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イギリスで挙式したLGBTQ+のインフルエンサーKanさんに聞く同性婚を認めない日本への思い

「結婚できて嬉しいけど、結婚できなくて悲しい」

[ロンドン発]「たった今イギリスで結婚しました!僕は、自分の恋愛対象が男性だと気づいた時から『これからどのように生きていけばいいのだろう』とずっと人生に希望が持てずに悩んできました。子どもの頃の僕は、自分が将来大好きな人と出会って結婚できるなんて思ってもいませんでした。トムちゃん、人生を一緒に歩んでくれてありがとう」

9月20日にスコットランドのお城でトムさんと結婚式を挙げたKanさん(本人提供)

Kanさん(29)がイギリス留学中に出会ったトムさん(27)と約3年半の日英遠距離恋愛を成就させ、今年9月20日、スコットランドのお城で同性婚の結婚式を挙げた。

日本でも118自治体が同性カップルについて婚姻と同様の関係と認めるパートナーシップ制度を導入しているものの、同性婚は法的には認められていない。

同性婚を巡っては、自民党総裁選で河野太郎行政改革担当相が「党議拘束なしで議論し、国会が結論を出すのが望ましい」、野田聖子幹事長代行も「息苦しさのない日本をつくりたい」と賛意を示したのに対し、保守派の高市早苗前総務相は「今は婚姻はできないし、難しい」と慎重姿勢を見せ、総裁選に勝利し新総理となった岸田文雄前政調会長は「個人的に結論に達していない」と述べるなど立場が分かれた。

「イギリスで大好きな彼と結婚できて僕たちの関係が法的に認められるように、日本でも認められることを願います。生まれ育った国に、僕がいないことにされるのは悲しいです。僕と大好きな人との関係を無かったことにされるのは悲しいです。結婚できて嬉しいけど、結婚できなくて悲しいです」

「一日でも早く、日本でも好きな人同士が結婚できるようになり、一緒に起きたり寝たり、ご飯を食べたり、散歩をしたり、笑ったり、泣いたり…一緒に生きられるようになりますように」とKanさんは日本では結婚が認められない悲しさをツイートしている。

ちなみにイギリスで同性婚を認める法律ができたのは13年。翌年3月に最初の同性婚カップルが誕生した。先進7カ国(G7)で同性婚を認めていない国は日本だけだ。

Kanさんがイギリスに留学していた頃、当時、同国に滞在していた乙武洋匡さんの紹介で筆者はKanさんと知り合った。

Kanさんがその後、ネットフリックスシリーズ『クィア・アイ in Japan!』に出演して、インスタグラムのフォロワーが3.7万人もいるLGBTQ+のインフルエンサーになっているとはつゆ知らずインタビューを申し込んだ。LGBTQ+とはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル(両性愛)、トランスジェンダー、その他の性的マイノリティーのことだ。

『クィア・アイ in Japan!』に出演した仲間と。Kanさんは左から2人目(本人提供)

「僕の好きと友達の好きは違う」と気付いたのは中学2、3年

Kanさんは幼い頃をこう振り返る。

小学校では男の子も女の子も一緒になって遊んでいた。思春期の中学2、3年になると男子仲間で好きな女子生徒について話している時、「僕の好きと友達の好きは違うな」と気付いた。スポーツができてクラスの人気者の男子生徒が好きだったけれど「言ってはいけないんじゃないか」と口には出せなかった。

Kanさんは人口約80万人の地方都市で両親と弟2人と暮らしていた。将来、自分はどうなってしまうんだろうと不安になったが、家族に気付かれるのが怖くてリビングのパソコンで自分のセクシュアリティ(性のあり方)について調べることもできなかった。高校に進学するとセクシュアリティの悩みはますます強くなり、朝起きるのが辛くなった。学校に行けなくなり、通信制高校に転入した。

自分は社会に認められる存在ではない、普通じゃないと思っていたため、悩みを誰にも話せなかった。高校2年の夜、両親に「実は男性が好き。どうしよう」と打ち明けると、「KanはKanだから大丈夫だよ」と受け入れてくれた。通信制高校の先生たちも偏差値ではなく、生徒たち自身を見てくれたので気持ちが楽になり、自分の居場所が見つかった。

写真AC

東京に行けばいろんな人がいると考え、上京し大学に進学したものの、自分のセクシュアリティを話せる友人は見つからなかった。3年時に別の大学に編入、4年時に1年休学してカナダ・バンクーバーの語学学校に留学した。そこで性的マイノリティーの友人をはじめ本当にいろんな人たちと出会い、初めて「自分は自分でいいんだ」と思えたという。

「同性カップルが手をつないで歩いていたり、外でキスしていたり、日本では見たことがないような光景が広がっていました。同性愛者への好奇の目もなく、人として扱われているように感じました。それまでは社会で成功しなければとか、学歴が大事とか思っていましたが、自分らしさや自分の幸せを重視して生きられるようになりました」

カナダで性的マイノリティーの人たちが幸せそうに生きているのを見て、自分を肯定的に見ることができないのは自分の責任ではなくて社会の責任だ、変わらなければならないのは社会の方だと気付いた。

性的マイノリティーは全体の7~10%

帰国して大学に戻ると、教授に頼まれてLGBTQ+について授業で話すようになり、通信制高校でも講演を引き受けるようになった。性的マイノリティーの居場所作りのためサークルも立ち上げた。「性的マイノリティーは全体の7~10%と言われますが、日常生活の中でないものにされがちです。講演した学生の中にも当事者がいて、相談されたこともあります」

高校や大学の現場でもLGBTQ+について見て見ぬ振りはできなくなり、Kanさんを頼ってきたのかもしれない。自分のセクシュアリティだけでなく、それぞれのセクシュアリティを立体的に見ることができるようにジェンダー(性)とセクシュアリティの専門的な学びが必要だと思い立ち、16年秋、ロンドン市内にある大学の修士課程に留学する。

その年の11月、恋愛マッチングアプリ、Tinder(ティンダー)でトムさんと出会う。「日曜日にTinderでマッチして火曜日にはデートしていました。テムズ川のほとりを2人で歩きました。トムは自分のことを好きなんだなと感じました。トムはとにかく優しいし、この人だったら信頼できる、乗り越えられるなと思わせてくれる存在です」

デートを楽しむトムさんとKanさん(本人提供)

18年1月、帰国の日が近づいてきた。移民規制が厳しくなったイギリスで就労ビザを取得するのは難しかった。Kanさんは日本で化粧品会社のマーケティングの仕事が見つかり、帰国する。「遠距離で交際を続けよう、遠距離なら結婚を前提にしようと最初にゴールを決めました。期間として目安は3年と話し合いました」と振り返る。

戸籍法に基づく伝統的家族観の壁

コロナ危機でイギリスから日本への入国は制限された。「家族」ではないトムさんとKanさんは1年半以上、会うことはできなかった。3年という約束の期限が来て、2人は法的に同性婚が認められるイギリスで暮らすことを決め、Kanさんは今年7月末に渡英した。結婚式を挙げたいま、婚約者ビザから配偶者ビザに切り替える手続き中だ。

「日本では同性婚や選択的夫婦別姓を認めると、明治4(1871)年に制定された戸籍法に基づく伝統的家族観が崩れると考える人たちが反対しています。同性カップルだと日本では住宅ローンが組めなかったり、パートナーがコロナで重篤になっても家族ではないので面会できなかったりします」

Kanさんは、ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライター、リナ・サワヤマさんに一度会ってみたいという。リナさんはLGBTQ+の友人たちに捧げた作品『チョウズン・ファミリー(Chosen Family、筆者仮訳:選ばれし家族)』でエルトン・ジョン氏と共演し、いまやLGBTQ+のアイコンだ。

Getty Images

「パートナーといつも通り幸せに生活できて寝起きする、この毎日が続けられたらいいなと思います」とKanさん。トムさんも「やっと一緒に住むことができて嬉しいです」とKanさんとの生活に幸せを感じているという。

「自分のことを大切にしながら自分ができる範囲で自分の経験を人と共有したり、SNSを中心に自分を可視化したりすることで誰かの助けになったらいいなと思っています。自分が子供の頃ものすごく悩んだことなので、こういう人もいるんだよというところを見せられたらいいな」とKanさんは目を輝かせた。

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