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「転職前提社会はもう始まっている」 - 「賢人論。」第148回(前編)村上臣氏

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「終身雇用」は神話になった。特に今の若者世代には「終身雇用」という概念自体ない人が多い――。こう語るのは、7億7,400万人が利用するビジネス特化型ソーシャルネットワーク、LinkedIn(リンクトイン)日本代表の村上臣氏だ。村上氏は、日本のインターネット普及に大きく貢献した人物で、元ヤフーの執行役員兼CMOでもある。時代の変遷と常に向き合ってきた村上氏に、日本の「働き方」の過去・現在・未来を伺った。

取材・文/みんなの介護

日本型雇用は終わりを迎えつつある

みんなの介護 これまで日本社会が抱えてきた働き方の問題には、どのような背景があるとお考えですか?

村上 今日までの日本の働き方には、基本的に戦後復興のために確立されたやり方が残っています。この頃、製造業を中心として日本は経済成長しました。その過程でいわゆる「日本型雇用」が確立されたのです。

一例を出すと、工場のラインを動かすためには、全員が朝9時に集まらないといけないわけです。そして、終業までの決められた時間内で作業効率をあげるために、ときには自分の役割を越えて、一人ひとりがいろいろなことを手伝う必要が出てきます。このように、みんなが決められた時間一つの目的に向かって仕事をするのが、日本型雇用の特徴です。

また、そのために「新卒一括採用」というものができました。これは、学校を卒業したら一斉に正社員として働く制度です。

新卒一括採用では、それまでの経験は重視されず、「仕事は入ってから覚えれば良い」という風潮がありました。また、一生雇用を保証してくれるものと考えらえていました。今の労働の仕組みも基本的にこのような「日本型雇用」が主流です。

一部はジョブ型雇用になっていますが、中途採用にも日本型雇用の傾向があり、「どんなことをするか」よりも、まずは人を雇って、「その人に何をしてもらうのか」を考えます。

このような考え方が今も残っているのは、世界広しと言えども日本だけです。私は、これからは、こういった考え方そのものが変わってくると思っています。

「働き方改革」で選択肢が広まった

みんなの介護 近年では「働き方改革」が叫ばれるようになりました。その要因は何だと思われますか?

村上 1つは、アベノミクスです。安倍前政権下では「一億総活躍社会」という理念を掲げて、誰もが生きがいを感じられる社会をつくろうとする動きが起こりました。

同時期、人口動態的に人材不足の加速が予測される中、2つの対処法が推進されました。1つは、海外からの労働者を迎え入れることで人材不足の解消を目指すこと。例えば、ベトナムからの農業技能実習生の受け入れ制度です。これにより、実質的に移民を増やしたわけです。

2つ目は、「働けるのに働いていない人」に働いてもらうこと。この対処法の中心にくるのが、いわゆる「女性活躍」です。日本は、結婚を機に退職して子育てに集中し、労働市場に戻って来ない方が大勢いらっしゃいます。

「1日4時間までなら働ける」というような方は多いのですが、このような方が従事する仕事にミスマッチが起こっています。なぜなら、スーパーマーケットなどでパートとして働くようなケースが一般的だからです。

このような方々がもっと好きに働くことができれば、さらに労働人口が増える。そんな考えから、「女性活躍」の推進に注目が集まり、時短勤務が可能な企業が増えるなど、柔軟な働き方が広がっていきました。

介護や保育も「女性活躍」の意識が高まる業界です。なぜなら、有資格者の方が結婚を機に退職して戻って来られないのは、働き方が合わないことに理由がある場合がほとんどだからです。それならば、「働き方を変えれば戻ってきてくれるのではないか」ということで始まったのが「働き方改革」です。

また、働き方を変えることで、現在進行形で残業などに悩んでいる人たちも、より生産性が高まると考えられました。

この「働き方改革」の取り組みが始まって6年ほど経ち、多くの企業で働き方が変わってきたと思います。

みんなの介護 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで変化は加速したと思いますか?

村上 インパクトのあった業界と、そうでない業界がはっきり分かれたと思います。例えば、IT企業やデスクワークが中心の企業などは、リモートワークを取り入れることで対応ができています。

しかし、旅行や飲食業など、売上そのものが蒸発してしまった業界は、かなり苦しい思いをしたり、廃業に追い込まれたりしているところも多いです。例えば観光業をしていたある企業は、売上がとても伸びていました。しかし、新型コロナの感染拡大で一気に外国人の観光客がいなくなって売上がなくなるなど、いろいろなことが起きました。

「先のことはもう誰にもわからない」というのが、この1年間でみなさんが思ったことだと思うのです。

また、その企業で働いていた人は、失業したり、ほかの業界への転職を考えたりしました。しかし、実際に転職をした人数はそこまで増えていない状況ですので、そこにまだギャップがあるのです。

これは、「勉強してほかの業界に移ろう」と考えた方が、まだ思うように動けていない現状があるからです。そのような方々が、職業訓練やeラーニングなどを使って、新しく伸びている業界に移っていこうとする動きが、ますます加速していくと予測しています。

みんなの介護 このような状況において私たちはどのような考え方を持つべきでしょうか?

村上 今自分が働いている会社が、突如外資に買収されたり、いきなり潰れたりすることも起こります。そのため、「明日、急に何かが起こるかもしれない」と思って、日々心構えをしておくことが大切です。

また、外から突然変わることを要請されてから動くよりは、自分から変わった方が楽です。「何かが起こった場合、市場において、自分のスキルや経験はどのように生かせるのだろう」と考えておくと良いでしょう。

みんなの介護 これからはどのような働き方に変わっていくと思いますか?

村上 企業側は、人材不足が極まってきています。例えばIT業界では、最近できたデータサイエンティストやカスタマーサクセスのような職業は、人が足りなさ過ぎて求人倍率が8倍まで跳ね上がっています。優秀な人材が取り合いになる状況が続いています。

一方で人余りが叫ばれている業界もあります。そのようなミスマッチもあり、今までにないダイナミックな労働移動が起きつつあります。

最近では、「未経験でもOK」という求人も増えてきています。ジョブ型ではありますが、「この人はうちの会社で力を発揮できそう」と採用側が判断すれば、3ヵ月~半年ほどの研修期間を設けて育てていく企業が増えています。これまでの「中途採用は即戦力しかダメ」という根強くあった考え方が、かなり緩んできているのです。

リンクトインでは「カルチャーフィット」という言葉を使っていますが、「経験者かどうか」よりも、「会社の文化に合いそうか」「働き方がマッチしそうか」というところで応募者を見る動きが企業側に出てきています。

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