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「日本から中国に頭脳が流出」これから日本人ノーベル賞学者は激減する恐れがある

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博士号をもたない「隠れ人材」を見つけられるか

研究成果を出してからノーベル賞に決まるまでは、20年~30年かかることが多いと言われる。真鍋さんは50年以上かかっている。成果がきちんと認められたり、実際に役立つものに結実したりするには時間を要するからだ。そうした「時差」に加え、指標でとらえることができなかった、思いがけない受賞者が登場することもある。

日本でも例がある。2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんは、完全にノーマークの状態だった。田中さんは企業の技術者で、受賞が決まった際の肩書は「主任」。大学院へも進学していない。分析装置の開発という、研究を支える仕事をしていた。「主役」というより「脇役」のイメージだ。国内外が仰天し、「サラリーマンが受賞」と報じられた。

実は中国初の受賞となった屠呦呦さんも、中国政府や学術界にとって思いがけない受賞者である。屠呦呦さんは「三無の人」と呼ばれる研究者だったからだ。「三無」とは、博士号を取っていない、外国に留学していない、中国の最高研究機関「中国科学院」が位の高い研究者と認定する「院士」にもなっていない――ことを指す。正統派の研究者像からかけ離れていた。

屠呦呦さんは著名な「ラスカー賞」を2011年に受賞しているが、そのことが知られておらず、受賞が決まってからしばらくは、国内の研究者たちから反発を浴びせられたという。屠呦呦さんのような「隠れ人材」がまだ中国にいるかどうか、それをノーベル委員会が見出すことができるかどうかも重要だ。

中国に移籍した藤嶋さんが注目される理由

今後のノーベル賞を考えると、呼び戻し政策を進める中国が、これからどのように研究力や存在感を発揮してくるかが焦点となる。その意味でも、8月に上海理工大学に研究チームとともに移籍した藤嶋昭さんが注目される。

藤嶋さんはこれまでに中国からの留学生30人以上を指導し、そのうち3人が「中国科学院」の院士に選ばれている。自身の研究が優れているだけでなく、日本にいながら中国の若手を育成した実績を持つ優れた指導者でもある。

上海理工大は、藤嶋さんのチームを支援するプラットフォームとして、新しく研究所を作ると表明している。ここに国内外から優秀な人材を呼び込めば、中国の存在感は増す。今はまだ国際的な評価が高くなくても、だんだん変わっていく。藤嶋さんがノーベル賞を受賞すれば、いっそう高まることは間違いない。

手袋を着用した研究者
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

「古き良き時代」にすがっていると置き去りにされる

グローバル化をうまく利用してきた中国を思うと、むしろ心配なのは日本だ。科学研究の世界もグローバル化が進み、国際共同研究や共著論文の数や割合が増加している。日本も増えてはいるがまだ少ない。2019年の日本の国際共著論文数は約3万件だが、米国は約18万件、中国約12万件、英国約8万件、ドイツ約7万件、フランス約5万件、だった。差は大きい。このままでは国際的な研究者ネットワークに入れなかったり、日本の存在感が薄れたりする恐れがある。

2000年代の日本のノーベル賞ラッシュは、経済が豊かで、国の研究費をもとに研究者が興味に従って好きなように研究ができた「古き良き時代」の置き土産でもある。今、日本の多くの研究者は研究費不足や、短期間で実用につながる成果を求められることに悩まされている。「古き良き時代」の後をどうやって継いでいくかを考え、対策をとらないと、世界に置き去りにされてしまう。

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知野 恵子(ちの・けいこ)

ジャーナリスト

東京大学文学部心理学科卒業後、読売新聞入社。婦人部(現・生活部)、政治部、経済部、科学部、解説部の各部記者、解説部次長、編集委員を務めた。約35年にわたり、宇宙開発、科学技術、ICTなどを取材・執筆している。1990年代末のパソコンブームを受けて読売新聞が発刊したパソコン雑誌「YOMIURI PC」の初代編集長も務めた。

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(ジャーナリスト 知野 恵子)

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