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『逃走中』を生み出した元フジテレビ局員の最強企画術「足し算はやめて生活者の気分を考えろ」

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プロデューサー、ディレクター、放送作家が番組企画を考えることは多々あれど、編成マンが企画することは稀有なケースです。今回はそんな稀有なテレビマン、『逃走中』『Numer0n』を生み出した元フジテレビ編成の高瀬敦也さんの企画術をご紹介します。

放送作家の深田憲作です。

今回は「ヒットを連発する異色のテレビマン」について書いてみたいと思います。YouTubeで人気の「本の要約チャンネル」を“テレビマンの本でやってみるコラム”の第7弾です。

コンテンツのつくり方 Kindle版

今回は元フジテレビ局員・高瀬敦也さんの『人がうごく コンテンツのつくり方』という本をご紹介します。冒頭で「異色」という言葉を使いましたが、高瀬さんはディレクターや演出家ではありません。

バラエティ番組を制作するうえでの実動部隊であるディレクターやプロデューサーが所属する“制作センター”ではなく、番組の編成を決定する“編成部”にいた方です。いわゆる“編成マン”として『逃走中~run for money~以下、逃走中)』『Numer0n(ヌメロン)』『有吉の夏休み』といったヒットコンテンツを企画した方になります。

2018年にフジテレビを退社されて、今はYouTubeチャンネルのプロデュース、漫画の原作・脚本、アイドルグループやアパレルブランドのプロデュース、商品広告や事業のコンサルティングなど、テレビという枠を超えて様々なコンテンツ作りを行われています。

通常、放送作家が編成マンと仕事で接することは少ないため面識はありませんが、高瀬さんの名前は存じ上げていました。編成マンが番組企画を考えること自体はそこまで珍しいことではないですが、編成マンで自らが0から考えた企画をこれほどヒットさせている方は珍しかったからです。

手掛けてきた仕事を見ても、テレビの演出家や放送作家とは一線を画すタイプのテレビマンだったことが伺えます。例えば、フジテレビでレギュラー放送されて話題となったゲームバラエティ『Numer0n』は、企画構想段階からゲームアプリにすることを前提として考案した番組だったようです。

初回の放送が2011年ですから、その時点でそうした発想を持って企画を考えていたテレビマンは稀有だったと思いますし、今でもそのような思考で番組企画を考えるテレビマンはあまりいないでしょう。

実際にどのような方かは分かりませんが、フジテレビ在籍時から前衛的で異色の存在だったことは間違いありません。だからこそ、高瀬さんがフジテレビを退社したという話を聞いた時は「やっぱりな」と思いました。

高瀬さんにはテレビ以外でも、あらゆるコンテンツ作りで卓越した能力があるのは明白。それに大組織であるテレビ局では何かとしがらみも多く、考えた企画を実現する中での窮屈さも感じていたのではないでしょうか。

前衛的で能力が秀でた人ほどそういう葛藤を抱えてしまうものですし、テレビ局を退社するのは必然です。余談ですがオリエンタルラジオの中田敦彦さんも動画内で高瀬さんについて「企画の天才」といった旨を述べられていました。

そんな方だからこそ、テレビ関係者以外の読者のみなさんにも有益なコンテンツ作りのヒントが綴られていることでしょう。

ヒットコンテンツに共通する思考「ベタが最強」

BLOGOS編集部

この本を読んでみて、想像通りと言ってしまうと失礼かもしれませんが、高瀬さんは企画を考えるうえで必要なセンスだけでなく、マーケティング的なセンスにも長けている方だなと思いました。

僕はUSJをV字回復させたマーケターの森岡毅さんが本の中で書かれていた言葉を自分が企画を出す時の指針にしているのですが(細かい言葉は忘れてしまいましたが)「ビジネスはギャンブルであってはいけない。ある程度の需要が見込めるというマーケティングの土台の上に、ギャンブル的な要素があるべきだ」といったことをおっしゃっていて、僕も尖った企画を考える時でも、ある程度の需要が見込めるという前提のもとで考えなければいけないと思うようになりました。(それによって発想を狭めてしまうという危険性もあるのですが)

高瀬さんもそういった「人の潜在意識」や「本質的な需要」を押さえたうえで企画を考えられていることが分かる記述が多く見られました。目次の中に「ベタが最強」という項目があるのですが「ヒットコンテンツはみな同じ」「恋愛ドラマは極論、全部シェイクスピア」「お笑いは結局チャップリンと古典落語」とエンタメの世界で言い伝えられている言葉に触れ「コンテンツ作りを突き詰めていくとベタに行きつく」と述べられています。なぜなら「そこには人の普遍的な心理があるからだ」と。

そして、コンテンツ作りでやってしまいがちな間違いが、ベタを押さえながら他との差別化をするために「足し算」をしてしまうことだと書いています。サービスで言うと機能を増やす、ドラマで言うと登場人物を多くするといった足し算。結果的にこの足し算は無駄なモノ、余分なモノとなるためコンテンツの魅力を落としてしまうといいます。

任天堂とSONYの明暗を分けた「生活者の気分を考えるコンテンツ」

BLOGOS編集部

「ベタが最強」の次に書かれているのが「生活者の気分を考える」という項目。生活者がどういう気持ちでそのコンテンツに触れているのかを考えることが重要であると述べています。

その説明としてゲームで大ヒットした「任天堂のWii」と、失敗に終わってしまった「ソニーのPS3」を例に挙げています。同時期に発売された2つの家庭用ゲーム機、発売前はPS3の方が大きな期待をされていました。なぜならPS3は最新のCPUを搭載し、ブルーレイまで使えるというハイスペック商品だったからです。一般的にPS3の失敗は「オーバースペック」「そのために値段が高くなりすぎた」といった、いわゆる足し算のし過ぎで、需要を見誤ってしまったことが原因とされています。

高瀬さんはその分析に対して重要なのは「なぜソニーがお客さんのニーズを見誤り、任天堂がニーズを捉えることができたのか?」を考えることであると述べ、その答えとして腑に落ちたのが「ソニーは元々トランジスタの会社で、任天堂は花札やトランプを作っていた会社である。そのためソニーは技術を追い、任天堂は遊びを追うDNAがあったことが両者の結果を生んだ」という分析だったそうです。

あくまで想像に過ぎないというのが前提ですが「ソニーはPS3でPS2を超えることが目的になってしまい、任天堂は仲間や家族で楽しんでもらうための手段としてWiiを開発した。つまりソニーは努力の方向性を間違えてしまった」ということです。先述した「生活者の気分を考える」というのはそのように努力の方向を見失わないためであると高瀬さんは述べています。

そして、その生活者の気分を考える際にも落とし穴があることに言及しています。それが「ターゲットを意識しすぎて迎合し、媚びると失敗する」という持論です。例えば、「女子高生向けのコンテンツ」「ヲタク向けのコンテンツ」などを作る時に「女子高生ってこうなんでしょ?」「ヲタクってこうなんでしょ?」と、作り手が無意識に上から目線でコンテンツを作ってしまうことがよくあるといいます。

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