記事

千葉県弁護士会「法曹養成制度」見直し決議が持つ意味

 我が意を得たり、の発言や議事の結果に、弁護士会の議場でも、しばしば聞かれる「よしっ!」という参加者の声。それが、今、全国の弁護士の口をついて出ているのではないか、そんなことを想像させる2月8日に採択された千葉県弁護士会の「『法科大学院を中核とする法曹養成制度』の見直しを求める決議」です。

 既に弁護士のブロクでも取り上げられ(「弁護士 猪野亨のブログ」 「黒猫のつぶやき」 「Schulze BLOG」)、歓迎とともに、今後の動きに注目する声が聞こえてきます。まさに、クリーンヒットというべきです。

 法科大学院修了の司法試験受験資格化撤廃、司法修習2年への変更、給費制復活の直言です。既に受験資格化除外については、昨年6月、愛知県弁護士会も日弁連に対して提言する意見書を発表していますが(「愛知県弁護士会の正論と英断」)、千葉県弁護士会決議が求めているのは、政府、国会、最高裁判所に対してです。表現が適切かどうか分かりませんが、日弁連の頭越しに、弁護士会が法科大学院を中核とする、この「改革」が目指した法曹養成関連政策に、ノ―を突きつけた格好です。

 思うところは、前記弁護士ブログ氏の方々と基本的に同じで、言い尽くされている感もなきにしもですが、あえてここで取り上げておきたいのは、千葉県弁護士会がこの決議の冒頭で確認している基本的な話です。

  「あくまで、現に足りておらず、今後益々足りなくなるであろう法曹を、質を伴う形で多数輩出するための手段として、法科大学院が導入されたということは改めて確認しておかなければならない」

 法曹人口増員の必要性から導かれた法科大学院の導入。「増員ありき」の方針が、法曹界で長く記されてきた司法研修所教育を中心とした法曹養成の議論を、根底から覆し、一気に法科大学院構想になだれ込んだのは、紛れもない事実。最高裁関係者が、かつてもらしたように、それはもはや、その大方針の前に、「受け入れざるを得ない」という状況でもあったのです。

 それが決議も紹介する昨年4月の総務省「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価書」が指摘する通り、現在のペースで弁護士が増やすための需要は顕在化しておらず、供給過多がはっきりしている、つまり見込みは完全に外れた。そして、このことは、取りも直さず、根本的な法科大学院制度導入の大きな前提を意味するということです。

 実は、この基本の確認は、現在とこれからの議論を考えるうえで、非常に話を分かりやすくするものです。つまり、端的に言って、それでもこの制度を維持する、というのであれば、大きく二つの立場に依拠し、こだわる必要が出で来ることがはっきりするからです。

 一つは、それでも弁護士の激増(仮にペースダウンするにしても)は間違っていないという立場に立つか。それは需要が開拓によって、これから生まれるという見方かと、いや、供給過多がもたらす競争にメリットがある、という見方で支えようとするものです。

 もう一つは、あり得るとすれば、教育として法科大学院の存在価値を強調する立場に立つか。需要論と切り離し、法曹の数の必要性ではなく(あるいは現状の需要増見通しがないことを全面的に認めたうえで)、理念としてプロセスの教育が正しいと強弁するもので、当然、「予備校依存」等のお決まりの旧司法試験体制批判を羅列する形になります。

 結論からいえば、このいずれもが苦しい言い分であることは、実ははっきりしていることは、このブロクでもいろいろと書いてきたところです。ただ、彼らが、その苦しい言い分にしがみつかざるを得ない最大の理由が、やはり前記「改革」の大方針、つまり法科大学院導入の大前提が崩れていることにあるといえます。

 そもそも激増政策をやめることも、受験資格化を外すことも、それは即、事実上、現法科大学院構想の「息の根をとめるもの」というのが、多くの法科大学院関係者の認識です。だから、私が聞く限り、制度存続にこだわる関係者の本音からすれば、提言されても選択肢として、そもそもないような話なのです。従って、二番目の教育的価値で、その存続をかけて勝負する気ならば、なにも受験資格にこだわる必要もないではないか、といった「正論」には、耳を傾けるはずもない、ということになるのです。

 しかし、この法曹人口増員と法曹養成制度の一連の「改革」は、千葉県弁護士会の今回の決議が指摘するように、少なくとも法曹界が人材を確保するという目的において、すべて裏目に出た、いわばマイナス効果の方がはっきりしていることは認めざるを得ません。そこでは、この「改革」の真の目的を疑うことすらできますが、それを置いたとしても、その現状からすれば、前記3つの提案にたどりつくことは、当然の過ぎる話です。

 この現状を超えて、なお、この制度を続ける意味、価値が本当に存在するのか。千葉県弁護士会の決議は、もう一度、そのことを根本から問い直す契機としてとらえられていいように思います。

あわせて読みたい

「弁護士」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ホロコースト揶揄を報告した防衛副大臣に呆れ 政府のガバナンスは完全崩壊か

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月23日 10:46

  2. 2

    感染爆発は起こらないことが閣議決定されました

    LM-7

    07月23日 22:45

  3. 3

    天皇陛下の開会宣言に着席したまま…菅首相に「不敬にも程がある」と非難の声

    SmartFLASH

    07月24日 08:58

  4. 4

    不祥事続く東京五輪 大会理念を理解せず、市民の生活を軽視した組織委員会

    森山たつを / もりぞお

    07月23日 10:25

  5. 5

    累計8700億円「日本一レコードを売った男」酒井政利氏の〝武勇伝〟

    渡邉裕二

    07月23日 13:02

  6. 6

    機械オンチが「スマホ格安プラン」でつまづくポイントは? 「povo」に契約変更してみた

    NEWSポストセブン

    07月24日 08:45

  7. 7

    将来的に車検で印紙払いが廃止 キャッシュレス払いによる一括払いにも対応

    河野太郎

    07月23日 21:36

  8. 8

    バッハ会長“長過ぎスピーチ”で…テレビが映さなかった「たまらずゴロ寝」選手続々

    SmartFLASH

    07月24日 09:20

  9. 9

    橋本会長、「選手のプレイブック違反」証拠をお見せします 出場資格を取り消せますか

    田中龍作

    07月23日 08:33

  10. 10

    「BTSって誰?」今さら知らないとは言えないので、初心者が通ぶれる小ネタ集めてみた

    放送作家の徹夜は2日まで

    07月23日 08:07

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。