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居酒屋メニューの定番「ソウルフード」をめぐる偏見とは 〜『被差別のグルメ』上原善広氏に聞く【止まり木の盛り場学 第12回】

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予約が取りづらいといった支障をきたしながらも、進みつつあるワクチン接種。ようやく光明が差し込んできたかに見えるコロナ禍。我慢していた飲み歩き解禁まで指折り数える、四十男のこの二人。かえすがえすも再会したい居酒屋メニューたち。焼肉、腸詰め、ホルモン、餃子は元気にしているだろうか…。

フリート横田・渡辺豪

こうした居酒屋定番のメニューの歴史を紐解けば、社会的少数者が移住先で故郷を思い、ルーツを忘れまいと愛食してきたものであることは少なくない。

今回は、差別という苦難の歴史を歩んできた階層や民族が独自に守り通してきた食文化を取り上げたノンフィクション『被差別のグルメ』『被差別の食卓』を著作に持つ上原善広氏を招き、ソウルフードをはじめとした食文化から、現代の飲酒カルチャーまで話を伺った。

渡辺:今日は『被差別のグルメ』などを著作に持つ上原善広さんにソウルフードについてお話を伺うということですね。

横田:はい。今からお会いするのが楽しみですね。ホルモンをはじめとする肉食文化などは、代表的なものとして語られることが多いので、そのあたりもお聞きしたいと思っています。

渡辺:日本では、肉食文化は明治以降に広まった、と紹介されますよね。しかし、日本全体へ波及した時期は別としても、その背後には、長い時間を掛けて被差別民やアイヌ民族をルーツに持つ人たちが肉食文化を守っていました。

横田:外国人との交流もまたありますよね。とくに牛肉食については、ご実家が食肉卸業をされていた上原さんはそのあたりよくよくご存知だと思います。牛の腸から油脂を取るときに余ったもの、これが転じて「アブラカス」になったと上原さんのご本にありましたが、それを入れたうどんを初めて関東で展開したお店で、お話を伺ってみましょう。

ソウルフードのルーツがわからなくなるのは「よいこと」

渡辺・横田:こんにちは。今日はよろしくお願いします。

上原善広氏(以下、上原):よろしくお願いします。

かすうどんがここまで一般化するとは驚きだったと話す、上原善広氏。

横田:こちらのお店は東京では珍しい「かすうどん」を看板にかかげておられるお店です。大阪出身の上原さんも、地元ではかすうどんを食べていたのでしょうか。

上原:大阪の藤井寺にあるKASUYAさんの本店にはよく行きました。20年近く前に取材したこともあります。「あぶらかす」も国産のものが本当はいいのですが、ここの社長は内臓肉をカナダなどに直接、買い付けに行って自営の工場で作っていらっしゃいましたね。

渡辺:最近はカップラーメンの具材にも使われていますね。

上原:え?!本当ですか。知らなかった。

渡辺:ルーツを意識した「ソウルフード」扱いすることもなく、純粋に美味しいものと扱われてきつつあるように思います。

上原:一般に広まって、ルーツがわからなくなっていくのはよいことだと思います。同和地区への偏見の解消にもつながっていくと思います。

横田:その土地だけで料理を守るよりも、広めてしまって社会全体で認識して、皆で守っていくほうがいいということでしょうか?

上原:地区以外で食べられるにしても、一部のマニアックな人の食べ物にならないほうがいい。食文化以外にも路地(同和地区)を巡る問題や、その情報もさらにオープンになって、何でも言って広がっていくのがいいと思っています。アイヌにおける漫画『ゴールデンカムイ』のようなエンタメにまで昇華されるというような。だけどぼくの力不足もあって、まだまだそうはなっていない。

独特のコクと甘みが魅力のKASUYAさんのかすうどん。脂身も一緒に炒り上げている点が特長のようだ。

ロマのソウルフードから感じた「他者を寄せつけない」強烈さ

渡辺:上原さんは、中上健次が被差別部落を指すときに用いた文学的表現「路地」に倣って、そう呼んでいますね。ご著書『被差別の食卓』では、日本国内に留まらず、世界の虐げられた歴史を持つ人々を訪ね、実際にいろいろなものを食べられています。「これが一番強烈!」と記憶に残っているものはありますか?

上原:ハリネズミですね(笑)。ブルガリアのロマが食べていました。ハリネズミのことは、他の人に話すとウケがとてもいいので。ただ個人的には、同じブルガリアのロマが食べていた「トマス」と「トラハナ」という、味噌のような食べ物が興味深かったですね。

ハリネズミに空気を入れて解体しようとしているロマの青年。写真提供・上原氏

横田:ロマはインドを発祥とする人々で6〜7世紀頃にヨーロッパへ移動してきて以来、一つの国に定住せずに移動しながら暮らしてきましたよね。ヨーロッパ人からは異世界の人のように見られていた。過去にはナチスのホロコーストの最大の被害者にもなりました。独特の食文化があったとは思いますが、味噌みたいなものがあったとは…

上原:地下室に置いたバケツの中で、特定の木の枝などを発酵させて味噌みたいにした食べ物なんです。お湯に溶かしてスープにして、そこにパンや小麦粉の団子をぶち込んで食べる。発酵させた調味料を溶いてスープにするところは、まったくの味噌汁だったからびっくりしましたね。ロマ自身の話では、五百年前にブルガリア人が食べていたのをロマが受け継いだもので、数百年の間にブルガリア人は次第に食べなくなってしまったので、現在はロマしか食べなくなったということでしたが、そういう歴史も面白い。

トラハナ。これを湯で溶いてスープにする。写真提供・上原氏

渡辺:やっぱりまずく感じるものなんでしょうか・・・?

上原:食べつけないので、味としてはそうですね。でも、その「他者を寄せつけない」強烈さが魅力なんです。また、食べなれていけば大丈夫になるとは思います。かすうどんだって、ぼくの家族は気味悪がって今でも食べない(笑)。でも世間でブームになれば一般的には広がっていくということが、かすうどんの一件でわかった。

「ソウルフード」という言葉が持つ本当の意味

渡辺:上原さんが用いるソウルフードの定義には「食べることで人から差別される料理」とありました。

上原:そうですね。食べていると人から「なんだそれ?」となって、下に見られてしまうものがソウルフードの定義です。ただ、逆にそれを食べているのが鍵になって「そうかお前も出身はそこか」となることもあります。だから差別というか、偏見をもたれる食べ物なんだけど、同じルーツの人同士は一瞬でつながれるのが本当のソウルフードです。「キー・フード」と言っていいような。ぼくの体験でいうと、高校のとき「ホソ」という牛の小腸をカリカリにして塩をまぶした酒の肴を教室に持ってきて食べている同級生がいて、「お前のうちどこや?」と聞いたら、近くの街の路地(同和地区)の子だった、とかね。

横田:ソウルフードは、他の土地の人が食べると「まずい」、こうお書きになられていたのも印象的でした。最近私もソウルフードをテーマにある土地だけで食べられている食べ物のエッセイを書きましたが、それは普通に美味しい(笑)。上原さんのおっしゃるのはそういうものとはまったく別の、その土地の暮し方が規定してくる食べ物、というものですね。

上原:その点が本物のソウルフードと、単なる地元料理との違いだと思うんです。例えばホルモンなんかまさにそうですね。元々は独特の臭みがありましたから。やはり他者を寄せつけないものを持っていたけど、今は人気がある。

渡辺:最近は、ホルモンが苦手な人も少なくなった印象です。背景には食肉の加工技術が進歩して、料理としても洗練されつつあるんでしょうね。私は最近使われがちな「ソウルフード」は、センシティブな問題を回避するための方便として使われすぎかな…といった印象も持ってます。

上原:ぼくも以前は、寿司や味噌汁が「日本人のソウルフード」とか言われているのをテレビで見かけると「ソウルフードの意味は、本当はそうではないのにな」と思っていました。でも今はどうでもよくなりました(笑)。それより料理として広がっていくことが大事だと思うようになったからかな。


路地のソウルフードの一つである燻製料理「サイボシ」の製造風景。かつては牛肉だったが、現在は馬肉が用いられる。日本版ビーフジャーキーともいえる。

結局、焼肉は誰が作ったのか?

横田:私は飲み屋街の起源などを本に書いたりしておりますが、キーマンとして在日コリアンの人達がよく登場します。私の理解でも、ものの本にも「焼肉は在日コリアンが作った」とありますが、上原さんの見立ては少し違うんですよね。

渡辺:国内の食肉産業は路地系が握っていたので、在日コリアンが路地へ買いに来ていた、つまり両者がいて初めて、今の日本で当たり前に食べられている焼肉がある、と『被差別の食卓』ではお書きになっています。

上原:そうです。今でも焼肉屋で料理を見れば、そのお店が日本系か在日系か、すぐにわかるんですよ。

横田:ルーツだけでなく、その後分岐して発展してきたとは気付きませんでした。なにか調理法などで違いがあるんでしょうか?

上原:例えばテールスープは、透明だったら日本系、白濁したコムタンスープだったら 在日系とかですね。

渡辺:ええ〜!まったく意識したことがなかったです。

上原:白濁するのはチェーンソーで骨を切断して文字通り骨の髄まで出汁を取るからですね。日本人にそういう発想はなかったみたい。だから融合したというよりは、いいところをお互いマネしあった、という感じなのかなと思っています。

横田:そういった内臓肉の食べ方も、かつてはあまり研究されてこなかった、避けてきたのではとお書きなられていますよね。盛り場の歴史を追うこととかなり似ているなと思いました。同じか近い人々によって形作られてきましたし。

昭和も終わり世代交代が進み、以前とは土地に住む人の構成、空気が変わっている。「境界」が薄くなっていると思います。このことで、世代交代によってフィールドワークで土地の説話を得にくくなっているのと同時に、聞きやすくもなっていると思います。そのとき、ソウルフードは言葉を越える鍵になれるのかなと思います。

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