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岸田政権へのバトンタッチでどうなる? 菅前政権が産業界に残したカーボンニュートラルと携帯料金値下げの行方

車の"EV化"一辺倒な政策は日本経済のリスクになりかねない

菅政権は1年弱で終焉を迎え、新たに岸田文雄内閣がスタートを切ることとなりました。前政権は対コロナ政策を思うに任せず退任に追い込まれたわけですが、新政権のスタートに際して、前政権が対コロナ以外で手掛けた主要政策、特に産業界に影響のある政策は新政権へしっかり引き継ぎされるべきであり、現時点で今一度その現状検証が不可欠なのではないかと感じています。

ひとつは、菅前首相就任早々の昨年10月に大きな話題になった、2050年までのカーボンニュートラル実現宣言です。

AP

各地で自然災害が多発するなど気候変動対策が急務となる中、石炭や石油、天然ガスなどの炭素(C=カーボン)を含む化石燃料を燃焼して生産されるエネルギーの生成過程において大量のCO2が排出されます。

それを、地上や海の植物が吸収することによる炭素固定や、排出されたCO2を地中に埋めるといった新技術、排出権取引などで相殺し、実質的にゼロの状態にするというこの宣言。CO2削減に関し産業界に対して、本気の取り組みを促す大きな指針を示したといえそうです。

さらに菅前首相はこの4月に、2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、政府の地球温暖化対策推進本部の会合で2013年度に比べて46%削減することを目指すと表明し、産業界に追い打ちともいえる強いハッパをかけてもいるのです。

一連のカーボンニュートラル宣言で、一番大きな影響を受けているのは自動車業界でしょう。自動車業界は日本を代表する基幹産業であり、またEV化という明確なCO2削減策があるだけに、政治は対外的なアナウンスメント効果も狙って声高にこれを求めやすいという背景があります。

今年1月に菅首相は自動車産業について、「2035年までに販売するすべての新車は電動車とする」との方針を明らかにしています。

しかし、CO2削減の先鋒役としてやり玉に挙げられた自動車業界は、国際的な日本の立場を踏まえその基本姿勢には理解をしながらも、必ずしもウエルカムではないという姿勢も崩してはいません。

菅前首相の退任決定を受けて、日本自動車工業会会長である豊田章男トヨタ自動車社長は9月に、ここで言っておかなければとばかりに、「すべてを電気自動車にすればいいというのは違う」と反論し注目を集めました。

豊田社長はこの発言意図として、日本の自動車製造がEV一辺倒になった場合、「HV等の日本の車は輸出できなくなり、雇用を失うことにもつながる」と危機感をもって語ったのです。

CO2削減は基本的には後退することのない国際社会の大命題であるとしても、一辺倒なEV化推進は自動車産業を支えてきた水平分業を根底から壊しかねないリスクを内包するものであり、日本経済への影響の大きさを考えるなら慎重かつ段階的な対処が求められるところです。

岸田新政権にはそのあたりも踏まえ、「カーボンニュートラル」に盲進することのないよう開かれた議論が展開されることを期待します。

メリットの背景に潜む携帯料金値下げのデメリット

菅政権時代のもうひとつの大きな「成果」と言われているのが、携帯電話(スマホ)料金の値下げです。

これは菅前首相が官房長官時代から「携帯料金は4割値下げできる」と、自身のライフワークであるかの如く言い続けてきた問題であり、首相就任と同時に一気に加速させました。

官房長官時代にも、各種手数料や2年縛りと言われる契約条件の緩和などでキャリア間での契約移動の緩和策等を実現してきたものの、首相就任を境にそれまで下げ渋り感が強かった本丸の通信料金値下げに、一気に踏み込んだ形となりました。

口火を切ったのは、政府が株主であるNTTグループのドコモでした。昨年12月に業界№1企業としてデータ通信20ギガまで2980円という新サービスを登場させたことで、他社がこれに追随する形で携帯料金は一気に引き下げられました。

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割りを食ったのは、「第四のキャリア」楽天モバイルです。価格破壊役として投入されたハズが、先発キャリア3社に自らの価格水準と同等以下の値下げを実行され、存在感を維持するためにやむなく1980円への値下げを強いられたわけで、当初の黒字化計画は大幅な修正を余儀なくされています。

値下げは利用者の立場からは一見メリットしかないようにも思えますが、実はその陰に大きな問題も潜んでいます。

大幅値下げによってKDDIとソフトバンクは年間600〜700億円の収益減を見込み、NTTドコモに至っては年間2500億円規模の減収になると公表されています。

国際的に遅れを取っている各キャリアの5G、6G投資は、主導権を取り戻すためには兆単位で必要になると言われており、値下げによる減収の影響は避けられない状況にあります。

通信技術という産業の発展や防衛にも関わるこの領域で、5G、6G対応を国としてどのような舵取りをしていくのか、新政権にとって大きな課題であると考えます。

携帯通信料は徐々に元の水準に戻っていくのか

また、過去に3キャリアの寡占状態打破を狙って新規参入を認めてきた格安スマホキャリア(MVNO)は、大手キャリアの一斉値下げを受けてその存在感を一気に失うことになっています。

上記の楽天も同様ですが、市場原理ではなく官製値下げという急激な政策の転換で当初の事業計画の見直しを根底から迫られる通信キャリアに対しては、なんらかの救済策を講じる必要があるのではないか、とも考えさせられるところです。

このような諸々の事情を踏まえて総合的に考えると、通信業界の長期的な展望の中では、最終的に携帯料金は緩やかに元の水準に回帰していくのではないかと感じられます。

3大通信キャリアの官製値下げ圧力対応が、本来の値下げである一律値下げをすることなく別の格安プランを作ることで凌いだという姿勢にも、それはうかがわれます。言ってみればメインの料金体系は基本形を残しながら、「嵐が去るのを待つ」という姿勢が垣間見られるのです。

加えて、現状のタイミングがちょうど4Gから5Gへの切り替え期に当たっている点も非常に気になります。

「値下げ」を実現した現状下で、いきなりの値上げはしにくいものの、今後5G移行を言い訳としつつ3大キャリアの実質談合状態で料金体系が緩やかな値上げ曲線を描くということは、想像に難くないところではないでしょうか。

新政権下でこららの政策はどう引き継がれていくのか注目

AP

武田前総務大臣は、「携帯料金改革については、今後もしっかりと総務省として対応していく」と明言してはいるものの、果たしてその通りに行くか疑わしい気がしています。

総務省は過去10年以上にわたって3大キャリアに、MVNOの投入や楽天の新規参入等々料金値下げに向けあらゆる圧力をかけながら、なかなか思うに任せなかったという厳然たる事実があります。

今般の官製値下げは、菅首相が総務大臣経験者として官房長官時代からの肝いり政策として取り組み、その人脈で実質「政府系」のNTTを動かしたからこそ実現したものであり、新政権下で同じようにこれが引き継げるかと言えば、疑問符の方が大きいのではないでしょうか。

以上のような観点を踏まえつつ、菅前首相がコロナ禍に苦戦する中で残した数少ない実績であるカーボンニュートラルと携帯料金値下げが、新政権下でどのように引き継がれていくのか注目して見守っていきたいと思います。

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