機会もなく帰らざるをえないようでは、せっかくの盛り上がりのエネルギーも霧散してしまうだろう。だから、リアルの側を重視し、きちんと設計するのは、動員のエネルギーを増幅し、影響の範囲を拡大するためにも不可欠だ。

拡張現実モデル

だが、これは単純にバーチャルからのリアルへの回帰ではない。バーチャルを利用したビジネスモデルの成功例として誉れ高いAKB48も、秋葉原で毎日のようにコンサートをやって、握手会等のリアルの接点をつくる一方で、ネットコミュニティーのバーチャルな情報拡散や、ネット内でのエネルギーの充満を最大限利用してリアルに繋げるというような、リアルにバーチャルを重ねる拡張現実モデルであったことが成功要因と言える。ゲンロンカフェにおける自らの立場を、東氏が『会いに行ける哲学者』というスローガンで語るのも、この拡張現実モデルを意識していることの現れだろう。

■コンテンツよりコミュニケーション

ネット系サービスでは、運営者は長くマネタイズの難しさに苦しんだ。そして、コンテンツはお金にならないという現実に打ち当たって悶絶した末に、『人はコンテンツにはお金を払わないがコミュニケーションにはお金を払う』、という事実に気づいてそれをサービスの根幹においた一部企業が収益化に成功し始めた。直近では、世界的なサービスとしてテイクオフしつつある、LINEの『スタンプ』などその典型例と言える。日本のケータイ・ユーザーは、以前から文字によるコミュニケーションだけではなく、絵文字を多様することは知られていたが、その延長上にある『スタンプ』は多額の収益を生み始めている。AKB48でも、今回のゲンロンカフェでもそうだが、リアルによるコミュニケーションの活性化と収益の回収の出口の設定は、(機能改善一辺倒の日本の家電に比べても)それこそ非常に『合理的』な回答だと思う。

■心配な点

ただ、一つ気になるのは、岡田氏が指摘していたが、ゲンロンの中身、すなわち『思想』だ。こればかりは、人がやってきて対面でコミュニケーションすればそれだけで精度やレベルが上がるというわけにはいかないだろう。個人にもどって一人懸命に思索にするようなフェーズも不可欠だ。思想家としての東氏がイベントだけに押し流されすぎてしまっては、ビジネスの『コア』も毀損してしまいかねない。実力派の東氏には、単なる杞憂かもしれないが、同様のビジネスモデルを展開しようとする追随者には、案外頭の痛い問題になりかねないと感じた。

*1

リンク先を見る

日本2.0 思想地図β vol.3

  • 作者: 東浩紀,村上隆,津田大介,高橋源一郎,梅原猛,椹木野衣,常岡浩介,志倉千代丸,福嶋麻衣子,市川真人,楠正憲,境真良,白田秀彰,西田亮介,藤村龍至,千葉雅也,伊藤剛,新津保建秀
  • 出版社/メーカー: ゲンロン
  • 発売日: 2012/07/17
  • メディア: 単行本
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