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イデ隊員は代役で回ってきたチャンス ウルトラマンで共演した二瓶正也氏を偲ぶ

BLOGOS編集部

ウルトラマンで共演していた俳優の二瓶正也が8月に亡くなった。80歳だった。ウルトラマンの科学特捜隊では俺がアラシ隊員で二瓶がイデ隊員。俺にとっては後輩であり科学特捜隊の仲間、よく飲んだり食ったりしたっけ。

二瓶は父親がドイツ出身でルックスは洋風のいい男だけど、飄々とした雰囲気があってコミカルな役がよく似合っていた。もう20年ぐらい前から役者業はやめてたんじゃないかな。その晩年、三谷幸喜さんのドラマで田村正和さんが主演した『総理と呼ばないで』にSP役で出てた。その縁もあって三谷さんが朝日新聞のエッセイで二瓶のことを偲んでたよ。

三谷さんも少年時代はウルトラマンに夢中でイデ隊員が好きだったんだ。そしてアラシ隊員も。俺と三谷さんは日大芸術学部の先輩後輩でもあるけど、このほど縁あって映画で共演したよ。天海祐希さん主演『老後の資金がありません』。10月30日に公開になる。二瓶にも見てほしかったかな。二瓶の訃報を受けて俺も読売新聞から弔文を頼まれて書いたけど、昔のことを色々と思い出すね。

編集部)ウルトラマンの撮影中、二瓶さんが台詞に書かれていた「兎に角(とにかく)」が読めなくて、マムシさんに読み方を尋ねたら「うさぎにつのって読むんだ」とウソを教えられ、それが原因で二瓶さんがNGを連発して監督にひどく怒られたエピソードを聞いたことがあります。

アハハハハハ、それはさ、こっちは軽い冗談で言っただけでさ、本番ではきちんと言うだろうと思ってたら、二瓶が本番で「うさぎにつの!」って言っちゃって、監督から「何言ってんだ、もう一回!」「うさぎにつの!」「違うだろ、もう一回!」「うさぎにつの!」って、監督は怒ってたけど俺たちは裏で大笑いだった(笑)。

二瓶はウルトラマンに出るまでは東宝で脇役だったんだ。ウルトラマンに出て名前が売れたんだ。ちなみに二瓶と東宝で同期だったのが古谷敏。ウルトラマンのスーツアクターだ。古谷は顔を出さないで演じるウルトラマンの中から同期の二瓶正也が顔を出して科学特捜隊を演じてる姿をうらやましく見てたそうだ。

ところが後年、日本の特撮が世界に認められてファンが広がると、アメリカではゴジラで主役だった東宝スターの宝田明さんより、ウルトラマンのスーツアクターだった古谷敏のほうが大人気になるんだ。人生はわからないもんだよ。その古谷もウルトラセブンでアマギ隊員になって顔を出して演じた時はすごく嬉しかったってさ。

イデ隊員は棚ぼたで回ってきた代役

Getty Images

話は戻って二瓶正也。実は元々、イデ隊員の役は当時すでに人気者だった石川進さんがやるはずだったんだ。石川進さんはダニー飯田とパラダイスキングのメンバーからソロになって、キューピーちゃんの愛称で歌手に司会に声優に売れっ子だった。

撮影が始まって石川さんも「これから仲良くやろうね」なんて言ってたんだけど、撮影に来たのは最初の1日だけで役を降りちゃったんだ。聞いたら所属事務所のナベプロが、人気者の石川進なのに撮影スケジュールの拘束時間は長いし出演ギャラが安すぎて割に合わないって、石川さんを引き揚げちゃったんだ。

それでイデ隊員の役が急きょ空いちゃって、東宝から二瓶が呼ばれたんだ。当時はテレビよりも映画のほうが格上だったから、映画に出たくて役者になった二瓶は内心嫌がってた。たとえ脇役であっても映画へのこだわりがあったんだな。だけど、ウルトラマンの放送が始まったらたちまち人気が出て、そうなると二瓶だけでなくみんなやる気になってたね。

つまり、イデ隊員は棚から牡丹餅みたいな代役だった。それが後世まで残ることになったんだ。

ウルトラセブンのアンヌ隊員も代役だった

ウルトラセブンのアンヌ隊員もそうだったよ。演じたのは菱見百合子(現・ひし美ゆり子)。アンヌ役は元々、東宝の女優である豊浦美子さんに決まってた。ところが急きょ豊浦さんご指名で東宝の映画出演が決まって、当時は映画のほうが重要だったからそっちへ行っちゃった。

東宝は豊浦さんの後輩である菱見百合子を代役に立てて、アンヌになった。ファンはよく知ってるだろうけど、アンヌ隊員の衣装って豊浦さんのサイズに合わせて作ったものなんだよな。すぐに撮影しなきゃならなくて衣装を作り直す時間もなかったから、豊浦さんより豊満な菱見百合子が着たらパツパツなの。

ところが、それが大人びた色気にもなってウルトラ警備隊のヒロインとしてアンヌが当たり役になったんだから、これまた棚ぼただ。俺は当時、彼女のふっくらした体型を「肉まん」って呼んでたから「棚から牡丹餅」というより「棚から肉まん」だな(笑)。

みんなは彼女のことを、アンヌさんとかひし美さんとか呼ぶけど、彼女の本名は「菱見地谷子」っていうんで俺はずっと「ちやこ」って呼んでるの。「ちやこ」こと、ひし美ゆり子、いまだに人気があるからすごいよ。若い頃に撮った写真で写真集が出たり、当時のヌードが雑誌のグラビアに出たりね。女優でそんな人なかなかいないよ。本人は今74歳だからね。可愛らしいオバちゃんだよ。

彼女は自分では「私が人気があるんじゃなくて、アンヌが人気があるのよ」って言うけど、それは渥美清さんが寅さんを演じていつまでも人気があるのと一緒だからね。役と役者が一体なんだ。ファンにとっては永遠にアンヌ隊員なんだよ。

そうそう、俺がやってるYouTubeの「マムちゃんねる」で、丁度ね、ゲストにひし美ゆり子を迎えてウルトラセブンの頃の話なんかしてる回が出たばかりだから、良かったら見てくれよ。


レーガン元米大統領も代役でブレイク

Getty Images

イデ隊員もアンヌ隊員も代役が当たったわけだけど、役者の世界ってそういう話が色々とあるもんだよ。ちょっと調べてみたんだけど――、

◎映画『カサブランカ』(1942年 アメリカ)、主演はハンフリー・ボガートでヒロインはイングリッド・バーグマン。映画ファンにはおなじみの名画だ。映画の準備段階でプロデューサーは主演をボギー(ハンフリー・ボガート)に決めていたけど、その一方で製作会社のワーナーも動いていて別の役者を主演にあてようとしていた。それがロナルド・レーガン。もしレーガンが主演していたら俳優としての人気がブレイクしてアメリカ大統領にはなれてなかったかもしれないね。

◎映画『傷だらけの栄光』(1956年 アメリカ)、これはプロボクサーのロッキー・グラジアノの人生を描いた一作。主演はジェームズ・ディーンに決まってたんだけど、撮影前に交通事故で死亡。代役がポール・ニューマンになった。

◎映画『ウエスト・サイド・ストーリー』(1961年 アメリカ)、主人公のマリア役はナタリー・ウッドが演じてるけど、これはオードリー・ヘップバーンにもオファーがあって、当時妊娠中で断ったそうだ。トニー役はリチャード・ベイマーだったけど監督はこの役にエルビス・プレスリーをイメージしていたそうだ。プレスリー側は台本を読んで「ギャングをナイフで刺すような役をプレスリーにやらせられない」と断ったらしい。

そうそう『ウエスト・サイド・ストーリー』をスピルバーグ監督がリメイクして12月に公開されるんだってね。こりゃ楽しみだな。

◎映画『ダーティハリー』(1971年 アメリカ)のハリー・キャラハン刑事と言えばクリント・イーストウッドの当たり役だけど、これも主演候補としてそうそうたる名前が挙がっていたって。フランク・シナトラ、ジョン・ウェイン、スティーブ・マックイーン、ポール・ニューマン。

日本でも今年夏に公開された山田洋次監督の『キネマの神様』は、急逝してしまった志村けんさんの代役で沢田研二さんが主役を演じたんだよな。

寄席で鍛えられた立川談志の代役

共同通信社

俺自身、代役で思い出すのは寄席かな。若い頃の話だけど立川談志が寄席を休演すると代わりに頼まれてよく寄席に出たよ。落語ファンは談志を目当てに来てるからさ、そこで高座に出ていくのはプレッシャーだったな。

だからいつも以上に客を沸かせてやろうって気になったよ。談志は見られなかったけど毒蝮が良かったって言われるようにね。そういう逆境で鍛えられたって確かにあった。自分目当てではない客を相手にするのがいちばん鍛えられるからね。

代役とか代演とかって、急なことで逆境でもあるけど、それを乗り越えた時の評価は高くなるからチャンスでもあるんだよな。

ドラマに映画に舞台、エンターテインメントの世界だけでなく、永田町方面でもいい代役がどんどん出てきてほしいと願う、そんな今日この頃だ。

(取材構成:松田健次)

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