記事

特集:戦い済んで〜総裁選へのオタク的感想

2/2

●海外の見る目は国内よりも厳しい

海外メディアは、今回の自民党総裁選挙をどう見ていたか。「今週のThe Economist誌から」(P8)で取り上げた9月23日時点の記事”Going round incircles”は、見事な日本政治分析である。それでは選挙結果に対して、同誌はどんな評価を下しているのか。

10月2日付の記事は、案の定”Uninspired”(つまらない)という評価であった1。以下の冒頭部分だけをご紹介しよう。河野氏の人気があったが、それは彼を軟弱と見る右派にとって「最悪のシナリオ」であった。左派もまた、右派の高市氏を恐れた結果、真ん中にいた「つまらない」岸田氏が勝ったという評価である。

“WE AVOIDED THE worst-case scenario,” ran one hashtag trending on Twitter after the election on September 29th of Kishida Fumio as president of Japan’s ruling party. For the right-wingers promotingthe slogan, the “worst case” was Kono Taro, a popular and independent-minded minister who won the most votes in the first round ofthe election. They see him as too liberal to lead the inaptly named Liberal Democratic Party (LDP). But Japanese liberals were relieved, too. For them, the worst case was Takaichi Sanae, a nationalist firebrand.
もうひとつ、9月29日付のNew Yort Times紙の報道も、冒頭部分のみご紹介しておこう2。こちらはいかにも米国流で、「党員票で負けていた議員が勝った」ことを問題視している。この辺は、「いやいや、間接制民主主義では違うんですよ...」と説明しても、あまり理解してもらえそうにない。

TOKYO —In a triumph of elite power brokers over public sentiment, Japan’s governing party on Wednesday elected Fumio Kishida, a former foreign minister, as its choice for the next prime minister.By selecting Mr. Kishida, 64, a moderate party stalwart, in a runoff election for the leadership of the Liberal Democratic Party,the party’s elites appeared to disregardthe public’s preferences and choose a candidate who offered little to distinguish himself from the unpopular departing prime minister, Yoshihide Suga.
1 https://www.economist.com/leaders/2021/10/02/japan-deserves-better-than-an-inoffensive-prime-minister
2 https://www.nytimes.com/2021/09/28/world/asia/japan-ldp-fumio-kishida.html

ちなみにNY Times紙は、岸田氏は党のエリートで菅氏と大差がない、と言っているがこれは事実誤認である。菅氏は以前から岸田を嫌っていて、今回の総裁選でも同じ神奈川県選出の河野氏を勝たせようとしていた。むしろ河野政権が誕生していた方が、菅前首相の影響力は強く残っていたはずである。

などと海外の評判は散々だが、国内では違うだろう。来週にも出始める世論調査において、新内閣は50~60%程度の支持率を得るのではないだろうか。「ご祝儀相場」があるだろうし、岸田氏は久々のフルスペック総裁選を大差で勝ち抜いている。菅首相や二階幹事長には喧嘩を売ったけれども、引き続き「いい人」のイメージのままである。

う一点、コロナの感染状況は9月に急速に落ち着き、今月からは緊急事態宣言が解除されている。このところ、内閣支持率と感染状況は連動しているから、新内閣は高い支持率となるはずである。となれば、選挙は次の感染拡大が来る前が望ましく、新内閣は投票日をなるべく手前にセットしようとするだろう。

ということで、前号で示した「当面の政治日程」を、以下の通り修正しておきたい。


●「菅内閣の置き土産」は大きかった

4人の候補者の間では、約2週間にわたって政策論争が繰り広げられた。当初はコロナ対策が多かったが、やがて年金改革や原子力問題といった中長期のテーマが多くなった。また保守政党たる自民党総裁選の中で、選択的夫婦別姓などの社会問題が取り上げられたのも画期的なことだったと言えよう。

あらためて思い起こすと、この夏までのわが国は「コロナ下でどうやって東京五輪を実施するか」という国家的な難題を抱えていた。そのストレスが限界に至って、菅内閣が退陣に追い込まれた、と言っても過言ではないくらいである。

しかし今になってみれば、オリパラは既に終わっており、感染状況も著しく改善している。ワクチンの接種状況に至っては、米国を抜いてしまった。気がついてみたら、次期首相を目指す4候補は、「喫緊の課題」に事欠くほどになっていたのである。

つくづく感心するのだが、菅義偉内閣がこの1年で達成した仕事量は膨大なものである。以下は筆者が勝手に10項目を選び出し、ランキングをつけてみたものだ。1内閣が1年間で成し遂げたとは考えられないほどの量である

ワクチン接種体制の構築。当初、「1日100万回体制」はとても無理ではないかと思われたが、ワクチンを2回接種した比率は10月1日時点で全人口の59.8%に至っている。11月前半には、希望する全ての人が打ち終わる予定である。

東京五輪の開催。いろいろ議論はあったにせよ、また無観客だったにせよ、とにかく大きな事故もなくイベントを終了させた。オリパラに参加したアスリートたちも、「ありがとう、菅さん」の思いだろう。

「2050年カーボンニュートラル」の宣言。かなり困難な目標となるが、大方針を決したことは歴史に残る仕事と言える。岸田新首相はこれを引き継いで、いきなり今月末のG20ローマ会合や11月のCOP26グラスゴー会合に出席することになる。

デジタル庁の創設。わずか1年でスタートにこぎつけた。約600人の小さな組織だが、「デジタル敗戦」と言われた過去を否定できるか?。

一連の外交成果。日米豪印による初のQuad会合、バイデン大統領との日米首脳会談、コーンウォールG7会合出席など。外交文書に「台湾」という文言を入れることはG7のコミュニケにも踏襲されたが、もとはと言えば日米間で決めたこと。長年の国際政治上のタブーを打ち破った。

福島第一原発から出るトリチウム水の処分方法の決定。安倍内閣が先送りしてきた課題に目途をつけた。

携帯料金の値下げ。結果的に4300億円分の負担軽減となり、家計の可処分所得がそれだけ増えたことになる。

最低賃金の引き上げ。「最低時給1000円」を目指し、2021年は全国平均で28円と過去最高の上げ幅になった。

不妊治療への保険適用。「来年4月からスタートの予定だが、遡って今年1月から助成を拡充。年収730万円未満という所得制限も撤廃へ。

過去の積み残し法案の処理。国民投票法案、種苗法、重要土地取引規制法など。総じて安倍内閣8年間のやり残しを一掃した1年であった。

昨年秋、まだ人気が高かった菅首相が解散に打って出ていれば、今回のような形で退陣することはなかっただろう。しかし菅氏は、選挙による政治空白を嫌って仕事に専念した。つくづくワーカホリック首相だったのである。今となっては、特に「ワクチンと五輪」を片付けてくれたことに感謝したいと思う。

●岸田内閣は短命に終わるのか?

8年に及んだ安倍長期政権の跡を継いだ菅首相は、わずか1年の短命内閣ということになった。こうなると嫌でも、小泉政権終了後の政治混乱期が思い起こされる。岸田内閣もまた短命となってしまうのであろうか。

前号「自民党総裁選トリビア」の中で、「総裁の早慶戦は7対2で早稲田が圧勝」であることをご紹介した。これは実は、「早稲田出身者は短命政権」であることの裏返しであり、最長でも海部俊樹氏の818日(2年2カ月)、最短の石橋湛山氏に至ってはわずか65日間である3。岸田氏もまた、この「早稲田の呪い」に挑戦することになる。

という変なジンクスはさておいて、客観情勢が不利というわけではない。何より来月に予想される選挙に勝たなければならないが、自民党総裁選と総選挙に勝った総裁の地位は安定するはずだ。その次に控えているのは、来年7月に予定されている参議院選挙となる。これもクリアしてしまえば、その後は2024年9月に到来する総裁任期まで、国政選挙がない安定期を迎えることができる。

そのために必要なことは何か。前述の通り、岸田氏は自民党における「20年ぶりのセンターレフト総裁」である。安倍=菅政権の9年間は、プロ・ビジネス政治の時代であった。端的に言えば、消費税を2回上げて、代わりに法人税を下げている。「成長」に力点を置く政治であったことは間違いないだろう。

その後を受ける岸田内閣が、「新しい日本型資本主義」や「成長と分配の好循環」といったテーマに取り組むことには、必然性があると言っていいだろう。ただし、そのための具体策はといえば、どこかにお手本があるわけではない。世界中の左派政権が、思い悩んでいるテーマである。一例を挙げれば、岸田氏が公約に掲げていた「金融所得課税の強化」は、高所得者への課税を強化する分かりやすい手口だが、「貯蓄から投資へ」という高齢者の資産形成を妨げることになる。もちろん株価に対してもマイナスである。

ひとつのアイデアは、バイデン政権が目指している「人への投資」というやり方だ。現状では、”American Family Plan”と銘打った3.5兆ドルのインフラ投資案は、与野党間でもみくちゃになっているが、「働く人に投資する」という方向性は間違っていないはずである。

岸田氏は早い時期から「数十兆円の対策が必要」という大胆な言い方をしていた。総選挙後に、「人への投資」を含む補正予算を素早く、大きな規模で実施できるかどうか。そのことが、政権長期へのカギを握るのではないかと拝察している。

3 他に小渕恵三616日、竹下登576日、森喜朗387日、福田康夫365日がいる。首相にならなかった河野洋平氏は除く。また民主党からは野田佳彦482日がいる。

あわせて読みたい

「自民党総裁選」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    韓国で増えるコロナ新規感染者 日本との違いはワクチンか

    ニッセイ基礎研究所

    11月27日 09:38

  2. 2

    石破茂氏「核兵器の保有も白地的に議論される韓国の動向に日本は関心を持つべき」

    石破茂

    11月27日 16:18

  3. 3

    年収1000万円以上の世帯が4割超 東京23区の“超高収入エリア”は

    NEWSポストセブン

    11月27日 16:34

  4. 4

    代表選、実施されず。維新・臨時党大会を終えて

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    11月28日 09:28

  5. 5

    みずほ銀行における過去のシステム障害 当時の経営責任者は現NHK会長

    鈴木宗男

    11月28日 09:19

  6. 6

    ひさしぶりの良作なのにかわいそう…NHKが朝ドラ存続のために今すぐやるべきこと

    PRESIDENT Online

    11月27日 11:53

  7. 7

    現役世代への負担増、コストの高いクーポンばらまき…岸田内閣の経済対策は大問題だ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    11月27日 10:41

  8. 8

    小川淳也はホントに立憲の小泉進次郎なのか

    田中龍作

    11月28日 10:17

  9. 9

    ο(オミクロン)株は第6波になる可能性

    中村ゆきつぐ

    11月27日 09:39

  10. 10

    「イヤなことを連続でさせると無気力になる」。子どもの熱量を冷まさないで。(野田クリスタル)

    ベネッセ 教育情報サイト

    11月27日 15:23

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。